意識不明の少年ユウキ
謎の商人ギャラードは、ユカルダ司教の指示でアスラを暗殺に来たことをしゃべった。他の仲間達も恐らくナデシア聖教国の聖騎士達だろう。オレ達は冒険者パーティー暁のメンバー達と一緒に聖都コンスタンツに向かった。
「オクト達はこの後どうするんだ?」
「俺達もアスラさん達と一緒に行動したんだけど、駄目ですか?」
「いいけどさ。もう修行は十分だと思うよ。」
するとセプトが言ってきた。
「ユカルダ司教とかいうのがアスラさん達の命を狙ったんだろ!俺達にとってはアスラさん達は恩人だ。少しでも役に立ちたいんだよ!そうだよな!みんな!」
「そうよ!アスラさん達は私達を鍛えてくれたんだもん。」
「それに魔法袋をくれたり、私達の剣を調達するためにわざわざドワーフ王国まで連れて行ってくれたんだもん。」
「わかったよ。みんな。ありがとう。でも、報酬はないけど、それでいいのか?」
「報酬ならギャラードの馬車からたんまりもらったから大丈夫よ。」
ジュンが魔法袋を指さした。どうやら馬車の積み荷をすべて魔法袋に入れてきたようだ。
リンが感心している。
「結構ちゃっかりしてるのね。」
「当然ですよ。リンさん。一応ここまで護衛してきたんだから。」
ハッハッハッハッ
オレ達は聖都コンスタンツに到着した。
「アスラ!私と一緒に実家まで来てくれないか。そこにアンソニー先生と姉、それに子ども達もいるはずなんだ。」
「わかったよ。」
「なら、アスラさん。俺達は一足先に聖都に行って調べておきます。」
「うん。よろしく。無理はしないでな。」
「はい。」
オレ達は冒険者パーティー暁と別れた後、聖都には入らずミコトの住んでいた家に向かった。聖都の郊外の森の中に入ってくと、森の奥に開けた場所があった。よくみると畑で作業している人達がいる。オレ達に気が付いたのか、全員が手を止めてオレ達の方を見ている。そして、女性が走ってきた。ミコトも思わず走り出した。
「お姉ちゃ~ん!」
「ミコト~!」
どうやらミコトの姉のようだ。2人は固く抱きしめあった。そこに、男性が10歳ぐらいの子ども達と一緒にやってきた。
「お帰り!ミコト。」
「ただいま帰りました。アンソニー先生。」
「そちらの方達は?」
「私の家族です。」
「家族ですか?」
アンソニー先生が不思議そうに聞いた。
「はじめまして。オレはアスラです。オレ達はいろんな場所を旅して、苦しみも喜びも分かち合ってきたんです。オレ達は固い絆で結ばれた家族になったんです。」
「なるほど。そういうことでしたか。何もありませんが、どうぞこちらにお越しください。」
オレ達はアンソニーに言われて建物の中に入った。それなりの大きさはあったが、それでも孤児達10人が一緒に生活するには狭い。当然かもしれないが、応接室などあるはずもない。オレ達は食堂で話をすることにした。
「皆さん。改めまして、私はミコトの姉のサクヤです。ミコトがお世話になったようで感謝します。ありがとうございました。」
「いいえ。特に世話なんてしてませんよ。オレ達は助け合ってましたから。」
「アスラさんは正直なんですね。」
リンとマロンがニヤニヤと笑っている。食堂を見渡すとある場所に目が行った。子ども達の手の届かない場所に小さな木の囲いがある。その中に木で作られた像があった。
「あれは?」
「ああ、ナデシア様の像です。いつも見守ってくれているんですよ。みすぼらしい木の像で申し訳ないんですけどね。」
すると、ミコトがアンソニーに聞いた。
「先生。ユウキの意識が戻りましたか?」
アンソニーもサクヤも下を向いて首を横に振った。
「そうか~。やっぱり駄目なのか~。」
「ミコト。もしかしてユウキって聖騎士達に暴行された少年のこと?」
「そうだ。」
「暴行されて死んだんじゃないの?」
「死んではいないさ。だが、意識がないんだ。」
するとアンソニーが教えてくれた。
「ユウキは暴行された日から意識がないんです。ですが、数年間ナデシア様のご慈悲で生かしていただいているのです。」
暴行されたのが数年前。それからずっと意識がないとしたら、数年間何も食べずにいるということだ。普通に考えれば生きていること自体が奇跡なのだ。リンも関心を持ったようだ。
「ミコト。私達をユウキのところに連れて行ってくれる?」
「何をする気だ?」
リンがオレの顔を見た。確かにオレなら何とかなるかもしれない。そんなことを考えながら、ユウキが寝ている部屋まで来た。そこには7歳ぐらいの少年が横たわっていた。恐らく、意識を失ってから何も食べずに寝たきりだったのだろう。身体の成長が止まっているようだ。
「彼がユウキです。本当なら他の子達と同じ10歳なんですけどね。可哀そうに。」
するとミコトが声をかけてきた。
「アスラ!お願いだ。この子を何とか助けてやってくれ!この子は私達の弟のようなもんなんだ。」
「わかったよ。やってみるよ。」
アンソニーも姉のサクヤも何が起こるのかと不安そうにしている。オレは神気を解放した。オレの身体が眩しく光りだし、部屋の中を甘く心地いい香りが満たしていく。
「すべてを癒せ!『リサシテイション』」
オレの手から放たれた光に反応したのか、ユウキの手がピクッと動いた。そして、ユウキがゆっくりと目を開けはじめた。
「神様なの?僕を助けてくれたの?」
「ああ、そうさ。君は心優しい人間だ。だから助けたのさ。」
「ありがとう。神様。」
部屋が元通りになっていく。そして、アンソニーとサクヤがオレに片膝をついていた。
「あなた様は神だったのですね。ユウキを助けていただいてありがとうございます。」
「アンソニーさん。サクヤさん。立ってください。オレは人族のアスラですよ。そんなに偉い存在じゃありませんから。」
するとリンが横から口を出してきた。
「そうよ。アスラは慈愛神よ。でも、地上にいる時は人族なんだから、そのつもりでね!」
2人が立ち上がった。そしてユウキの手を取った。
「ユウキ!よかったな。もう無茶はするなよ。」
「うん。僕ね。大きな岩の下敷きになってたんだ~。その岩が重くてね。どうしても動かせなかったんだけど。神様がね。その岩をどかしてくれたんだよ。」
「そうか。良かったな。戻ってこれて。」
「うん。」
アンソニーの目から涙がこぼれた。サクヤもミコトも泣いている。リンもマロンももらい泣きしていた。