アラクネ族の村
トロール族の街で説得できずに戦闘になったが、オレの圧倒的な強さを見てトロール族達はオレの話を信じるに至った。そして、その日はトロール族の街で休息をとり、その翌日再び王都を目指して歩き始めた。
「次の街は大丈夫かな~。」
オレが独り言のようにつぶやくとマジョリーヌが言ってきた。
「アスラさん。次の街はアラクネ族の街グリースです。油断しない方がよろしいかと思います。」
「そういえばアラクネ族って女性のイメージなんだけど、男もいるの?」
「いいえ。彼女達は両性具有ですので男はいません。」
「そうなんだ~。」
すると、マロンがオレを見た。
「アラクネ族はみんな美人!胸も大きい!」
「マロン!なんでオレを見て言うんだ?オレには興味ないから。」
「うそうそ!アスラって本当に嘘が下手よね。期待してるくせに!鼻の下が伸びてるわよ!」
オレは慌てて鼻の下に手を当てた。
「アスラ!お前は私やリン、マロンじゃ不満なのか!私達のどこに不満があるんだ?」
「いや、不満なんかないさ。3人とも美人だし、いいと思うよ。」
3人がオレに褒められてもじもじし始めた。なんかちょろい。その様子を見てマジョリーヌがクスクスを笑っている。
「皆さんはいつもこんな感じなんですか?」
「そうよ。どうして?」
「私はマロンが羨ましいですよ。こんな楽しい旅なら私もご一緒したいぐらいですもの。」
「お母さんはダメ!アスラ兄は私達のもの!」
「大丈夫ですよ。アスラさんだってこんなおばさんなんか相手にしませんから。」
「何言ってるんですか。マジョリーヌさん。多分この中であなたが一番女性らしいですよ!」
するとリンが怒り始めた。
「ちょっとアスラ!聞き捨てならないわね!どういうことよ?」
「自分の胸に手を当てて考えてごらんよ。ハッハッハッハッ」
そんな話をしながら歩いていると、アラクネ族の村まで到着した。辺り一帯はうっそうと木が生い茂っている。トロール族の街と違って城壁がない。街の中にまで木々が生え、彼女達の家は木々の上にあった。
キャー
マロンが悲鳴をあげた。後ろの木から糸で攻撃されたようだ。慌ててミコトがマロンの糸を斬った。
「隠れてないで出て来いよ!」
アラクネ達の姿はない。だが、オレの魔力感知には50体以上のアラクネ達の反応がある。オレ達を囲むようにしているみたいだ。先ほどとは違い、四方から一斉に鋭い糸が飛んできた。どうやら最初の糸は脅しだったようだ。オレ達は剣を抜いて糸を斬っていく。
「お前達が出てこないならこっちから攻撃させてもらうぞ!」
リンもマロンもミコトもやる気満々だ。
「3人とも殺しちゃだめだからね。」
「わかってるわ。」
3人がその場から散っていった。
テヤー
ギャー
カッキン
バタン
どうやら3人は順調にアラクネ達を戦闘不能にしているようだ。アラクネの姿が女性なだけに、オレには戦う気が起きなかった。オレはマジョリーヌと一緒に3人の様子を見ていた。
「みんな~!戻っておいで!一気に片を付けるから!」
3人がオレ達のところに戻ってきた。オレは両手を上空に向けた魔法を唱えた。
「火の大精霊サラマンダーよ。我に力を!『ビッグボール』」
すると、オレ達の頭上に巨大な炎の球が現れた。その熱はすさまじい。かなり上空にあるにもかかわらず、アラクネ達の家のある木がチリチリと音を立て煙が上り始めた。焦ったのはアラクネ達だ。必死に火を消そうとするがどうにもできない。オレは大きな声で言った。
「降伏しなよ。さもないとここら辺一体の木をすべて燃やすよ。」
オレの声が聞こえたのか、アラクネ達がオレ達の前に姿を現した。上半身は人間の女性だ。しかも全員胸が大きく肌の露出が多い。目のやり場に困ってしまう。
「どうする?降伏する?」
アラクネのリーダーらしき女性が頭を下げてきた。絶世の美女だ。
「私達の負けよ!どうにでもしなさい!でも、森の木だけは燃やさないで!森の木は他の生き物達にとっても大事なの!」
「わかったよ。」
オレは魔法を解除した。すると後ろにいたマジョリーヌが声をかけた。
「アラクネ族の皆さん。あなた方は優しい方達です。カエサルは悪魔族のマモンに操られているんです。私達はカエサルを救い出しに王都に向かってるんです。私達に協力してもらえませんか?」
アラクネ族達はマジョリーヌの言葉を聞いて驚いていた。
「マジョリカ王国の女王マジョリーヌ様。あなたは危険をも顧みず、自ら敵地に乗り込んできたのです。我々もあなたの言葉を信じましょう。ぜひ協力させてください。」
「ありがとう。」
「申し遅れました。私は族長のチュラといいます。」
「チュラさん。オレ達が怪我させた人達を集めてくれるかな。」
チュラは不思議そうな顔をしていたが怪我人たちが集められた。10人ほどいる。みんな足を数本失った状態だ。オレは彼女達に向かって手をかざし魔法を唱えた。
「元に戻れ!『リカバリー』」
オレの手から出る温かい光に全員が包み込まれていく。そして光が収まると、全員の足が元に戻っていた。
「こ、これは?!」
「足が揃ってないと生活しづらいでしょ。」
「あなたは神なのか?」
「いいや。オレは魔王さ。」
「魔王?!」
「ああ、あなた方が探していた魔王アスラだよ。」
「まさか本当なのか?私達が聞かされていたのは、『人族の世界に現れた魔王は黒龍を討伐した後、この大陸の人々を皆殺しに来るから用心せよ』と言われていたのだ。」
するとリンが聞いた。
「今はどっちを信じるの?」
「あなた方のような人達が悪であるはずがない。」
「良かったよ。信じてくれて。」
そしてオレ達はチュラの家で状況を説明した。チュラは驚いていたが、すぐに信じてくれた。