ライジンとドラクが女性に変身!
竜王の策謀により死にかけていた竜人族最強のライジンを助けた後、トロイア大陸の状況について説明を受けた。四天王のライジンとドラクがいなくなったことで、竜王の考えに反対する勢力は静かになってしまったようだ。
「ライジンの体力が回復するまで待ちたいところだけど、明日にはトロイア大陸に向かうよ。」
「アスラ。なんでそんなに急ぐんだ?」
「ミコト!考えてみなさいよ!アスラが神気を解放したのよ。恐らく、私達のこともドラクやライジンのこともばれてるわ。」
「リン姉の言う通り!絶対バレてる!」
オレ達のことがばれているとなると、竜王はどんな手を使って待ち構えるだろうか。もう死人を出したくないなどと入っていられないかもしれない。
「あのさ~。みんなに言っておきたいんだけどさ~。」
「大丈夫よ。アスラ。みんなわかってるから。」
「アスラ。相手を殺すなってことだろ?」
ライジンが驚いた顔でオレ達を見た。それもそのはずだ。竜人族は伝説的な種族で、世界で最強の存在なのだ。それを一人も殺さずに制圧するなどありえないことだ。
「違うよ。竜王がライジンを排除した手口を考えれば、相当厄介な罠を仕掛けてくる可能性があるだろ?だからさ、いつものように死人を出さずにっていうのは無理そうだからさ。まずは自分の身を守ることを第一に考えて戦ってほしいんだ。」
「わかったわ。いいわね!マロン!ミコト!」
「ああ、わかってるさ。でも、なるべく殺さないようにはするけどな。」
「うん!あたしも頑張る!」
そして翌朝、オレ達はトロイア大陸に向けて出発した。結界の切れ目近くまで来ると結構強い風が吹いていた。
「みんな。結界の中に入るよ。どんな罠があるかわからないから油断するなよ。」
「了解!」
オレ達は結界の中に侵入した。少し先に島のようなものが見えてきた。恐らくトロイア大陸だろう。すると、前方から大きな翼を広げた魔物らしき物が多数こちらに向かってくる。
「アスラ!ワイバーンの群れのようよ!」
「アスラ殿。あれは竜王が差し向けた魔物達です。ここは私がやつらの相手をします。その間にトロイア大陸に向かってください。すぐに追いつきますから。」
「ダメよ。ライジン。あなたが生きてるってバレちゃうじゃない!」
「リンの言う通りだ。ライジン。お前は魔力を抑えて大人しくしていろ!」
「わかりました。」
ここでワイバーンの群れを殲滅するのはたやすいことだ。だが、こちらの戦力がわかってしまう。ここは戦わずして逃げる方がいいだろう。
「マロン!オレ達の周りに霧を出してくれ!」
「うん。わかった!」
マロンが右手を前に出して魔法を唱えると、オレ達の周りに黒い霧が現れた。
「みんな!オレの近くに来てくれ!」
みんなが集まったところでオレは目の前に見えるトロイア大陸まで転移した。どうやらオレ達はトロイア大陸の海岸に来たようだ。目の前には巨木が生い茂る原生林が広がっていた。
「ドラク!おまえ、こんなすごいところに住んでいたのか?」
「ミコトさん!ここは俺達が住んでいた王都から結構離れてるんですよ。王都は人族の街と変わらないですから。」
「そうか。なら、美味しい食べ物もたくさんあるのか?」
「ミコト姉はいつも食べることばっかりなんだから。」
「マロンだって美味しいものは好きだろ?」
「まあまあ。私達がここに来たのは観光じゃないんだから。すべて終わってからよ。」
ミコト達のやり取りを聞いていたライジンが呆気に取られていた。今から、竜人族最強と言われる竜王や四天王である水竜族のサモン、炎竜族のルークスと戦うのだ。それにもかかわらず、余裕な話をしているのが不思議だったのかもしれない。
「ライジン。不思議そうにしてるが、あの方達にしてみればあれが普通なんだよ。俺も四天王と言われていたが、あの方達に比べれば赤ん坊も同然さ。」
「それほどなのか?」
「まあ、ライジンもそのうちわかるさ。」
オレ達は王都に向けて出発した。飛翔していってもよかったが、トロイア大陸の状況を確認しながら進むことにしたのだ。浜辺から続く原生林の中に入っていくと、結構魔物が多くいた。魔物が食料に見えるらしく、ミコトとリンが次々に討伐していく。
「アスラ!ちゃんと空間収納に仕舞っておいてくれよ!ブラックボアの肉は最高なんだからな!」
「わかってるよ。」
ミコトはブラックボアやレッドボアを見つけると一目散に駆けつけて討伐していく。だが、美味しくない魔物やゴブリンのような食べられない魔物は完全に無視だ。
「ミコト姉。ゴブリンとかも討伐してよ!」
「そっちはドラクにでも任せろ!」
急に名前を出されたドラクも困り顔だ。
「いいですよ。マロンさん。食べられそうもないやつらはオレとライジンで討伐しますから。」
「じゃあ、お願い。」
原生林を抜けるといきなり目の前に街が見えた。魔物達が多いせいか、街の周りには城壁が張り巡らされていた。
「アスラさん。どうしますか?」
「アスラ。ライジンもドラクもお尋ね者になってるかもしれないわよ。それに、私達が街に入ったら人族と間違えられるわ。」
竜人族は普段人族と同じ姿をしている。ただし、ドラクのように髪の毛で隠れている場合もあるが、額にはそれぞれの種族を表す色をしたホクロのようなものがあった。水竜族なら水色、炎竜族は赤、雷竜族は黄色、そして風竜族は緑色をしている。竜王になるとその色が金色に変化するようだ。
「みんなこっちに来てくれ!」
「アスラ兄、何するの?」
「変身するのさ。」
「変身?」
オレがみんなに魔法をかけるとみんなの身体が光り始めた。そして、リンの額には黄色のホクロのようなものが現れ、オレとマロンには赤、ミコトには水色のホクロのようなものが浮き上がってきた。
「これなら竜人族に見えるわね。」
「そうだな。でも、なんでアスラとマロンが同じなんだ?アスラは金色でもいいじゃないか!」
「何言ってるのよ。金色は竜王だけでしょ!」
ライジンとドラクは、額のホクロのようなものの色を変えただけではばれてしまう可能性がある。そこで、2人とも女性の姿に変えた。それがよくなかったかもしれない。いきなりリンが怒り始めた。
「アスラ!ちょっとどういうことよ!どうしてライジンとドラクが私より大きいのよ!」
「なんのこと?」
「わかってやれよ!アスラ!私はどっちでもいいけどな。」
「アスラ兄!あたしもリン姉に賛成!」
「だから何のことだよ?」
するとドラクが自分の胸を指さしながら言った。
「アスラさん。これですよ!これ!」
どうやらライジンとドラクの胸が大きいのが理由のようだ。だがこれは仕方がない。ライジンもドラクも人族で言えば30歳前後だ。しかも、2人とも竜人族でもともと体つきがいいのだから。
「仕方ないだろ!そんなことより街に入るぞ!」
リンとマロンはブスッとしたままだが、オレ達はトロイア大陸に来て初めての街に入った。街並みを見ると、現在の人族の街とは違いかなり古さを感じる。丁度2000年前にオレがアリスと一緒にいた時代にタイムスリップしたかのようだ。
「なんか懐かしい景色ね。アスラ。」
「ああ。」
「何が懐かしいんだ?アスラ。」
「この景色さ。オレとリンが前世で一緒に暮らしていた時と似てるんだよ。」
人族は長い年月の間に魔法が衰退した。その結果、魔法の代わりとして文明を発展させてきたのだ。一方、竜人族は未だに魔法が使える。そのため、文明が取り残されてしまったのだろう。
「アスラ殿。これからどうするんですか?」
「街の人に状況を聞いて回るさ。」