実践演習の後の長期休暇
僕達がダンジョンの外に出ると、何やら複数の鎧の音が聞こえた。
ガシャ ガシャ ガシャ
「王女殿下!ご無事でしたか?」
「お~い!王女殿下がいらっしゃったぞ~!」
すると、兵士達と学院の先生達が慌ててやってきた。カレン先生が泣きそうな顔で言ってきた。
「お前達!今までどこにいたんだ?」
「えっ?!演習でダンジョンを攻略していたんですけど~。」
「攻略?!もしかして、お前達は5階層まで踏破したのか?」
すると、シャリーが不思議そうな顔で聞いた。
「そうですけど。どうしてですか?演習は5日間かけて踏破する計画ですよね?」
「何を言ってる!お前達は馬鹿か!この演習は1階層を5日間かけて攻略する計画だろうが!」
僕達5人は愕然とした。すると、カレン先生が呆れたように言った。
「お前達は一体何を聞いていたんだ!確かにこのダンジョンは初心者向けのダンジョンだが、ここに入るのを許されるのはDランク以上の冒険者達だけなんだぞ!」
「まあまあカレン先生。無事に帰ってきたんですから、良かったじゃないですか。」
ジムニット先生がカレン先生をなだめてくれた。カレン先生も少し冷静になったようだ。
その後、僕達は先生達に連れられて学院長室に呼ばれて少しお説教を受けた。そして、それぞれ家に帰ることが許された。学院は3週間ほど演習休暇だそうだ。
「アスラちゃん。聞いたわよ。ダンジョンを踏破したんですって?大丈夫だったの?」
お父様は不安そうな顔で聞いていた。
「大丈夫です。みんなに気が付かれないようにしましたから。」
「そうか。ならいいが、以前も言った通り目立たないようにしなさい。」
「はい。わかりました。」
演習が終わってから3週間は学院が休みだ。僕は暇を持て余していた。すると、ランがやってきた。
「アスラ兄ちゃん。今日は暇?」
「ああ、暇だよ。」
「なら、お母さんと一緒に街にお買い物行こ!」
「いいよ。」
オレはミレイさんとランと3人で街に買い物に行くことにした。
「申し訳ありません。アスラ様。」
「いいんですよ。ミレイさん。どうせ暇にしていましたから。」
ランはすっかり女の子らしくなった。以前の面影はもうない。僕の右手をしっかりと握っている。商店街を歩いていると、以前にランが問題を起こした店の前に来た。ランが僕の後ろに隠れるようにした。
「大丈夫だよ。ラン。」
「でも、あのおじさんが二度と来るなって!」
「あの時のランと今のランは別人なんだから。」
隣ではミレイが困った顔をしていた。僕は敢えて果物を売っているその店に入った。
「いらっしゃい。あっ、あなたはあの時の・・・あの時は申し訳なかったです。女房と喧嘩して気が立っていたもんですから、あの子にも悪いことをしちゃったなって後悔してるんですよ。後で女房に思いっきり叱られましたよ。『病気の母親のことを気遣うようなけなげな子を何で怒るのよ!義理も人情もないあなたとは離婚だ!』ってね。」
「そうだったんですか~。・・・・ほらな!おじさんも怒ってないだろ?」
オレの後ろに隠れていたランが顔を出した。すると、ミレイさんが店主に頭を下げた。
「うちの娘がご迷惑をおかけしても仕分けありませんでした。」
「おじちゃん。ごめんなさい。」
「えっ?!」
店主は驚いたようだ。それもそのはずだ。母親のミレイさんは貴族の家で働く女中だ。身なりがしっかりしている。それに、男だと思っていたランが可愛らしい女の子だったのだ。驚くのも無理はない。
「母親のミレイさんもランもホフマン伯爵家で働いてもらっているんですよ。」
「そうなんですか~。」
店主はランの目線まで腰をかがめて言った。
「あの時は怒って済まなかったな~。許しておくれ。」
「うんうん。私がいけなかったの。人のものを盗もうとしたんだから。でも、もうしないよ。」
「こんなにいい子をなんで俺は怒ったりしたんだろうな!自分が嫌になるよ!」
「もう終わったことです。いいじゃないですか。それよりも、今日は買い物に来たんですよ。」
「そうかい。ならお詫びに安くしておくよ。好きなものを買ってくれ。」
オレ達は果物を買って店を後にした。
「ありがとうございます。アスラ様。」
「えっ?!何がですか?」
「ランのためにあの店にいったんですよね?ランの心の傷が癒えるように考えて下さったんですよね?」
「ランが歩けない通りが出来たら困るからね。」
それから3人で商店街を回っていろいろ買い物をして帰った。因みに僕のお小遣いでランにも服を買ってあげた。ランは僕に抱き着いて喜んでくれた。
“アスラ!あなた妹が欲しくなったんでょ?”
“別に~。”
“伯爵にお願いでもしたら!”
“リン!何言ってるんだ!”
“冗談よ。冗談。”
この長期休暇は僕にとっても重要だった。空いてる時間は街に出かけると言って、転移でロッテンシティーの郊外の森に行っては魔法の訓練をしたり、魔物を狩ったりしていたのだ。以前に比べてさらに魔力量も増え、かなり強力な魔法まで使えるようになっていた。
その頃、王城ではビクトリ国王とユリウス公爵が国王の執務室で面談していた。
「陛下!バッハ侯爵とロベルト辺境伯の素行は、もはや見過ごすことができませんぞ!」
「わかっているのだ。公爵よ。あやつらが未だにこの国の貧しい民を奴隷として帝国に売り渡しているのは。」
「ならば、なぜ放置なさるのですか?」
「今、この国で内戦が起これば間違いなく帝国が出てくるだろう。そうなればどうなる?この国は帝国の餌食となり、国民は帝国と同じように軍役を課せられ、すべての自由を取り上げられるのだぞ。」
「ですが!」
そこに、騎士団長がやってきた。
「陛下!急ぎの用があってまいりました!これはちょうどいい。公爵殿もいらっしゃいましたか。」
「何事だ?ロビンソン!」
「はい。只今密偵より使者がきました。いよいよ貴族派閥が挙兵したようです。」
「それは誠か?」
「はい。」
「騎士団長殿。相手の兵力はどのくらいですか?」
「言いにくいのですが、この国の北側と西側の貴族達が同調したようで、その数5万です。」
「5万?!大群ではないか!」
「はい。」
「ロビンソン。こちらの兵力はどうなっておる。」
「はい。王族派の貴族に出兵を促したとして、恐らく7万というところでしょう。ですが、今からですと、貴族派達が王都に来るまでに到着できるのはせいぜい3万程度です。」
「わかった。すぐに王族派の貴族達を城に集めろ!」
「ハッ」




