トロール族の街
マジョリーヌさんとの会話は非常に有意義なものだった。現在の魔大陸の状況が見えてきただけでなく、オレの大罪についても重大な情報を得ることができた。だが、マロンは少し暗い。当たり前だ。自分の命を狙ったディアブ王国のカエサルが自分の父親だと知ったのだから。
「マロン。カエサルは悪魔族に操られているんだ!お前を殺そうとしたのもカエサルの本心ではないはずだ!」
「うん。わかってる。」
少し休んだ後、オレ達は再び今後の作戦を話し合うことにした。
「さっきの話だけど、もしカエサルが悪魔族に利用されているならその解放が最優先だな。」
「アスラ。解放って言っても難しいぞ!カエサルの近くには四天王がいるんだろ!」
「ミコトの言う通りよ。」
マジョリーヌも同じ意見のようだ。
「そうですね。四天王と呼ばれる物達の力はかなり強力ですよ。特にデーモンのマモンは別格の存在ですから。」
「そうよね~。もしマモンがデーモンロードなら私でも相手をするのは難しいわね。」
リンの発言を聞いてミコトが驚いた。
「リンでも難しいのか?!」
「そうね。マモンの相手はアスラにお願いするしかなさそうね。」
「わかった。マモンはオレが相手するよ。」
「なら、サキュバスのグルシアは私が相手をしよう。」
「ミコト!あなた大丈夫なの?相手はサキュバスなのよ!」
「リン!それはどういう意味だ!サキュバスは男を魅了する悪魔だろ!私は女だぞ!」
「冗談よ。」
すると、マロンが力ない声で聞いてきた。やはりカエサルのことがショックなようだ。
「あたしは?」
「そうだな~。マロンは光魔法が得意だからリッチのケルトンの相手をしてくれ。」
「わかった。」
「マロン!しっかりしなさい!」
「うん。」
リンもマロンのことが心配なようだ。
「なら、私がデュラハンのデッセンね。」
「ああ、頼むよ。リンなら余裕だろ!」
「まあね。」
するとマジョリーヌが聞いてきた。
「私はどうしたらいいんでしょう?」
「マジョリーヌさんはカエサルを頼みます。彼が正常になるまで相手をしてください。」
「アスラ!他の魔族達はどうするつもりなの?」
「ラミリスさん達にお願いするさ。」
ラミリスの名前を聞いてマジョリーヌが驚いた。
「ラミリスって精霊女王様のことですか?」
「そうよ。なんかアスラの昔からの知り合いみたいよ。」
なにやらマジョリーヌがオレの顔をまじまじと見つめた。
「マロン。あなた幸せものよ。アスラさんと知り合えて。」
すると少し元気が出たのか、マロンがオレの腕に抱きつきながら言った。
「うん。アスラ兄は最高!」
それからオレ達は行動を開始した。最初にラミリスや大精霊達に協力をお願いしに世界樹に行った。ラミリスも大精霊達も喜んで協力してくれることになった。そして、いよいよオレ達はディアブ王国の王都ラーマに向かうことことにした。
「みんなに忠告しておくわ。」
いきなりリンがみんなに話し始めた。
「さっきまで強力な結界を張っておいたから、私達の話が漏れるようなことはなかったと思う。でも、相手は悪魔族よ。恐らくたくさんの眷属がいるわ。私達がラーマに向かうことはばれてると思った方がいいわ。どんな時も油断しないようにね。」
「そうだな。リンの言う通り注意していくぞ!」
「了解だ!」
「うん。」
ディアブ王国に入って最初の街スーデンの手前まで来た。この街はトロールの街だ。街を取り囲むように城壁が張り巡らされていたが、その大きさが半端ない。高さ10mほどはありそうだ。
「アスラ。どうやって街の中に入るんだ?」
「正面から行くさ。」
「大丈夫か?」
「ああ、みんなが力を合わせれば何とかなるさ。」
オレ達は城門まで来た。城門は金属製でできている。人間の力では到底開くことはできないだろう。だが、オレは違う。
フン
オレが両手で押すと扉が開き始めた。そして街の全容が見え始めた。やはりトロールの街だ。家がやたらと大きい。そして、各家から大きな剣や大きな斧を持った男達が現れた。女や子どもは家の中にいるようだ。
「貴様はマジョリーヌか!この街に何の用だ?まさかその人数で我らトロールに戦いでも挑むつもりか?」
オレはトロールの前に出た。
「お前達は悪魔族のマモンに利用されているだけだ!目を覚ませ!」
「何をほざく!人間よ!マモン様はカエサル様の側近中の側近だ!疑うまでもないわ!」
トロールたちは武器を構えた。このまま戦えば相手に死人が出るかもしれない。そうなれば死んだトロールの妻や子どもが怒り、悲しむことになる。
「オレはお前達を殺したくない。お前達の中で一番強い奴が前に出ろ!オレの力を見せてやるから。」
「ほざいたな。小僧!お前など瞬殺してやるわ!」
真ん中あたりにいたトロールが前に出た。
「どっからでもかかって来いよ!」
オレの言葉が挑発にとれたのか、真っ赤な顔をしてトロールが剣を振り下ろしてきた。オレは剣も抜かずにそれを軽々とかわした。
「なるほど、言うだけのことはありそうだな。」
オレは剣に手をかけて一言言った。
「死なないでよ。」
オレは剣を抜いて一気に間合いを詰めてトロールの両手を斬り落とした。あまりの速さに誰も見えなかっただろう。
グァー
両手を斬り落とされたトロールが地面を転がった。すると、後ろに控えていたトロール達が一斉にオレに斬りかかろうとした。
「しょうがないな~。」
オレは魔力を一気に解放した。辺り一帯に黒い靄がかかり始める。オレの身体が黒い光に包まれていく。トロール達は何が起こったのかと辺りをキョロキョロし始めた。次の瞬間、まるでオレを中心に何かが爆発したかのような音がして突風が吹いた。そして、黒い靄が消えてなくなると、背中に漆黒の翼を生やした一人の男が立っていた。その男の周りにはとてつもなく強い魔力とオーラが溢れていた。
「ま、ま、まさか?魔王なのか?!」
「ああ、そうだ。オレは魔王アスラだ!」
勢いの良かったトロール達が後ずさりする。オレは地面に倒れているトロールに手をかざした。すると、眩しい光がトロールの身体を包み込んで行く。そして斬り落とされたはずの両手が見る見るうちに治って行った。その光景をトロール達は愕然とした様子で見ていた。
「どうした?まだやるか?」
怪我を治してもらったトロールがオレに平伏していった。
「すまなかった。どうかこの街のみんなの命だけは助けてやってくれ!」
「大丈夫だ。オレはお前達を殺しに来たわけじゃない。もう一度言う。カエサルはマモンに精神支配を受けてるんだ。オレ達はカエサルを救い出すために王都に行くんだ。」
トロール達が武器を下ろしてお互いの顔を見合っている。
「何故だ?なぜマモン様がカエサル様を・・・」
「それはオレにもわからん。ただ、マモンは悪魔族だ。人々の悲しみや怒り、憎しみを好んでいるのは間違いないだろうな。」
オレの言葉に思い当たる節があったのだろう。トロールの代表は肩を落とした。自分達が利用されていたことに気が付いたのだろう。
「マジョリーヌ様。申し訳なかった。俺達はあんたたちの同胞にひどいことをしてしまった。許してくれ。」
「いいのよ。あなた方もある意味犠牲者なんだから。」
「感謝する。俺はトロール族の長のドカティーだ。俺達もあんた達に味方するぜ。」
その日はトロール族の街で休息をすることにした。




