ワサイの孤児院
ワサイの街に着いたオレ達は、暁のメンバー達と一緒に孤児院に向かった。ワサイは地方の街の中では比較的大きな街だった。そのため、人通りも多くて様々な店が並んでいた。
「オクト。あの子達は何してるの?」
オレ達の少し先で子ども達が集まっていた。それを不思議に思ったのだろう。リンがオクトに聞いた。
「リンさん。彼らは孤児院の子ども達ですよ。街の清掃をすると、街からお金がもらえるんです。」
するとジュリーが懐かしそうに言った。
「私なんか両手にいっぱいになるほど集めたのに大銅貨3枚よ。」
「ジュリー。あなたなんかまだいい方だったわよ。私とセプトなんか大銅貨1枚しかもらえなかったんだから。」
「いいじゃないか。先生達も喜んでくれたんだから。」
「そうだぞ!セプトの言う通りだ。お金をもらうことよりも、孤児院の子ども達が街の役に立つことの方が大事なんだからさ。」
オクト達の孤児院は、他の孤児院と同じでナデシア聖教の教会に併設されているようだ。そこで子ども達の面倒を見ているのは、教会の司祭やシスター達だ。
「アスラさん。ここです。ここが俺達の実家ですよ。」
目の前には古ぼけた教会とその脇にボロボロの建物があった。オクト達が立て直したいと考えたのも無理はない。孤児院は強い風が吹いたら倒れてしまいそうな様子だ。
「オクト!お前達はここで生活していたのか?」
「ええ、そうですよ。」
「ここに何人いたんだ?」
「俺達を含めて8人ぐらいでしたけど。」
「ここに8人もいたのか~。私も孤児院で育ったがここよりは快適だったぞ。」
するとジュリーが言った。
「だからお願いしたのよ!私達がお金貯めてたらあと何年かかるかわからないし。それに、その間に嵐や地震が来たら子ども達が危ないでしょ!」
オレ達はとりあえず孤児院に行くことにした。
「あれ!オクト君!帰ってきたの?」
オレ達が孤児院に入ろうとすると、後ろから子ども達を連れた女性が声をかけてきた。
「お久しぶりです。メルモ先生!」
「あらあら。セプト君のジュリーちゃんもジュンちゃんも一緒なのね。いつも仲がいいわね~。」
「メルモ先生!会いたかった~!」
ジュリーとジュンがメルモにいきなり抱き着いた。
「二人とも子どもね~。」
メルモはふとオレ達を見た。
「そちらの方達はどなたかしら?」
「オレはアスラです。こっちは仲間のリン、マロン、ミコト、それにドラクです。オクト達と同じ冒険者なんですよ。」
「そうなの~。冒険者って危ないお仕事だから気を付けてね。ジュリー!あなた達も気を付けるのよ!」
「はい。大丈夫です。それより、クルトン司祭はいますか?」
「ええ。中にいると思いますよ。」
オレ達はメルモに言われて中に入ることにした。孤児院のミコトとマロンは、ジュリーとジュンと一緒に子ども達と外で遊んでいる。中に入ると床がギシギシと音を立てていた。いつ穴が開いてもおかしくない状態だ。奥の部屋に行くと、そこにはユリウス公爵と同じぐらいの白髪交じりの男性がいた。
「ただいま帰りました。クルトン先生。」
「やあ。オクト!セプト!ジュリー!ジュン!みんな元気そうで何よりだ。」
「はい。ここにいるアスラさん達のお陰です。」
「オクト達がお世話になったようで、ありがとうございます。」
「いいえ。オレ達も楽しかったですから。」
「そうですか。それはよかった。何もありませんが、どうぞゆっくりとなさってください。」
「ありがとうございます。ですが、先にやりたいことがあるんですよ。全員外に出ていただいてもいいですか?」
クルトン司祭もメルモも不思議そうな顔をしている。その様子を見てジュリーが声をかけた。
「クルトン先生!メルモ先生!早く外に行きましょ!」
「一体どうしたんだ?何かあるのかい?」
「早く!早く!」
ジュンも一緒になって2人を外に連れ出した。オレ達が外に出てきたのを見て、遊んでいた子ども達も不思議そうにしていた。
「リン!マロン!ミコト!建物の中は任せるから!」
「わかったわ!」
オレ達は神気を解放していく。オレ達の身体から温かい光が放射され、辺り一帯に甘い匂いが漂い始め、温かい空気が流れ込んできた。オレ達はそのまま空中に浮かび上がっていく。リン、マロン、ミコトの背中から純白の翼が現れ、オレは頭に月桂樹を冠した慈愛神の姿に変身した。
「綺麗!先生!」
「先生、僕、初めて天使様を見たよ!」
「そうね。私もよ。」
4人の美しさに全員が見とれている。クルトン司祭までもが拝むことなく見とれていた。
「始めるよ。」
「了解よ。」
オレは教会と孤児院の再建を始めた。
「生まれ変われ!『聖なる教会』」
すると、古い教会が眩しい光を放ちながら消えていき、そこに蜃気楼のように新しい教会がゆらゆらと見え始めた。クルトン司祭もメルモも口を大きく開けて驚いている。子ども達は大はしゃぎだ。
「凄い!凄い!教会が新しくなった!」
そして続いて孤児院の建物を再建した。孤児院は建物だけではない。庭にも遊具が現れた。そして、リンとマロンとミコトがそれぞれの建物の中に入っていった。オレは上空からあたりの様子を見ていた。早速子ども達はブランコや滑り台で遊び始めた。クルトン司祭とメルモはオレに向かって跪いている。オレは地上に降りた。
「クルトンさん。メルモさん。大丈夫だから。気楽にして。」
「で、で、ですが、あなた様のそのお姿は神様なのですよね?」
すると、リンとマロンとミコトが戻ってきた。
「アスラ~!終わったわよ!」
「お疲れさん。」
オレ達に向かって平伏しているクルトン司祭とメルモをも見てミコトが言った。
「クルトン司祭。アスラは敬われるのが好きじゃないんだ。普通にした方がアスラも喜ぶと思うぞ!」
2人がオレを見たので、にっこりと笑いながら頷いた。クルトン司祭とメルモが立ち上がった。
「アスラ!バーベキューするんでしょ!」
「ああ、そうだな。」
「オクト!セプト!ジュリー!ジュン!あなた達のために来たんでしょ!ボサッとしてないで早く手伝いなさい!」
「はい!」
その後、ワサイに来る途中に暁のメンバー達と討伐したレッドボアをさばいて、全員でバーベキューをした。クルトン司祭は恐縮していたが、子ども達は大喜びだ。そして翌日、いよいよお別れの時が来た。
「アスラさん!皆さん!本当にありがとうございました!」
「オクト、セプト、ジュリー、ジュン。身体に気を付けて頑張れよ。」
「はい!」
「アスラ!彼らに餞別をあげるんでしょ!」
「ああ、そうだな。」
オレの身体が神々しい光に包まれていく。そして、暁のメンバー達の身体もその温かい光に飲み込まれていった。しばらくして、光がおさまったが変わった様子はない。
「あれ?なんか体から力がみなぎってくるぞ!」
「俺もだ!」
「私もよ!」
「なんか今なら私も魔法が使えそうなんだけど!」
「多分、訓練すればオクト達も魔法が使えるようになるわよ!」
「リンさん!本当ですか?!」
「私が嘘をつくわけないでしょ!」
するとミコトが不思議そうに聞いた。
「私には今までと変わったようには見えないぞ!何をしたんだ?」
「オレがみんなに加護を渡したのさ。」
「加護?」
「ミコト!あなた天使見習いになったんでしょ!アスラは慈愛神なのよ!彼らに慈愛神の加護を渡したのよ。慈愛神の加護は最高神様やナデシア様と同様に、最強の加護なんだから。」
「ありがとうございます!アスラさん!」
暁のメンバー達は物凄く喜んだ。そして、リンから空間収納のできる魔法袋を渡した。容量に限界がなく、時間の経過もないこの魔法袋も特製品だ。大白金貨10枚でも買えないだろう。
「じゃあ、みんな。またな。」
「ありがとうございました。」
オレ達はドラクとともに再びスチュワート王国の王都ビザンツに転移した。
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