世界の平和のためにオレはいる!
サモンとルークスが倒されたのを見て、竜王がニタリと笑った。
「馬鹿どもが!」
「お前は部下が殺されても平気なのか!」
「強いものが生き残る!それが世の理だ!弱者を哀れんでどうするのだ!俺様が貴様を倒せばすべて終わりだ。」
竜王の身体からドス黒いオーラが溢れだしていく。そのオーラが黒竜へと姿を変えていく。
「黒龍?どうしてお前が黒竜を生み出せるんだ!」
黒龍はかつてオレの人生を狂わせた存在だ。それに黒龍はオレから生み出された存在だ。なのに、今目の前にいる竜王から黒龍が生まれようとしているのだ。
「ハッハッハッハッ お前は何も知らないようだな!ガイア!」
「貴様は何者だ!」
「俺は竜王だ。今はな。この役立たずの身体を使って貴様を消滅させてやるよ。」
神界の何者かが竜王の身体を乗っ取っているのは明らかだ。だが、それが誰なのか分からない。恐らく、本物の竜王はすでに死んでいるのだろう。
「貴様が誰かは知らんが、この世界の平和を乱すのもならオレの敵だ。この手で成敗してやるよ。」
オレは神気を完全開放した。すると天から神々しい光の柱がオレに降り注いだ。
「行くぞ!ガイア!」
目の前にいた竜王が突然消えた。そして、オレの背後に現れ滅死剣を振った。オレはそれを背中の剣で防いだ。
カキン バシッ
地面に亀裂が走った。
「みんな。こっちに来て!2人の戦いに巻き込まれるわ!」
リンがみんなを呼び寄せ、自分達の周りに強力な結界を張った。オレはそれを見た。これで安心して戦える。
「行け!黒竜!」
黒龍が大きな口を開けてオレに向かってくる。恐らく、オレが黒竜を相手にする隙に竜王は攻撃を仕掛けてくるつもりなのだろう。
「面倒だな。」
オレが手を天に向けると光が集まり始め、徐々に巨大になっていく。そして、巨大な光の龍、光龍が現れた。
「さすがだな。ガイア!」
光龍が黒龍に襲い掛かる。光龍は身体から眩しい光を放ちながら黒龍に絡みついた。そして、黒龍の首に噛みつきながら虹色の光線を放った。
グワッー
黒龍の頭が身体から斬り落とされ、黒い靄のようになって消えていった。
「後がお前だけだ!」
「フフフ これからが本番だ!」
竜王が両手を広げて何かぶつぶつ言っている。すると、空中に黒い霧が現れ、そこに今までオレ達が討伐してきた者達が姿を現した。オレの目の前には、悪魔族のマモンの姿もあった。竜王に乗り移っている者の正体は、死んだ者達を呼び寄せることができる存在だ。
「まさか!お前は冥府神ハデスか!」
「ハッハッハッハッ バレたならしょうがないな。」
竜王の身体がドロドロに溶けていく。そして、黒い光が眩しく光り、そこに黒い衣をまとった男が現れた。
「何故だ?ハデス!」
「俺は昔からお前が嫌いだったのさ。考えてみろ!最後に現れたお前が創造神様やナデシアに可愛がられている。おかしいだろう。この世界を必死になって作ったのは俺や他の神が身だ。貴様はこの世界ができた後に現れた。なのになぜ貴様が特別扱いされるのだ!それは、貴様が俺と違って創造神とナデシアによって生み出された存在だからだ。わかるか!この悔しさが!だから、俺達が作ったこの世界を終わらせるのだ!」
「もしかして、オレが黒龍を生み出すようになったのはお前の仕業なのか!」
「今頃気が付いたか!お前がこの世界を破壊すれば、創造神様もナデシアも考えを改めるだろうと思ったのさ。無駄だったがな。」
オレは前世で妻だったマリアのこと、今世でオレを守って死んでいった両親のこと、すべてを思い出した。すると、全身から怒りが込み上げてきたが、自然とその怒りがハデスへの哀れみに変わっていった。
「ハデス!哀れだな。今楽にしてやるよ。」
「できるものならやってみるがいい。この数の敵を相手にそんなことができるかな。」
オレに殺された者達がオレに攻撃をしようと近づいてきた。先頭にいるのはマモンだ。オレは魔法を唱えた。
「この世のすべてを愛せ!『アフェクショネイト』」
すると、空から放たれたオレンジ色の温かい光が地上のすべてを照らし始めた。目の前にいたマモンの目から光るものが流れ落ちた。そして、マモンをはじめとしてオレの前にいた亡霊達がどんどん消えていく。
「ハデス!貴様を成敗する!行くぞ!」
ハデスが滅死剣を握り締めた。オレは背中の剣を抜いてハデスに斬りかかった。ハデスが剣でそれを防ぎとめたが、滅死剣がどんどん薄くなっていく。ハデスは驚いて後ろに避けようとしたが、オレの剣がハデスの右腕を斬り落とした。
グハッ
「何故だ!」
「お前の持つその滅死剣は、創造神様がオレに与えて下さったものだ。お前のようにこの世界の平和を乱す神が現れた時、その剣で成敗するようにな。」
「ま、ま、まさか!そんなバカな!」
オレは存在が消えかかった滅死剣を引き寄せて手に持った。すると、滅死剣は眩しく光り始めた。
「終わりだ。」
オレは滅死剣をゆっくりと上から下に振り下ろした。すると、離れた場所にいたハデスの頭から線がはいっていく。
「ば、ば、ばかな!神であるこの俺が滅ぼされるとは・・・」
ハデスは光の粒子となって消滅した。
「終わったな。」
オレが地上に降りて元の姿に戻ると、そこにリン達が全員でやってきた。
「終わったわね。アスラ。」
「ああ。長かったよ。」
「そうだな。」
「うん。」
さすがに疲れた。オレがその場に座るとみんなもオレの周りに座った。どれほど時間がたっただろうか。頭の中に今までのことが勝手に思い出されていく。すると、目の前に突然巨大な光が現れた。それが何なのかオレにはすぐにわかった。
「ナデシア様。」
巨大な光は最高神ナデシア様の姿に変化した。オレやリン達は片膝をついた。ライジン達は平伏して地面に頭を付けている。
「ガイア。終わったようですね。」
「はい。」
「見ていましたよ。ハデスがあんな風になってしまった原因は、私にもありますね。」
「いいえ。違います。ナデシア様。ハデスは心が弱かっただけです。彼は神として未熟だっただけです。」
「そうですね。それにしても、あなたは成長しましたね。他者に対して怒りの感情を持つことがなくなり、哀れむことができるようになりました。もう修行も終わりですね。」
「いいえ。ナデシア様。オレはまだまだ未熟です。もうしばらく地上で修行させてください。」
「リンやマロン、ミコトはどうしますか?神界に来ますか?」
するとリンとマロン、ミコトは口をそろえて言った。
「アスラと一緒に修行します。」
「そう。わかりました。なら、そうしなさい。」
ここでオレはナデシア様にお願いがあった。
「ナデシア様。竜人達のことですが。」
「わかってますよ。アスラ。竜人達も他の種族と交流させたいのですよね。」
「はい。今の竜人達なら大丈夫です。」
オレとナデシア様の会話をライジンもドラクも涙を流しながら聞いていた。
「ライジン!ドラク!これから結界を解除します。竜人族の国を作って、あなた方二人が協力して治めなさい。わかりましたね。」
「は、は、はい!」
ナデシア様はニコニコしながら消えていった。ナデシア様の姿が完全に消えた後、ライジン達がオレに平伏してきた。
「慈愛神様!ありがとうございました!このご恩は一生忘れません!」
「ライジン!ドラク!これからが大変だぞ!みんなを説得して、人族や獣人族、エルフ族、すべての種族と仲良くしないといけないんだからな。」
「大丈夫です!安心してください。」
「そうか。任せたぞ!もし困ったことがあればオレに連絡をくれ!すぐに駆け付けるから。」
「ありがとうございます。」
オレ達は王都に戻った。新たな王にライジンが着き、ドラクが宰相となって新たな『竜王国』を建国することになった。その建国の様子を見守ってオレ達は竜王国を後にすることにした。
「アスラ!これからどこに行くの?」
「そうだな~。気の向くままどこか行こうか。」
「アスラ!私はお前に出会えて幸せだぞ!」
ミコトがオレの右手に抱き着いてきた。
「ミコト姉!ずるい!あたしだってアスラ兄に出会えて幸せなんだから!」
今度はマロンがオレの左手に抱き着いてくる。
「いいわ。今日はあんた達2人に譲るわ。でも、アスラの正妻は私なんだからね。それだけは譲らないわよ。」
「わかってる。」
「うん。」
オレ達は4人で再び世界中を旅することにした。不老不死のオレ達にとっては、この度も一瞬の出来事なんだろうけど。
————— 完 ———————