傷だらけの戦士ライジン
竜人族の住むトロイア大陸に向かう途中、最後の休憩のためストマラ島に舞い降りた。浜辺で話をしていると、森の奥から獣の鳴き声が聞こえてきた。
「何かしら?」
「みんなで確かめに行こうか。」
「そうだな。腹も減ってるし、ブラックボアならありがたいな。」
「ミコト姉は食いしん坊!」
「マロン。お前だって腹減ってるだろ?」
「少しだけ。」
みんなで獣の鳴き声の聞こえてきた方向に歩いて行くと、シルバーウルフの群れが何かに襲い掛かっていた。よく見るとその中心には男性がいた。男性は必死に左手に持つ剣でシルバーウルフを追い払おうとしている。だが様子が変だ。するとその時、一緒にいたドラクが走り始めた。
「ライジーン!」
どうやら襲われている男性はドラクの友人のライジンのようだ。
「みんな!助けるよ!」
「わかったわ!」
オレ達も剣に魔法を付与して、シルバーウルフに向かって行った。
ザクッ スパッ
ギャン バタン ドタン
目の前にいたシルバーウルフはすべて倒した。そして、ライジンを見ると右腕と左足がなく、血だらけの首には黒い輪が嵌められていた。
「ライジン!しっかりしろ!俺だ!ドラクだ!」
「ド、ドラクか?本当にドラクなのか?」
「ああ、そうだ!しっかりしろ!」
「情けない姿を見せてしまったな。俺はもうだめだ。ドラク!ナーシャを頼む!」
「何を言ってるんだ!ライジン!お前はこんなところで死んでいいやつじゃないだろ!」
ライジンの命の灯が消えかかっている。それを悟ったのか、ドラクも泣きながら必死にライジンに声をかけていた。
「アスラ。何とかできない?」
リンもマロンもミコトもオレの顔を見た。さすがに死んでしまった者を生き返らせるのは簡単なことではない。だが、目の前のライジンはまだ息がある。後はライジンに『生への執着』がどれくらいあるかが問題だ。
「やってみるよ!」
「アスラさん。お願いします!どうか!どうかライジンを助けてやってください!」
オレは神気を解放した。するとオレの身体から神気が溢れ出し、辺り一帯に暖かい空気が流れ込んできた。そして、オレの全身が眩しく光ると同時に純白の衣に包まれていく。頭には月桂樹の冠が現れた。
『レストレイション』
オレの身体から溢れ出ている光がライジンの身体を包み込んでいく。そして、ライジンの右手、左足がどんどん復元していく。そして、身体中の傷がまるで何もなかったかのようにきれいになくなった。
「お、俺は・・・」
「ライジン!ライジン!よかった!生きていてくれてありがとうな!ウッググ・・・・」
「ドラク!これは一体・・・」
ドラクの膝に抱かれていたライジンが周りを見渡した。そして、俺を見て慌てて平伏しようとした。
「いいよ。そのままで。傷が癒えたって言っても体力が戻ったわけじゃないからさ。」
「あなた様は神様なのですか?」
するとドラクがオレを見ながら説明を始めた。
「ライジン。このお方は慈愛神ガイア様だ。そちらの方々も天使様達なんだ。」
「なぜ?どうして慈愛神様が?」
するとリンが説明を始めた。
「私達は最高神ナデシア様に言われてこの世界を回っているの。後はトロイア大陸だけよ。」
「そうだったんですか。私はてっきりまた竜人族が罰を受けるものだと思っていました。」
「どういうことよ?」
落ち着きを取り戻したライジンがオレ達の前に座って説明を始めた。ライジンの話によると、竜王は長年竜人族が世界から隔離されてきたのは、他の種族と最高神ナデシアのせいだと考えた。そして、結界が弱くなったことをいいことに、トロイア大陸から出て他の種族を征服しようとたくらんだ。だが、それに反対したライジンとドラクが邪魔になり、ドラクをトロイア大陸から遠ざけたのち、妹のナーシャを人質にしてライジンの片手と片足を切断し、さらには魔法が使えないように『絶魔の首輪』をはめてこの島に放り出したのだ。
「酷いやつだな~!その竜王ってやつは!だが、アスラ!どうして竜王はライジンを殺さなかったんだ?」
「戦えなくなったライジンを囮にして、ドラクも殺そうとしたんだろうな。」
するとライジンが『絶魔の首輪』に手をかけながら言った。
「ガイア様の言うとおりです。」
「ライジン。オレのことはアスラでいいよ。地上にいる時は人族のつもりだからさ。」
「は、はい。わかりました。アスラ様の言う通り、竜王は他の種族よりもこの私とドラクが最大の敵だと考えたのでしょう。2人を相手にするとなると、向こうにも相当な被害が出る可能性がありましたから、最初に私を戦闘不能にしておいて、その後、血の気の多いドラクがやってきたところで殺すつもりだったのでしょう。」
すると怒りが治まらないドラクが大声で叫んだ。
「許さねえ!あいつら絶対に許さねぇぞ!」
「すまん。ドラク。ナーシャを守ってやれなかった。この首輪のせいで魔法は使えないかもしれないが、俺も一緒にトロイア大陸に行くぞ!ナーシャを何としても助け出すんだ!」
リンがオレの手を握ってきた。リンが言いたいことはわかってる。
「オレ達も協力するさ。ナーシャを助けだして、竜人族を平和な種族にもどすぞ!」
「私も今から腕が鳴るぜ!強いやつらがいるんだろ?私がぶっ飛ばしてやる!」
「もう~。ミコト姉は脳筋すぎ!」
「マロン。お前だって戦いたいんだろ?」
なんかうちの女性陣は感情の起伏が激しい様だ。悲しんだり、笑ったり、怒ったり。でも、人のために感情をむき出しにできる彼女達のことをオレは大好きだ。
「さてと、じゃあ、その邪魔な首輪を外そうか。ライジン。こっち気に来てくれるかな。」
ライジンが立ち上がってオレのところまでやってきた。オレはライジンの首にはめられている『絶魔の首輪』に手をかざして神気を放った。
バリン ドサッ
ライジンの首から黒色の首輪が外れて地面に落ちた。
「ありがとうございます。アスラ様。」
「ライジン!アスラは『様』って呼ばれるのは好きじゃないのよ。」
「リンの言う通りさ。」
「わかりました。アスラ殿。」




