決戦の準備
オレ達は全員が上空に舞い上がり、敵に向かって行った。50匹のワイバーンがリン達に向かって一斉に炎のブレスで攻撃してきた。5人はそれぞれ散りながらそれを避けた。
「危ないな~!」
ライジンを見ると身体に電流が駆け巡り、翼をはためかせるとライジンの身体から何本もの電流がワイバーンに向かって流れていく。まさに雷だ。
ギャー ギャー
雷が直撃したワイバーンは真っ黒こげになって地面に落下していく。
「ライジンやるわね~!なら、私も!」
今度はミコトが光り輝く剣を横に振る。するとワイバーンの身体が真っ二つになって地面に落下した。ドラクも口から目に見えない風の刃を放って攻撃している。リンもマロンも余裕のようだ。
“この調子なら大丈夫そうだな。”
オレはワイバーンの後ろに控えているドラゴン達の前に来た。すると奥から一回り大きなドラゴンが前に出た。
「貴様は何者だ?なぜライジン達の味方をする?」
「オレか?オレは世界の平和を望む者さ。ドラク達の話を聞いて黙っていられなくなったのさ。それよりもオレはお前達を殺したくはないんだ。竜王に脅されてここにいる奴はこの場を離れろ!」
「何を腑抜けたことを!この数の竜人族を相手に勝てるとでも思っているのか!」
「どうやらお前は竜王に忠誠を誓っているようだな。わかったよ。相手をしてやるよ。」
オレは神気を解放した。身体から神々しい光が放たれ、純白の衣に包まれていく。頭には月桂樹の冠が現れ慈愛神の姿へと変化した。張り詰めていた辺り一帯の空気が温かく心地よい物へと変わった。さすがにドラゴン達にも動揺が走った。
「お、お、お前は何者なんだ?」
「オレは慈愛神ガイアだ。」
「慈愛神だと?ふざけるな!神が地上に現れる者か!もういい!この俺様が貴様を殺してやる!」
リーダーらしきドラゴンが炎のブレスで攻撃してきた。ワイバーンのブレスとは威力も大きさも桁違いだ。だが、オレは右手を前に出して結界を張ってそれを防いだ。
「もうお終いか?」
さすがにリーダーのドラゴンは、傷一つないオレを見て動揺したようだ。
「まだまだだ!」
今度は翼をはためかせ始めた。すると空中に炎が巨大な渦巻きとなってオレに襲い掛かってきた。オレは身体全体を結界で包み込んだ。そして、右手を水平に振った。
フン!
次の瞬間、目の前のリーダーの頭が上に吹き飛び地面に落下していった。後ろで見ていたドラゴン達は恐怖で固まっていた。
「他にオレに向かってくるものはいないのか?死にたい奴がいるならいくらでも相手をしてやるぞ!」
オレは全身から魔力を解放した。すると身体から神々しい光が放たれ、オレの背後に巨大な武神の姿が現れた。
「まさしく神だ!あの方は神だ!」
ドラゴン達は翼で体を包み込むようにし、人の姿へと変化していった。そして地面に降りるや否や全員がオレに向かって平伏した。
「お許しください!我々は竜王様に従うしかなかったのです!」
オレが元の姿に戻って地上に降りると、そこにリン達がやってきた。どうやらワイバーンを殲滅したようだ。
「アスラ。この人達に罪はないようね。」
「アスラ殿。この者達は竜王に脅されていたにすぎません。許していただけないでしょうか。」
「アスラさん。俺からもお願いします。」
「ライジン様。ドラク様。申し訳ありませんでした。」
どうやら竜人達は心から反省しているようだ。
「わかったよ。今回の件はいいよ。でも、次はないからね。」
「はい!」
その後、オレ達は竜人達から王都の状況を聞いた。どうやら王都では彼らのように各地域から強制的に連れてこられた者達が大勢いるようだ。だが、竜王と四天王である水竜族のサモン、炎竜族のルークス、それに竜王の親衛隊達は別だ。ライジンが生きていることを知ったようで、人族の国に攻撃を仕掛ける前にオレ達を始末しようとしているのだろう。
「ナーシャは?ナーシャはどうなっているんだ!誰か知らないか!」
竜人達が顔を見合って話し始めた。すると、一人の男が口を開いた。
「あの~。」
「何か知っているのか!」
「は、はい。多分なんですけど、ナーシャさんは竜王の城の地下室に閉じ込められていると思います。」
すると今度はドラクが聞いた。
「どういうことだ?」
「サモン様に言われて、俺と他の奴で地下室の見張りをしていたんです。そこに女性がいましたので。多分そうじゃないかと思うんですが~。」
「どうしてナーシャが地下室に捕らえられているんだ!」
「俺もよく知りませんが、なんか重要な人質だからとサモン様が言ってましたので。」
どうやら竜王はライジンを始末した後に、ナーシャを囮にしてドラクの始末を考えていた様だ。何にしてもナーシャが生きているという情報が聞けただけでも良かった。
「ライジン。ドラク。良かったじゃない。ナーシャさんが生きていたんだから。」
「そうですが~。」
「ドラク。リン殿の言う通りだ。生きていてくれただけでもありがたいじゃないか。」
「さて。じゃあ、これからのことを相談しようか。彼らにもいろいろと協力してもらわないといけないからな。」
リンも他のみんなも不思議そうにオレを見た。
「アスラ。お前、こいつらを信じるのか?」
「ミコト姉。この人達は大丈夫だよ。だってアスラ兄が慈愛神だってわかったんだから。」
「それもそうだな。まさか神に逆らうような愚か者がいるはずないな。」
未だにオレに平伏している竜人達が申し訳なさそうにうなだれた。
それから、これからのことを話し合った。オレ達がいきなり王都に入るのはまずい。最初に竜人達に王都に入ってもらう。そして、それぞれ知り合いの兵士達に戦争に加わらないように説得してもらう。その後で、オレ達が王都に乗り込むという算段だ。できればナーシャを王城から逃がして欲しいが、それは無理だろう。
「じゃあ、行動を開始しようか。みんな頼んだぞ!」
「はい!こんなことで罪が償えるなら安いもんです!なぁ?」
「ああ、そうだ!」
「そうだ!そうだ!」
竜人達は王都に戻っていった。オレ達もすぐに王都に入れるように、王都の近くで気配を消して待機することにした。
王都に戻った竜人達は、約束通りそれぞれの知り合いの説得を始めた。
「おい!サンロ!」
「おお。パウロじゃねぇか。いつ戻ってきたんだ?」
「今日さ。それより大事な話があるんだ。ちょっと来てくれ。」
「わかった。大事な話ってなんだ?」
パウロは友人を建物の陰に連れて行って真面目な顔で話し始めた。
「実はな。ライジン様の件なんだよ。どうやら竜王様がライジン様とドラク様を殺そうとしているみたいなんだよ。」
「それは本当か?まあ、ありえない話じゃないな。ライジン様もドラク様も人族の国に戦いを挑むのには反対だったからな。」
「そうさ。殺されそうになったライジン様がドラク様と戻って来てるんだ。」
「それは本当か?」
「ああ、本当さ。しかも、3人の天使様と慈愛神様も一緒なんだ。」
「じ、じ、慈愛神様?!」
「シー!声が大きいぞ!」
「悪い悪い。つい驚いちまった。」
「慈愛神様達は世界中を回って、この世界を平和にしようとしてるようなんだ。」
「そしたら大変じゃないか!竜王様達とぶつかるぞ!」
「ああ、その通りだ。きっと戦いになれば俺達も参加するように命令されるだろうな。」
「そんなことになったらどうするんだ?相手は神様だろ?勝てるわけないじゃないか!」
「ああ、何があっても勝てないな。下手をすれば竜人ごと消滅させられるかもしれねぇな。」
「どうすればいいんだ?」
「簡単なことさ。何があっても戦いに参加しないことさ。いざとなったら王都から逃げればいいだけだ。」
「そうだな。それしかないな。」
竜人一人が3人に話をする。すると、その3人がまたそれぞれ3人に話をする。どんどん噂が広がっていき、王都中の兵士達が知ることとなった。