アスラの告白!
スチュワート王国に戻ってきたオレ達は久しぶりに王都を散策している。懐かしのレストラン『ミリュー』で食事をした後、王都の冒険者ギルドに行った。すると2階から駆け下りてくる女性がいた。
「やはりお前だったか!アスラ!」
「カレン先生!どうしてカレン先生がここにいるんですか?冒険者は引退したんですよね?」
「ああ、引退したさ。だが、ギルドマスターを頼まれてな。私も断ったんだが、国王命令じゃ引き受けるしかないだろ!」
「そうだったんですか~。」
「それにしても、お前一段と強くなったようだな。魔力を押さえているようだが、それでも外に溢れ出しているんだよ!」
「そうなんですか?でもこれ以上は抑えられないですよ。」
「なるほどな。それでそっちの女性達はお前の妻達か?」
リンとマロンとミコトがくねくねとし始めた。
「いずれですよ。今は冒険者の仲間です。」
「そうなのか~。やはりお前は只者じゃなかったようだな。まさか3人の美女を娶るとはな。」
「やめてくださいよ。カレン先生。それより魔物を買い取ってもらえませんか?」
「ああ、いいぞ。裏に来てくれ!」
オレ達は裏の処分場に行った。さすがに王都のギルドは処分場も広い。オレは遠慮なく魔物達を取り出した。すると広いはずの処分場が魔物で埋め尽くされてしまった。カレンは目を丸くして口を大きく開いたまま固まっている。
「お前、今どこから取り出したんだ?」
カレンに言われて気付いた。いつものように何気なく空間収納から取り出してしまったのだ。もう隠しておくことはできない。
「オレ、魔法が使えるんですよ。だから空間魔法で収納しておいたんです。」
「お、お、お前、それは本当か?!」
「ええ、お父様達も国王陛下も知っていますよ。」
「ハッハッハッハッ 知らなかったのは私だけか~。いつから魔法が使えたんだ?」
「5歳の時からです。」
「なるほどな。お前がいきなり強くなったから不思議に思っていたんだ。納得だ。それにしても凄い数の魔物だな。どこにこんなにいたんだ?」
「魔大陸ですよ。」
「魔大陸?!」
もうカレン先生は真っ白に燃え尽きたようだ。後日お金を受け取りに来ることにして、オレ達は冒険者ギルドを後にした。当然、カレン先生にも夜のパーティーに参加してもらうことになった。
「ギルドにもろくな依頼がなかったわね。」
「魔物が減ったんだからいいことだよ。」
「そうとも言えんぞ!魔物を討伐して生活していた冒険者達は生活が苦しいだろうが。」
確かにミコトが言う通りかもしれない。冒険者達が魔物に頼らず生活できるようになればいいんだが、そんなにうまい方法は思いつかない。
「そろそろ帰ろうか?準備の様子も知りたいし。」
「帰る!」
オレ達は屋敷に戻った。すると、さっきはいなかったミレイとランがいた。ランはいきなりマロンと遊び始めた。
「お帰りなさいませ。アスラ様。」
「ただいま。ミレイさんも元気そうだね。良かったよ。」
ミレイさんが少し暗い顔をしている。
「どうしたの?何か心配事でもあるの?」
「いいえ。侯爵様の計らいでランも王立学院を卒業できました。ですが、学院の同級生とお付き合いするようになりまして、近々結婚することになったんですよ。」
「良かったじゃないですか。おめでとうございます。それで相手は?」
ミレイが黙り込んでしまった。
「どうしたんです?相手は誰なんですか?」
「は、はい。それが第3王子のハウザー様なのです。」
確かにミレイが心配になるのはわかる。貴族が平民と結婚するだけでも大変な国だ。それが王子が平民と結婚しようとしているのだから。
「ハウザー様が周りの貴族達から反対されているようなんです。」
「オレに任せて。ミレイさん。心配いらないから。」
「は、はい。」
そして、いよいよパーティーの時間となった。驚いたことにビクトル国王にマーガレット王妃までいる。ユリウス公爵も夫人と一緒だ。それにシュバルツ一家にマイケル一家、さらにギルドマスターのカレン先生は旦那さんと一緒だ。第3王子のハウザーとランも一緒に居る。それ以外にも、大勢の貴族達がいた。
「アスラ!時間よ!」
「ああ、わかったよ。」
最初はオレの挨拶からだ。なんかオレのためにこれだけの人達が集まってくれたことが本当に嬉しかった。今日、オレはこの人達にすべてを話すつもりだ。
「皆さん。お集まりいただきましてありがとうございます。オレは仲間とともに世界中を旅してきました。今日は皆さんに大事な報告があります。その前に、オレの話を聞いてください。」
オレが話し始めると会場内が静まり返った。
「この世界が創造神様によって作られてから、最高神のナデシア様が降臨されました。その後、次々と神々が降臨していきました。そして神々は相談の上、人族や妖精族、さらには野生動物を創造していったのです。最初の頃には魔物は存在していませんでした。ですが、数万年の間に人々は権力や欲のために争いを始めるようになったのです。そのため、創造神様と最高神様は最後の神として慈愛神を創造されたのです。」
オレの話を聞きながら人々が小声で話をしていた。
「おい。今の話本当なのか?まるで見てきたかのようだぞ!」
「慈愛神なんて聞いたことがあるか?」
「いいや。初めて聞いたぞ!」
「しー!」
オレは話を続けた。
「慈愛神は最後に創造された神であったためまだ考えも幼く、いつも地上世界を眺めていました。すると、人々が人殺しだけでなく戦争まで始めるようになったのです。奇麗だったこの世界が暗闇に包まれてしまったのです。そこで慈愛神は地上世界の悲しみ、怒り、憎しみの感情を自ら吸収し始めたのです。お陰で世界は再び透明になったのですが、慈愛神の容量がいっぱいとなり、とうとう慈愛神の身体から黒龍が生まれたのです。黒龍は次々と世界の国々を滅ぼしていきました。恐怖に怯えた人々は最高神ナデシア様にお願いして異世界から勇者を召喚したのです。」
すると再び話し声が聞こえてきた。
「勇者は魔王討伐のために召喚されるんじゃないのか?」
「黙って聞いてろ!」
再びオレは話し始めた。
「そして今から2000年前、慈愛神は人々の世界を見ているだけでは我慢できなくなり、地上世界に舞い降りたのです。ですが、当時の人々も戦争に明け暮れていました。その中で、慈愛神は子ども達のために生きる一人の女性アリスと出会ったのです。2人はすぐに恋に落ち、一緒に暮らすようになったのですが、こともあろうか再び慈愛神の容量がパンクして黒龍が生まれたのです。そして黒龍は慈愛神の見ている前で、最愛の女性アリスを食い殺したのです。怒りが爆発した慈愛神は見る見るうちに魔王へと変化していったのです。その後の話は伝説の通りです。」
会場内が静まり返ったままだ。全員がオレを見ている。
「一部の人にはすでに伝えていますが、その慈愛神だった魔王がこのオレなんです。」
マイケルもシャリーもカレン先生も驚きすぎて固まってしまった。
「実はオレは神界から追放されていたんですが、今回の旅を通していろいろと勉強させていただきました。ここにいるリン、マロン、ミコトのお陰です。オレは魔大陸で再び黒龍を生み出しかけたのですが、ここにいる仲間達のお陰で乗り越えることができました。そして、オレに与えられていた罰がすべて許されたのです。」
するとビクトル国王が戸惑いながら聞いてきた。
「アスラ。罪が許されたってことは・・・」
オレはリンを呼んだ。
「リン。ここに来て。」
「いいわよ。」
オレとリンが元の姿の戻っていく。リンの背中から、今までよりもさらに大きく立派な純白の翼が出た。全員が驚きの声をあげた。
「ま、まさか、天使様なのか?!」
「そうよ。天使見習いから天使になったのよ。」
そして、オレの身体が黄金の光に包まれた。その光は物凄く温かく神々しい光だ。そしてその光の中から真っ白な衣に包まれたオレが現れた。オレの身体からは温かく眩しい光が溢れている。その光を見て、その場の全員が涙した。
「ま、まさに慈愛神様。」
オレは周りを見渡した。国王もその場の全員がオレに片膝をつている。
「皆さん。立ってください。オレは地上にいる間は慈愛神ガイアではなく、人族のアスラですから。」
お父様もお母様も立ち上がったまま固まっている。
「ここにいる皆さんにお願いがあります。」
再び全員がオレに集中した。
「本来すべての人々は平等なんです。ビクトル国王やユリウス公爵には申し訳ありませんが、国王も公爵もどんな肩書も神の前では通用しません。国王や公爵という称号は、神より与えられたものなんです。つまり、先頭に立って人々の幸せに貢献しなさいという神の意志なんです。お判りいただけるでしょうか?」
するとビクトル国王が頷いた。
「私も常々そう思っているさ。国王や貴族はえばるための存在ではない。贅沢をするための存在でもない。人々の幸福を追求するための存在なんだと。そうだな!ユリウス!」
「はい。陛下のおっしゃる通りです。我々貴族は国民がいかに幸せに暮らせるかを常に考えなければいけません。そのための存在なのですから。」
他の貴族達も頷いている。そこでオレは第3王子のハウザーとランを呼んだ。
「ハウザーさん。ラン。ここに来て欲しい。」
ハウザーとランは不安そうな顔をしてオレの前にやってきた。
「皆さん。ハウザーさんはこの国の第3王子です。ランは平民の子です。この二人が結婚することは間違えているのでしょうか?オレはそうは思いません。神であるオレにも妻になる予定の女性がいます。ここにいる天使のリン。魔族のマロン。人族のミコトです。彼女達はやがてオレの妻になるでしょう。オレは立場や身分よりも大事なものがあると思います。それは心です。愛です。違いますか?第3王子ハウザーとランとの婚姻は神であるオレが認めます。」
ビクトル国王が最初に拍手をすると、次々と会場から拍手が沸き起こった。
「おめでとう。ハウザー。」
「おめでとう!ラン!」
マリアも弟の結婚が嬉しいようだ。最後にオレはみんなに伝えた。
「この国が未来永劫、世界の平和に貢献することを願っています。乾杯!」
そして食事会が始まった。オレのところにはシュバルツやマリア、マイケルとシャリーがやってきた。
「驚いたぞ!アスラ!まさかお前が慈愛神だったとはな。道理でオレが勝てないわけだな。」
するとマリアが横から言った。
「シュバルツ。それは違うわよ。だって、学院の時代にはまだアスラは人族のままだったんでしょ?」
「まあね。」
するとマイケルとシャリーが話してきた。
「アスラ君。実は言いにくいんだけど、この子の名前をアスラにしたんだ。」
シャリーも申し訳なさそうだ。
「ありがとう。マイケル、シャリー。オレのことをそこまで思ってくれてたなんて。なんかオレの方こそ申し訳ないよ。」
「そんなことないわよ!私もマイケルもアスラのことはずっと親友だと思っていたんだから!」
「なんか学院時代が懐かしいよ。」
するとマリアが前に出た。
「そうね。私達も若かったわね。シュバルツ、アスラ、マイケル、シャリー。あなた達と出会えて本当に良かったわ。」
その後もいろんな人達がオレのところにやってきた。リンとマロンとミコトを探してみると、3人ともいろんな人達と話をしていた。マロンはちゃんと話ができるのかな~?ちょっとマロンが不安だ。