決戦(2)
竜王の命令する大きな声が響き渡った。すると、オレ達に対して腰が引けていたドラゴン達が一斉に襲い掛かってきた。オレ達は散り散りになって迎え撃った。さすがにドラゴン化した竜人達は強い様だ。先日のワイバーンの時よりも時間がかかっている。
『疾風斬』
ミコトの刀がドラゴンに直撃する。ドラゴンの硬い皮膚は一度の攻撃では致命傷にならない。ミコトが弱ったドラゴンにさらに攻撃をした。
『斬切剣』
ズバッ
2度目の攻撃で頭が斬り落とされたドラゴンが地面に落下した。その間も他のドラゴンがミコトに攻撃を仕掛けている。ミコトは結界を張って炎のブレスを防いだ。
一方、マロンも同じだ。マロンが光魔法で攻撃するが、ドラゴンの硬い皮膚で致命傷にはならない。相手の攻撃を避けながら何度か攻撃してやっと倒している。
「アスラ!さすがにドラゴンは手ごわいわ。私は大丈夫だけど、ミコトやマロンは結構疲れてるみたいよ。ドラクなんか、もうぎりぎりなんだから。情けない。」
「わかったよ。まだ半分か~。残りはオレが討伐するよ。みんなに下がるように言ってくれ!」
「わかったわ!」
リン達がその場から離脱していく。オレは神力を込めて魔法を発動した。
「すべてを焼き尽くせ!『メテオール』」
すると、空が急に明るくなり、真っ赤に燃え上がる隕石がまるで雨のように地上に向かって降り注いだ。空中にいたドラゴン達は、隕石に打たれて次々と地上に落下していく。辺り一帯には、生き物が焼けた臭いが充満した。まるで地獄絵図だ。
「やっぱりアスラさんは神だったんですね。」
「ドラク!今頃何を言ってるのよ!」
「いや~。これほどの魔法はみたことがないですから。」
あたり一帯は煙と蒸気、それに土埃でうっすらとしか見えなくなった。だが、オレの魔力感知には3つの魔力が感じられた。どうやら、竜王と四天王は生きているようだ。
「まだ終わってないよ。竜王、それにサモンとルークスは生きているみたいだ。」
「まさか~。あの攻撃で死なないなんて、どういうことだ?アスラ!」
確かにミコトが言う通りだ。オレが放った魔法は神級の魔法だ。耐えられるものなど地上にいるはずがないのだ。そんなことを考えていると、不気味な笑い声が聞こえてきた。
「ハッハッハッハッ そんなに驚くことはなかろう。」
煙の向こうに竜王とサモン、ルークスの姿が見えた。人の姿ままだ。
「あの魔法の中を良く生き延びたな。」
「そうだな。この剣がなければ死んでいただろうな。」
竜王がオレ達に手に持っている剣を見せた。剣からは神聖なものが感じられる一方で、邪悪に満ちた黒いオーラが溢れ出ていた。どこか見覚えのある剣だ。
「その剣は・・・まさか・・・」
「さすが慈愛神だな。そうさ。この剣は神をも殺すことのできる『滅死刀』だ。」
「貴様!その剣は誰からもらった?その剣は管理神ナデシア様が保管していたはずだ!」
デーモンロードのマモンの件といい、今回の竜王の件といい。やはり神々の中にこの世界に干渉している者がいるようだ。
「お前達がドラゴン化しないのは、その剣のせいか?」
「ああ、そうさ。この剣でお前を切り裂くためにはこの姿でなくてはな。」
そこにライジンがナーシャを連れてやってきた。
「竜王様。どうして?どうしてそのような真似をするのですか?以前は優しく正義感に溢れていらっしゃったではないですか!」
「ハッハッハッハッ ライジン!貴様は何もわかってないな!我ら竜人は、憎きナデシア達によってこの大陸に閉じ込められたのだぞ!我らの先祖達がどれほどナデシアのことを恨んでいたか、お前にもわかるだろう!」
「ですが、それは先祖達が他種族を攻撃したからではないですか!」
「ああ、そうとも。『力あるものが弱いものを支配する。』そのどこが間違えているのだ。我らは最強の種族だぞ!我らが下等な種族を支配するのは当たり前のことではないか。」
どうやら竜王は裏切り者の神に完全に洗脳されてしまったようだ。
「アスラ!こいつは無理よ。」
「そうだな。やるしかないか。」
ミコトが何かそわそわし始めた。相手は3人、こちらは6人いる。誰が戦うのか考えているのだろう。
「竜王の相手はオレがするよ。残りはみんなで決めろよ。」
「了解!」
ミコトが威勢よく返事をした。その様子から、戦闘狂のミコトが戦いたがっているとわかったようで、全員がミコトに譲った。残り一枠は、ジャンケンでリンに決まったようだ。結局、竜王の相手はオレ、サモンの相手はリン、ルークスの相手をミコトがすることになった。
「決まったようだな。」
「ああ、待たせて悪かったな。じゃあ、始めようか。」
竜王、サモン、ルークスの身体からオーラが溢れ始めた。どうやら魔力を解放し、闘気を高めているようだ。オレ達も力を解放する。辺り一帯に生ぬるい風が吹き始めた。ミコトはルークスの前に、リンがサモンの前に行った。そして、オレはゆっくりと竜王の前に行った。マロンは余裕の様子で眺めているが、ライジンとドラク、それにナーシャは心配そうだ。
「お前がオレの相手か!俺は四天王の一人、水竜のサモンだ。」
「私はリンよ。見ての通り天使だけどね。降参するなら命は取らないわ。どうするの?」
「俺も四天王だ。相手が誰であろうと戦わずして降参するわけにもいくまい。」
「そう。ならどこからでもかかってきなさい。」
サモンは四天王の中ではライジンに次ぐものだ。ドラクよりは強いのだろう。だが、天使のリンにとっては相手にならない。
『水刃』
『ウォタートルネード』
『ウオータージェット』
サモンが様々な攻撃を仕掛けるが、リンの結界を破ることはできない。強力な魔法を放ち続けたせいか、サモンが肩で息をし始めた。
「弱いわね!もうお終いなの?なら、苦しまないようにしてあげるわ。」
リンの身体が眩しく光始め、リンの頭上に巨大な光の球が現れた。
「自分の罪を悔い改めなさい!『リグレットルミエール』」
巨大な光の球がサモンに向かって飛んでいく。そして、サモンの身体が眩しい光に包まれ、体の中からどす黒い闇が溢れ出していく。サモンは力なくそのまま地面に落下した。
「終わったわね。」
その横ではルークスがミコトと対峙していた。
「サモンの馬鹿が!簡単にやられやがって!」
「そういうな!お前もすぐにあいつの後を追うことになるんだから!」
「俺がお前ごときに負けるわけがなかろう。」
サモンと違ってルークスはかなり気性が荒い様だ。ルークスの身体が真っ赤な炎に包まれていく。その炎が伸びてミコトに襲い掛かる。ミコトは身体を左右に動かして後ろに下がりながらそれを避けていく。
「リン殿。ミコト殿は大丈夫でしょうか?」
すでに戦いが終わったリンにライジンが心配そうに聞いた。
「ライジン。あなたには見えてないの?ミコトの動きが。ミコトは攻められてるように見えるけど、しっかり攻撃してるわよ。もう時間の問題よ。」
リンが言った通りだ。リンは身体を動かして避けながら魔法で攻撃していたのだ。ミコトの風魔法は目に見えない。だから分からなかったのだろうが、ルークスの腹から血が流れている。
「さすが四天王だな。でも私の敵じゃない。」
ルークスは顔をゆがめている。
「楽になれ!『時空斬』」
ミコトが腰の剣を抜いて水平に振った。すると、空間が歪んでルークスの身体が上下に分かれた。
「グホッ 俺の負けだ!さすがに天使は強いな!」
ルークスが地面に落ちて行く。
「まあ、私は天使見習いだけどな。」