ドラク、海賊船を討伐する!
海賊討伐に向かうオレ達は、2隻の船に分かれて乗ることになった。先頭の船にはドラク、リン、マロンが冒険者達と一緒に乗り、2隻目の船にオレとミコト、ギルマスのデジットが残りの冒険者達と乗ることになった。総勢30人が参加する。
「アスラ!この船って揺れすぎじゃない!」
「仕方ないさ。天候がよくないんだから。」
運悪く、嵐というほどではないが天候がよくない。風が強く波が高い。それでも、海賊討伐は一刻を争う事案なのだ。他国の船が海賊に襲われるようなことがあれば、この港を利用する船がいなくなってしまう。そうなれば、このキャンベも衰退してしまうだろう。
「俺は長いことギルドマスターをしているが、アスラ殿達の噂はあまり聞いたことがないんだが。アスラ殿達はどこのギルドを本拠地にしてるんだい?」
なんか『殿』で呼ばれるのはあまり好きではないが、面倒なのでそのまま受け流すことにした。
「オレ達は世界中を旅してますから。」
「私達はギルドの依頼を受けることはめったにないんだ。それに盗賊や魔物を討伐してもいちいちギルドに報告しないからな。」
確かにミコトの言う通り、オレ達はギルドの依頼を受けることがない。それよりも、国を動かすような大事件にかかわることの方が多いのだ。ミコトの言葉を聞いて、デジットが何やら考え込んでいるようだった。どれくらい時間が経っただろうか、太陽が傾きかけたころ動きがあった。
「敵だー!敵の船が来たぞー!」
「リンさん。俺が相手をしますから手出ししないでください。」
「わかってるわよ。」
ドラクは相当やる気のようだ。だが、同乗している冒険者達はみんな焦り始めている。
「あいつらのアジトに攻め込むはずじゃなかったのかよ~!船の上での決戦なんて海賊に勝てるわけないじゃないか!」
ズッドーン ズッドーン
海賊の船がこちらに向かって大砲を撃ってきた。ドラク達の船の近くに球が落ちている。
「どうするんだ?アスラ。」
「どうもしないさ。オレ達が手を出したらドラクが可哀そうだろ。」
「なら、私は見物でもしてようかな。」
デジットが不安そうな顔をして、オレとミコトの会話を聞いていた。
ズドーン ズドーン
再び海賊船がこちらに向かって大砲を撃ってきた。ドラクは大きくジャンプして、飛んでくる砲弾を長い爪で斬り落としていく。下で見ていた冒険者達が驚きの声をあげた。
「すげー!」
「あいつは本当に人間なのか?!」
「あのジャンプ力はとても人間業じゃないだろ!」
ここでリンがドラクに声をかけた。
「ドラク!このままじゃキリがないわ!こっちから攻撃仕掛けた方がいいんじゃない!」
「ですが、リンさん。あいつらの船までは結構な距離がありますよ。」
「飛んで行けばいいじゃない!」
「そんなことしたら、俺の正体がバレちゃいますよ!」
「構わないわよ。いずれバレるんだから!」
「わかりました。なら遠慮なくやらせていただきます。」
ドラクが魔力を解放した。するとドラクの背中に緑色の翼が現れた。冒険者達は驚きのあまり、口を開けたまま呆然としている。
「じゃあ、行ってきます。」
「なるべく殺さないようにするのよ!」
「了解です。」
ドラクが上空に舞い上がり海賊船に向かって飛んでいく。海賊達も翼を付けた何者かが近づいてくるのだから驚いている。そしてドラクの姿を見て、驚きから恐怖へと変わっていった。ドラクは背中から緑の翼を出し、両手には鋭く長い爪があるのだ。とても人族には見えない。
「あいつは何なんだ!」
「撃てー!」
ズドーン ズドーン
海賊達はドラクめがけて大砲を撃った。だが、砲弾はドラクの長い爪で斬り落とされてしまう。
「アルマ様。どうするんですか?あいつは化け物ですぜ!」
「このまま帰れるか!このまま帰ってみろ、それこそヘラルド様に全員殺されるぞ!」
海賊達は剣や銛、それに鉄の矢を用意し始めた。ドラクがその様子を上空から見下ろしている。そして、ドラクが翼をはためかせると辺り一帯に強風が吹き始めた。そして、口から小さな竜巻を吐き出した。小さな竜巻はどんどん成長して大きな竜巻へと変化していく。
「化け物だー!逃げろー!」
さすがの海賊達も必死に逃げようとしている。だが、強風にあおられて思うように動けない。そして、船の帆が強風で大きく曲がった。
バキッ
ドカン
巨大船を動かすための大きな帆が折れた。こうなるともうどうにもできない。
“そろそろ潮時だな。”
ドラクは海賊船に向かって頭から急降下していく。海賊達は剣や銛を構えた。それに構わず、ドラクは船の上を通過する際に長い爪のついた手を振り下ろした。
『鋭爪斬』
ビューン バシッ ギシッ スパーン
船がゆっくりと左右2つに分かれていく。
「うわー!沈むぞ!逃げろー!」
バッシャーン
海賊達は慌てて小さな船を海に投げ込んでその中に乗り込んでいる。中には海に飛び込む者達もいた。
「助けてくれー!」
海に飛び込んだ者達は仲間の小船に救出されている。海賊達にはもはや戦う気力もない様だ。リーダーのアルマが白旗をあげた。それを見て冒険者達は大歓声を上げた。
「ウオー!勝ったぞー!」
ドラクがリンのもとに戻った。その周りにゆっくりと冒険者達が集まっていく。冒険者達もドラクのことが怖いのだろう。
「あんた。何者なんだ?人族じゃないよな!」
「俺か?俺は竜人だ。」
「竜人?竜人って、まさか伝説のあの竜人か?」
「伝説かどうかは知らないが、俺は竜人だ。」
「伝説じゃなかったんだな~。本当にいたんだな~。でも、なんでこの人達と一緒にいるんだ?」
「ああ、リンさん達は俺の師匠だからな。」
「えっ?!え——————!!!竜人の師匠?」
「そうよ!何か文句でもあるの!」
「いや~。あんたのようなかわいい子が竜人の師匠だなんて信じられないと思ってな。」
「まあ、可愛いはあってるけどね。」
リンが沈みかけている海賊船に向かって魔法を放った。
「砕け散れ!『ファイアーバースト』」
すると、リンの手から炎の球が放たれ、炎の球はどんどん大きく成っていく。そして、巨大な火の玉となって海賊船を飲み込んだ。火の玉が消えるとそこには何も残っていなかった。奇跡のような魔法を目の当たりにした冒険者達はただただ呆然としていた。
「アスラ殿。君達は何者なんだ?リン殿のあれは魔法だよな?君達は本当に人族なのか?」
「見ての通りオレ達は人族ですよ。」
海に浮かんでいる小船に乗っていた海賊達をオレ達の船に引き上げた。抵抗しようとする者は誰もいなかった。海賊達をロープで縛って船の牢に入れた後、オレ達は再び海賊のアジトに向かうことにした。
「あいつらのリーダーのアルマという男を尋問したら大事なことが分かったんだ。」
「何がわかったんですか?」
「海賊の首領だが、ヘラルドという男だ。彼は人族では珍しい魔法使いで、かなり危険な男だ。」
「デジットさんはその男を知ってるんですか?」
「ああ、ヘラルドも昔は冒険者だったからな。アスラ殿達と同じSランクまで上りつめたんだが、十数年前の魔王事件以来行方が分からなくなったんだ。まさか海賊の首領になっていたとはな~。」
「その頃オレ達はまだ幼かったからよく知らないんですけど、その魔王事件と彼が行方不明になった件と何か関係があるんですか?」
「わからんが、何かあったんだろうな。」
オレには全く心当たりがなかったが、オレの事件が原因であれば何か申し訳ない気もした。




