久しぶりのドワーフ王国
冒険者パーティー暁のメンバーの修行も順調に進み、それなりに実力がついてきた。だが、使っている剣があまりにお粗末なものだ。そこで、オレは暁のメンバー達を連れてドワーフ王国のデンデンのところに行くことにした。
『転移』
全員が目の前に現れた光の渦に飲み込まれていく。そして気が付けば見たこともない場所にいたのだから、暁のメンバー達の驚きは半端なものではなかった。
「なんだ?!何が起こったんだ?!」
「転移よ。アスラがみんなをここに連れてきたのよ。」
リンの言葉を聞いてもまだ戸惑っている。すると、突然オレ達が現れたので、デンデンも腰を抜かして倒れ込んでいた。
「お~!なんなんだ!お前達は!」
「デンデンさん!久しぶり!オレ達だよ!アスラだよ!忘れちゃった?」
「アスラ?お前、本当にアスラなのか?」
すると横からマロンが声をかけた。
「大酒飲みのデンデン!」
「おお~!お前はマロンじゃないか!すると、間違いなくアスラなんだな!」
今度はリンが声をかけた。
「だから~!さっきからそう言ってるでしょ!」
「いや~すまなかった。突然現れたから驚いちまったよ!」
暁のメンバー達はもう放心状態だ。
「デンデンさんにお願いがあって来たんだよ。」
「何だ?言ってみろ!」
「彼らの剣を用意して欲しいんだ。」
リンも一言添えた。
「とびっきりいい奴をね!お礼のお酒もたっぷり持ってきたから、よろしくね。」
するとジュルリと流れそうな涎を拭いて言った。
「任せておけ!俺の渾身の剣が6本あるから、その中から好きなものを選べ!その代わり、わかってるよな?」
「大丈夫だよ。1人じゃ飲み切れないほど持ってきたから。」
「本当か~?」
「本当だよ。」
「なら早速剣を選べ!その後は酒盛りだ!」
やっと正気に戻ったのか、オクトが聞いてきた。
「アスラさん達は何者なんですか?」
すると、それをデンデンが聞いていた。以前、オレが世界中に流した映像を見たのだろう。
「お前達、アスラのことを知らないで一緒にいるのか?馬鹿だな~!アスラは魔王だぞ!以前、空に映像が流れただろう!」
「ま、魔王?!」
「デンデンさん。あまり脅かさないでやってよ!」
「だが、本当のことだろ?」
まさかもう魔王でなく慈愛神に戻ったとは口が裂けても言えない。リンもマロンもミコトも後ろでクスクス笑っている。すると、おどおどしながらジュリーが聞いてきた。
「私達のことを食べたりしないですよね?ジュンと違って私は胸も小さいから美味しくないですよ!」
「ジュリー!君はオレのことを何だと思ってるんだよ!そんなことするわけないだろ!」
リンとマロンとミコトが腹を抱えて笑い始めた。
ハッハッハッハッ
「今までのアスラを見てどう思ったの?」
するとジュンが答えた。
「優しくて厳しくて素晴らしい人だと思いました。」
「そうね。それがアスラよ。」
暁のメンバーも分かってくれたようだ。そしてオレ達はデンデンの家の中に入って行った。家の中には剣がたくさんあったが、その中で別格の剣が6本あった。デンデンが言った剣だ。
「これを持ってみろ!」
オクトが剣を取った。
「凄い!この剣、めちゃくちゃ手にフィットするぞ!」
セプトもジュリーもジュンも一斉に剣を取った。
「本当!軽いわ!これなら力が弱い私達でも思いっきり振り回せるわね!ジュン!」
「そうね。胸の小さなジュリーでも大丈夫ね。」
「何だ~。さっきのこと根に持ってるんだ~!」
「当たり前でしょ!私のことを売ったんだから!」
「ごめんごめん。今度奢るから許してよ!」
「わかったわ!お昼ご飯2食だからね。」
「わかったわよ!」
それぞれ剣を手に取って振り回している。どうやら気に入ったようだ。
「この剣は全部ミスリルだからね。結構固いものを斬っても刃こぼれしないから。」
「ミスリルですか?そんな高価なもの、お金足りるんですか~?」
するとリンが言った。
「ドワーフにお金は役に立たないわよ!」
「なら、どうやって支払うんですか?」
「これさ。」
オレは空間収納から買い込んだ酒をすべて出した。その量は半端な数ではない。部屋の中に入りきらないほどだ。
「デンデンさん。以前渡した魔法袋あるよね?」
「ああ、あるさ。大丈夫だ。もらった魔法袋に入れておけば腐らないからな。」
オレが取り出した酒を片っ端からデンデンがしまっていく。
「あれで足りるかな?」
「ああ、十分だ。ありがとうよ。」
するとリンが言った。
「デンデンさん。ダメよ!一人で飲んじゃ!ちゃんとみんなで分けるのよ!」
「わかってるわい!」
「また来ますね。オレ達、これから用事があるんで。」
「なんだ~。泊まって行かないのか?」
「ゆっくりしてられないのよ!」
「また来る!」
オレ達は再び森の入り口に転移した。そして暁のメンバー達に口止めしておいた。
「オレが魔王であることや魔法が使えることは秘密だからね。」
「わかってます。アスラさん。」
オクトの言葉に全員が頷いた。