お父様とお母様に報告
王城を出たオレ達は大司教のいるスチュワート王国の大聖堂に向かうことにした。何故か、お父様とシュバルツ、それにマリアまで来ている。オレ達が大聖堂に入っていくと、司教が慌ててやってきた。
「これはこれはカザリオン侯爵様にホフマン侯爵様。どうなされましたか?何か御用でしょうか?」
お父様が司教に声をかけた。
「ジョージ大司教はいるか?」
「はい。少々お待ちください。」
大聖堂の中を見渡すとやはり豪華だ。初めて王都に来た時も思ったが、壁や天井の壁画は美しく、ところどころに豪華な置物が置いてある。それに装飾品が金色に輝いているのだ。しばらくして、先ほどの若い司教と一緒に大司教がやってきた。
「ジョージ大司教。少し話があるのですが。」
「これはまたホフマン侯爵とカザリオン侯爵がご一緒とは珍しい。どうぞこちらに。」
ジョージ大司教はどうやら会議室に案内してくれるようだ。
「大司教様。大変申し訳ないのですが、最初にナデシア様にご挨拶をしてからでもよろしいでしょうか。」
「はい。構いませんよ。信仰心に篤いのですね。」
オレ達は礼拝の間に向かった。そこは嘗てオレがナデシア様に神界に呼ばれた場所だ。何か懐かしいものを感じた。目の前には最高神ナデシア様の像が立っている。
「大司教様。大司教様は世界中で飢えている人々がいることはご存じですよね。その中には両親のいない子ども達もいるんですよ。ご存じですか?」
突然オレが質問したので大司教は焦ったようだ。
「はい。存じ上げています。嘆かわしいことです。」
「私達が彼らのために協力できることはないんでしょうか?」
「それは国の統治者が考えるべきことですね。我々にはとても彼らを救うことはできません。」
「確かにそうですね。か弱い者達を放っておく統治者は無能というべきでしょう。ですが、この大聖堂は人々からの寄付で成り立っているのではないですか?ならば、彼らの思いを組んで手を差し伸べるべきではないんでしょうか?」
「建物の維持をしっかりしないとナデシア様に申し訳が立たないんですよ。」
「では、この豪華な置物や装飾品はナデシア様のためのものだと思っているんですね?」
「はい。そうです。」
「大司教様は、ナデシア様が飢えている人々よりも豪華に飾られて大聖堂の方をお喜びになるとお考えなのですね?」
大司教は何も言えなくなった。そして何かに気が付いたようだ。
「もしや、あなた様は・・・」
するとリンが言った。
「あなた聖職者なんでしょ?気付くのが遅いのよ。マロン、ミコト。」
「うん。」
リンとマロンとミコトの背中から純白の翼が現れた。
「まさか、あなた様方は天使様なのですか?」
「私は見習いよ!」
「右に同じ!」
大司教が片膝をついた。そしてオレを見た。当然だろう。3人の天使を従えているのだから。
「オレはアスラ=ホフマンです。幼いころ一度お目にかかってますよ。でも、神界に戻ると慈愛神ガイアなんですけどね。」
「慈愛神様?」
「そうよ。創造神様を父とし、最高神様を母とする絶対神よ。」
「ハッハー」
片膝をついた挨拶からいきなり土下座に代わった。
「いいですよ。大司教様。それより、先ほどの話ですけど。」
ジョージ大司教は体の震えが止まらない。絶対なる神が目の前にいるのだから当然かもしれない。
「私が間違えておりました。」
「自分の過ちに気が付いてくれたなら、オレは何も言いません。ただ、ナデシア様は建物よりも人を愛していることだけは覚えておいてください。」
するとリンが言った。
「もうヨハルト教皇もいないし、それに今はアスラが任命したアンソニーが教皇になったんだからもっと自由にしていいのよ。」
「ならば、上納金もなくなったんですか?」
「それはどうか知らないわよ。でも、アンソニーのことだから、恐らく上納金なんてものは廃止するでしょうね。」
ジョージ大司教もヨハルト教皇にかなりの上納金を渡していた様だ。彼から安堵のため息が漏れた。その後、教会はそれぞれが寄付金を自由に使っていいことになった。ただし、人々のために使うのであって、司祭や司教が遊興費に使うことは禁止だ。それでも予算がない場合は、スチュワート王国から補助金を出してもらうことにした。
「シュバルツ、マリア。後のことは頼んだよ。」
「任してよ。アスラ。シュバルツはこの国の侯爵なのよ。それに私は王女だしね。」
オレ達は大聖堂を後にして侯爵屋敷に戻った。暁のメンバー達は気を利かせたのか、王都見学に行った。家に帰ると、ずっと黙っていたお父様が居間に来るように言ってきた。居間にはお母様とお父様がいた。
「話って何ですか?」
「さっき大聖堂で聞いた話をジャネットにも聞かせてやってくれるか。」
恐らくお父様が言っているのはオレの出生についてのことだろう。
「実はオレ、神界のことを思い出したんです。」
「そうなの?」
「はい。この世界は愛の化身である創造神様が作られたんです。それを慈しみの神であるナデシア様が管理してるんです。オレはその二人の特性を引き継ぐように生まれた慈愛神なんです。」
「どういうことなの?」
「つまり、創造神様はオレの父に当たり、最高神のナデシア様はオレの母に当たるんです。」
この時、お母様は予想外の反応を示した。
「あら~。なら、アスラちゃんは偉い神様達を両親に持ってる凄い神様ってことよね?なんか嬉しいわ~。私達のアスラちゃんが凄い神様だったなんてね~。あなたもそう思うでしょ?ウイリアム。」
「ああ、そうだな。」
なんかお父様もお母様の勢いに押されたようだ。でも、お父様とお母様が態度を変えなくて本当に良かった。そう思った。
「もう一つ報告があるんです。」
「なにかしら?」
なんかお母様がウキウキしている。
「リンが天使見習いから天使になって、マロンとミコトが天使見習いになったんです。」
すると再びお母様が喜んだ。
「良かったわね~。アスラちゃん。なら、永遠に3人と一緒に居られるってことじゃない。羨ましいわ!私もずっとアスラちゃんやウイリアムと一緒に居たいんだけど、人間の私には無理なのよね~。」
お母様の言葉は物凄く重い。確かに人間は永遠の命を持たない。限られた寿命の中でしか生きられないのだ。
「オレに何とかできればいいんですけど・・・・」
するとお父様が言ってきた。
「アスラ。気にするな。お前は優しすぎなんだよ。限りある寿命だって悪くはないぞ!限りがあることが分かっているから、人は今を一生懸命に生きようとするんだから。私はジャネットと出会ったことに感謝しているし、これからも命ある限りジャネットを愛していくつもりなんだ。」
「あなた~。」
お父様とお母様が見つめ合った。なんか、気まずい。
「アスラ。ワサイに行くことを言わなくていいの?」
「ああ、そうだね。」
「お父様、お母様。オレ達、暁のメンバー達が暮らしていたワサイの孤児院に行くつもりなんです。」
「どうして?」
「なんか建物が相当古いらしいから、オレ達が立て直そうかと思ってるんです。」
「そうなのね。優しいわね。みんな。」
するとお父様が言った。
「なるほど、それでジョージ大司教にあんな風に言ったんだな。」
「ええ、そうですよ。オレ達がすべての孤児院を建て直してあげることはできませんからね。」
お父様も納得したようだった。