キャンベに海賊現る!
港町キャンベは港町だけあってかなり賑わっていた。この港からスチュワート王国の他の港やナデシア聖教国、それにグラッセ王国へと船が向かうようだ。船乗りの人達が重そうな荷物を船に積んでいる。逆に、他の港からやってきた船からは積み荷が下ろされている。
「アスラ。食料は大丈夫?」
「まあ、何とかなるけど。何か欲しいものはあるのか?」
「せっかく港町に来たんだから市場に行ってみたいのよ。」
「市場!市場!」
「わかったよ。どうせリンは肉、マロンはデザートが欲しいんだろ!」
「リンもマロンも食い意地が張ってるぞ!」
「何よ!ミコト!なら、あなたは干し肉だけよ!」
「それは嫌だな~。」
オレ達の会話をドラクも不思議そうに聞いていた。ドラクからすれば神聖な存在のはずのオレ達が、普通の人族と変わらない姿で普通の会話をしていることが不思議なのだろう。
「でもさ~。ここって漁港だよな~。肉っていうより魚介類の方が多いんじゃないのか?」
「別にいいわよ。どうしてもお肉を食べたかったわけじゃないから。」
オレ達が市場に行くと、思った通り魚介類が中心だった。中にはマロンの顔よりも大きなカニが売られていた。
「アスラさん。今さらですけど、途中の島には野生動物や魔物もいますし、果物もありますよ。」
すると、リンが真っ赤な顔で怒り始めた。
「ドラク!なんでもっと早く言わないのよ!なら、市場に来る意味なんかなかったじゃない!」
「いいじゃないか。リン。オレもいろんな街の市場を歩いてみたかったし、あそこの屋台でなんか買ってやるからさ。機嫌なおせよ。」
「なら3本買ってね。」
「リン姉は食いしん坊!」
「マ・ロ・ン!」
マロンは逃げるようにしてオレの左腕に抱き着いてきた。それを見てミコトが右腕に抱き着いてくる。取り残されたのはリンだ。
「今回は私の勝ちだな!リン!」
「フン!」
その後、オレ達は屋台で肉串を買って食べた。そして、市場を後にして宿屋を探すためにこの街の冒険者ギルドを訪れた。ギルド内にはチラホラと冒険者がいたがごくごく普通の田舎のギルドだ。
「何か用かしら?」
「この街の宿屋を探してるんですけど。」
「そうね~。この時期は船乗り達で空いてる宿は少ないわよ。」
すると、リンが言った。
「2部屋あればいいのよ!どこかないの?」
「少し離れてるけどいいかしら?」
「ええ、泊まれるなら構いませんよ。」
オレ達は案内された宿に向かった。
「リンさん。2部屋ってどういうことですか?」
「ドラクは一人部屋でいいわよ。私達が4人で泊まるから。」
「4人で寝るんですか?」
「そうよ。何か変?」
「そんなことはないですけど。今まで全員個室だったので。」
「仕方ないでしょ!部屋が空いてないんだから!」
「そうですけど。何なら俺は野宿でもいいですよ!」
するとリンが慌てた。
「そんなのダメに決まってるでしょ!ドラク!もう2部屋って決めたんだから!」
「は、はい。」
ドラクもリンの剣幕に押されたようだ。宿屋に着いた後で部屋を確認すると、中心から離れているせいか10部屋空いていた。そこで、オレ達はゆったりと一人1部屋で宿泊することにした。そして翌早朝、外が何か騒がしい。オレは窓の外を見た。漁師のような男達が何やら慌てて走っている。
「アスラ~。おはよ~。なんか外が煩いんだけど。」
オレの部屋にリンが目をこすりながらやってきた。続いてミコトとマロンもやってきた。
「うるさくて寝てられないぞ!」
「あたしも起きちゃった!」
「なんかあったのかもしれない。行ってみようか。」
オレ達が1階に降りていくとドラクがいた。
「ドラク。何かあったのか?」
「ええ。俺も気になって聞いてみたんですけど、どうやら海賊が現れたようです。」
「海賊?」
オレ達は朝食もとらずに冒険者ギルドに向かった。ギルド内ではすでに冒険者達が集まっていて、海賊の盗伐隊を編成しているところだった。
「諸君!どうやら我らの海に海賊どもが現れたようだ。これから海賊の盗伐に向かおうと思うが、参加してくれる者には金が3枚の報酬を出そう。」
「マスター。海賊の盗伐って言ったって相手の船はこっちの船よりもでかいんだろ!」
「確かにそうだ。だが、あいつらのアジトはすでに分かってるんだ。アジトに乗り込めばいいのさ。」
「海賊達は何人ぐらいいるんだ?」
「30人程度との情報がある。」
「お前、どうする?」
「俺は泳げねぇんだ。行く途中で襲われたら一巻の終わりさ。今回はやめとくぜ。」
「報酬が金貨3枚だろ?大金だぜ!俺は行くぜ!」
ギルド内では冒険者達がざわざわと話し始めている。陸上の魔物討伐と違って今回は海賊が相手なのだ。ギルマスの言う通りアジトでの決戦になればいいが、もしかしたら海上での戦闘になる可能性もある。冒険者達が二の足を踏むのも無理はない。俺達が様子を見ているとギルマスがオレ達を見て声をかけてきた。
「お前達はこの街の者ではないな。」
「ええ。旅の途中なんですよ。」
「お前も後ろの者達も相当強いな。カードを見せてくれないか。」
どうやらこのギルマスの男性もそれなりの強者のようだ。ドラク以外は全員が冒険者カードを持っている。しかも全員がSランクだ。オレ達はギルマスにカードを見せた。
「やはりな。全員Sランクか。」
すると、ギルマスの言葉を聞いて周りの冒険者達が驚いた。
「Sランク?まさかあのお嬢ちゃん達もSランクなのか~?」
「そうよ!あんた今、私のことを子どもだと思ったでしょ!」
リンに言われて冒険者は慌てた。
「いやいや!そんなことは思わなかったさ!3人とも可愛い顔して怖いんだなって・・・」
「怖い~?」
「違う違う!強いんだなって思っただけさ。」
「リン姉は怖い人!あたしは強い人!」
「マロン!違うでしょ!」
呆れたようにドラクが間に入った。
「まあまあ。いいじゃないですか。皆さんは強いんですから。」
オレはギルマスに聞いた。
「海賊のアジトを知ってる人がいるんですか?」
「まあな。」
どうして海賊のアジトを知っているのだろうか。もしオレが海賊なら、自分達のアジトを知った人間をそのまま放置しないだろう。そんなことを考えた。
「確認したいんだけど。その情報は確かなんですか?」
「ああ。Aランク冒険者のヤハルからの情報だ。信用できるさ。」
まあ、Aランクの冒険者ならありえないこともないだろう。
「俺はここのギルドマスターをしているデジットだ。どうだろう。君達も協力してくれないか。」
「ええ。そのつもりでしたから。」
「そうか。感謝する。」
デジットがその場にいる冒険者達に大声で言った。
「みんなよく聞け!ここにいるSランク冒険者が4人も協力してくれるんだ!これで俺達の負けはなくなった!明日の朝、海賊討伐に向かうぞ!」
「おお!!!」
ドラクを見ると何か不貞腐れてる感じだ。恐らく自分が強力な戦力の扱いにされなかったことが気に入らないのだろう。
「ドラク~!何を不貞腐れてるのよ!あんたは冒険者カードを持ってないんだから仕方ないじゃない!」
「そうですけど~。」
「リンの言う通りだ。ドラク。明日、みんなの前で活躍すればいいだけじゃないか。」
「わかりました!ミコトさん。明日は皆さん手を出さないようにお願いします。」
こうしてオレ達は、他の冒険者達と一緒に海賊討伐に向かった。




