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魔王少年アスラ  作者: バーチ君
魔大陸
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ミコトの過去

 ミラクル王国を建国した後、オレ達は1か月ほど魔大陸に滞在した。その間、できるだけ凶暴な魔物を討伐してまわった。そこで気付いたが、魔物達は狂暴であればあるほど肉が美味しいのだ。魔素を多く取りこんでるせいかもしれない。特にコカトリスの肉は絶品だった。カエサルもマジョリーヌも大喜びだ。



「そろそろね。」


「ああ、次はナデシア聖教国だな。」



 オレの言葉にミコトが反応した。



「私の生まれ故郷か。私がうまい店を案内するぞ!期待していろ!」


「そう言えば、ミコトのことを聞いたことがなかったな。」


「私の話など何も面白くないぞ!」



 するとマロンが言った。



「アスラ兄に聞かれると恥ずかしい?」


「そんなんじゃないさ。」


「なら、いいじゃない。私も知りたいわ。ミコトの子どもの頃の話とか知りたいわ。」



 ミコトがしんみりとしながら話し始めた。



「アスラ達も知ってる通り、私の家は勇者の末裔だ。初代様や2代目、3代目まではまだ良かったようだが、そのうち人々から忘れ去られるようになって没落していったんだ。私の祖父の時代には、聖都にすら住むことができずに聖都の郊外の荒れ地を開拓して暮らしていたんだ。」


「酷い話ね。」


「リン。ミコトの話を聞こうよ。」



 ミコトが続きを話し始めた。



「祖父も両親も私が子どもの頃に死んでしまって、私は姉と二人で生活していたんだ。そんな時、聖都に孤児達の面倒を見るアンソニー先生が現れてな。私と姉は、時間がある限りアンソニー先生のところに手伝いに行くようになったんだが、教会の連中や街の連中が孤児達を毛嫌いしてな。」


「どうして?孤児達が何か悪さでもしたの?」


「違うさ。孤児達の両親達が教皇や教会に反発したからさ。彼らはみんな不信人者として殺されたんだ。」


「酷いわね~。」


「ああ、酷いもんさ。聖都内にいられなくなったアンソニー先生や孤児達は郊外にある私達の家で暮らすようになったんだ。そこでみんなで自給自足の生活をしていたんだが、追い出されたことに我慢が出来なかった少年がいてな。そいつが聖都の教会に怒鳴り込んだんだ。」


「その子、どうなったの?もしかして・・・」


「ああ、そうさ。私が行ったときにはもう虫の息だったよ。あいつらユウキをボロ雑巾のようになるまで殴りやがったんだ。」


「酷い!酷すぎるわ!」


「だから、私は強くならないといけないんだ!あの子達を聖騎士や教会の連中から守ってやりたいんだよ。」



 思い出したのだろう。ミコトの目から涙が流れている。



「でもな。街の人間が全員悪いわけじゃないんだ。こっそり食事を用意してくれた人達もいるしな。子ども達の服をくれた人達もいるんだ。悪いのは教会の連中と教皇のために働く聖騎士達なんだ。街の人達は怖くて何も言えないだけなんだ。」



 そしてその日は別々の部屋でゆっくり休んだ。オレはベッドに一人で寝ころびながら考えた。



“どうして人は残酷になれるのだろう。この世界から悲しみや怒りを取り除くことは無理なんだろうか。”



 すると、リンがオレの部屋にやってきた。



「アスラ。あなたまた考え込んでるでしょ?」


「まあな。」


「人間にはそれぞれ成長段階があるんじゃないかな~。ナデシア様も言っていたけど、未熟な魂もいれば聖人のような魂の持ち主もいるのよ。」


「わかってるさ。でもな~。人々が苦しむのをどうしても我慢できないんだ。」


「なら、この世界を壊して新しい世界を作ってみる?」


「そんなことできないさ。」


「今のあなたならできるでしょ?」



 確かにやろうと思えばできないことはないかもしれない。だが、この世界にも必死に生きている人達がいるんだ。その人達の未来を希望を奪い取ることはできない。



「やっぱりあなたは優しすぎるのね。アスラ。」



 オレは知らないうちに寝てしまったようだ。朝起きると、隣にはリンが寝ていた。そして、いよいよミラクル王国を旅立つ前日になった。



「あれっ?マロンは?」



 お城の食堂にいくとミコトだけしかいなかった。



「アスラ達と一緒じゃなかったのか?」


「ああ。」



 どうやらマロンは一人で悩んでいるようだ。せっかく家族3人で暮らせるようになったのだから当たり前なのかもしれない。



「どうするの?アスラ。」


「どうするって、何が?」


「マロンのことよ。」


「マロンだって子どもじゃないんだ。自分で決めるさ。」



 オレ達が食事をしながら今後の話をしているとマロンがやってきた。マロンはいつもに増して無口だ。



「マロン。あなたの好きなようにしていいのよ。」



 なんかマロンが余計に暗くなった。誰かに後押ししてもらいたいのかもしれない。



「マロン。オレ達と一緒に来い!お前はオレ達の家族だ!そうだろ!戻って来たかったら何時でも転移で連れて来てやるから!」


「うん!!!」



 暗かったマロンがオレの左腕に抱き着いてきた。どうやら吹っ切れてようだ。反対側の腕にはリンがいる。いつものようにあたふたしているミコトを見てマロンが言った。



「ミコト姉!ここいいよ!」


「いいのか?」


「うん。だってずっとアスラ兄と一緒だもん!」



 マロンの微笑む姿を見て、オレの目に光るものがあった。マロンが生きていたことが嬉しくていられなかったのだ。そして、オレ達は出発前にカエサルとマジョリーヌに挨拶に行った。



「そうですか~。もう出発するんですか~。」


「すみません。オレ達にはやらなければいけないことがあるんです。」


「わかりました。マロンのことをよろしくお願いしますね。」



 するとリンが前に出た。



「大丈夫よ。マロンは私達の家族なんだから。」



 マジョリーヌの目から涙がこぼれた。マロンもマジョリーヌに抱き着いている。



「お母さん。行ってくるね。」


「みんなに迷惑かけないようにね。」


「うん。」



 オレ達が出発しようとするとカエサルが何かを思い出したかのように言った。



「そうだ。アスラ殿。私が操られていた時の記憶だから正確ではないかもしれないが、ケッセラ達が話していたことがあるんだ。」


「どんなことを話してたんですか?」


「ああ、なんか南にもう一つ大陸があるらしいんだが、そこには竜族達が暮らしているようなんだ。魔大陸や他の国々を亡ぼしたら、最後は『竜族と決戦』とか言っていたんだよ。」



 確かにこの世界には竜族がいる。だが、竜族はあまりにも凶暴な種族のため他の種族から隔離されているはずだ。悪魔族のケッセラなら竜族のことを知っていてもおかしくない。だが気になることもある。ケッセラはオレが神であったことも、オレから黒龍が生み出されたことも知っていた。デーモンロードとは言え、神界の出来事を知ることは不可能なはずだ。なにか不自然だ。オレの知らないところで何かが動いているのかもしれない。



「じゃあ、何かあったらこのオーブで連絡してください。」


「皆さん。お気をつけて。」


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