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魔王少年アスラ  作者: バーチ君
ナデシア聖教国
125/151

意識不明の少年ユウキ

 謎の商人ギャラードは、ユカルダ司教の指示でアスラを暗殺に来たことをしゃべった。他の仲間達も恐らくナデシア聖教国の聖騎士達だろう。オレ達は冒険者パーティー暁のメンバー達と一緒に聖都コンスタンツに向かった。



「オクト達はこの後どうするんだ?」


「俺達もアスラさん達と一緒に行動したんだけど、駄目ですか?」


「いいけどさ。もう修行は十分だと思うよ。」



 するとセプトが言ってきた。



「ユカルダ司教とかいうのがアスラさん達の命を狙ったんだろ!俺達にとってはアスラさん達は恩人だ。少しでも役に立ちたいんだよ!そうだよな!みんな!」


「そうよ!アスラさん達は私達を鍛えてくれたんだもん。」


「それに魔法袋をくれたり、私達の剣を調達するためにわざわざドワーフ王国まで連れて行ってくれたんだもん。」


「わかったよ。みんな。ありがとう。でも、報酬はないけど、それでいいのか?」


「報酬ならギャラードの馬車からたんまりもらったから大丈夫よ。」



 ジュンが魔法袋を指さした。どうやら馬車の積み荷をすべて魔法袋に入れてきたようだ。

リンが感心している。



「結構ちゃっかりしてるのね。」


「当然ですよ。リンさん。一応ここまで護衛してきたんだから。」



ハッハッハッハッ



 オレ達は聖都コンスタンツに到着した。



「アスラ!私と一緒に実家まで来てくれないか。そこにアンソニー先生と姉、それに子ども達もいるはずなんだ。」


「わかったよ。」


「なら、アスラさん。俺達は一足先に聖都に行って調べておきます。」


「うん。よろしく。無理はしないでな。」


「はい。」



 オレ達は冒険者パーティー暁と別れた後、聖都には入らずミコトの住んでいた家に向かった。聖都の郊外の森の中に入ってくと、森の奥に開けた場所があった。よくみると畑で作業している人達がいる。オレ達に気が付いたのか、全員が手を止めてオレ達の方を見ている。そして、女性が走ってきた。ミコトも思わず走り出した。



「お姉ちゃ~ん!」


「ミコト~!」



 どうやらミコトの姉のようだ。2人は固く抱きしめあった。そこに、男性が10歳ぐらいの子ども達と一緒にやってきた。



「お帰り!ミコト。」


「ただいま帰りました。アンソニー先生。」


「そちらの方達は?」


「私の家族です。」


「家族ですか?」



 アンソニー先生が不思議そうに聞いた。



「はじめまして。オレはアスラです。オレ達はいろんな場所を旅して、苦しみも喜びも分かち合ってきたんです。オレ達は固い絆で結ばれた家族になったんです。」


「なるほど。そういうことでしたか。何もありませんが、どうぞこちらにお越しください。」



 オレ達はアンソニーに言われて建物の中に入った。それなりの大きさはあったが、それでも孤児達10人が一緒に生活するには狭い。当然かもしれないが、応接室などあるはずもない。オレ達は食堂で話をすることにした。



「皆さん。改めまして、私はミコトの姉のサクヤです。ミコトがお世話になったようで感謝します。ありがとうございました。」


「いいえ。特に世話なんてしてませんよ。オレ達は助け合ってましたから。」


「アスラさんは正直なんですね。」



 リンとマロンがニヤニヤと笑っている。食堂を見渡すとある場所に目が行った。子ども達の手の届かない場所に小さな木の囲いがある。その中に木で作られた像があった。



「あれは?」


「ああ、ナデシア様の像です。いつも見守ってくれているんですよ。みすぼらしい木の像で申し訳ないんですけどね。」



 すると、ミコトがアンソニーに聞いた。



「先生。ユウキの意識が戻りましたか?」



 アンソニーもサクヤも下を向いて首を横に振った。



「そうか~。やっぱり駄目なのか~。」


「ミコト。もしかしてユウキって聖騎士達に暴行された少年のこと?」


「そうだ。」


「暴行されて死んだんじゃないの?」


「死んではいないさ。だが、意識がないんだ。」



 するとアンソニーが教えてくれた。



「ユウキは暴行された日から意識がないんです。ですが、数年間ナデシア様のご慈悲で生かしていただいているのです。」



 暴行されたのが数年前。それからずっと意識がないとしたら、数年間何も食べずにいるということだ。普通に考えれば生きていること自体が奇跡なのだ。リンも関心を持ったようだ。



「ミコト。私達をユウキのところに連れて行ってくれる?」


「何をする気だ?」



 リンがオレの顔を見た。確かにオレなら何とかなるかもしれない。そんなことを考えながら、ユウキが寝ている部屋まで来た。そこには7歳ぐらいの少年が横たわっていた。恐らく、意識を失ってから何も食べずに寝たきりだったのだろう。身体の成長が止まっているようだ。



「彼がユウキです。本当なら他の子達と同じ10歳なんですけどね。可哀そうに。」



 するとミコトが声をかけてきた。



「アスラ!お願いだ。この子を何とか助けてやってくれ!この子は私達の弟のようなもんなんだ。」


「わかったよ。やってみるよ。」



 アンソニーも姉のサクヤも何が起こるのかと不安そうにしている。オレは神気を解放した。オレの身体が眩しく光りだし、部屋の中を甘く心地いい香りが満たしていく。



「すべてを癒せ!『リサシテイション』」



 オレの手から放たれた光に反応したのか、ユウキの手がピクッと動いた。そして、ユウキがゆっくりと目を開けはじめた。



「神様なの?僕を助けてくれたの?」


「ああ、そうさ。君は心優しい人間だ。だから助けたのさ。」


「ありがとう。神様。」



 部屋が元通りになっていく。そして、アンソニーとサクヤがオレに片膝をついていた。



「あなた様は神だったのですね。ユウキを助けていただいてありがとうございます。」


「アンソニーさん。サクヤさん。立ってください。オレは人族のアスラですよ。そんなに偉い存在じゃありませんから。」



 するとリンが横から口を出してきた。



「そうよ。アスラは慈愛神よ。でも、地上にいる時は人族なんだから、そのつもりでね!」



 2人が立ち上がった。そしてユウキの手を取った。



「ユウキ!よかったな。もう無茶はするなよ。」


「うん。僕ね。大きな岩の下敷きになってたんだ~。その岩が重くてね。どうしても動かせなかったんだけど。神様がね。その岩をどかしてくれたんだよ。」


「そうか。良かったな。戻ってこれて。」


「うん。」



 アンソニーの目から涙がこぼれた。サクヤもミコトも泣いている。リンもマロンももらい泣きしていた。


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