黒龍はアスラが生み出している?!
マロンの母親のマジョリーヌと会ったオレ達は、王城の応接室でいろいろと話をした。そして、その日は王城に泊まることになった。当然、部屋は別々だ。今後の話もしないといけないが、それは翌日に話し合うことにした。オレが部屋で寛いでいるとリンがやってきた。
「どうしたんだ?」
「ちょっと気になることがあったのよ。」
「なに?」
「この前サキュバスがいたわよね?」
「ああ、グルシアとか言ったよな。」
「その他にもディアブ王国にはデーモンのマモン、デュラハンのデッセン、リッチのケルトンとかいうやつらがいるんでしょ?」
「確かマロンがそんなこと言っていたよな。それがどうかしたのか?」
「サキュバスもデーモンも悪魔族なのよね~。どうして悪魔族がバンパイア族の味方してるのか不思議なのよね。」
「確かにな~。悪魔族の中でもデーモンは自分達が一番でなければ我慢できない種族だ。それがバンパイア族の部下になったというのは気になるな。」
「そうでしょ?」
「ま~、明日マジョリーヌさんに詳しく聞いてみるさ。」
「そうね。」
そして翌日、オレが目を覚ますとベッドの隣にはリンが寝ていた。どうやら自分の部屋に戻らなかったようだ。いつもなら寝坊のマロンとミコトがやってきた。
「あ~!リン姉!ずるい!」
「ん~」
リンが眠たそうに眼をこすりながら起きた。
「何よ!どうしたのよ!こんなに朝早くから!」
「リン!お前卑怯だぞ!どうしてアスラのベッドにお前がいるんだ?」
「いいじゃない!あなた達だって同じようにすればよかったでしょ!」
なんか朝から騒々しい。とりあえずオレもリンも着替えてみんなで食堂に行った。すると、すでに朝食の用意ができていた。
「おはようございます。マジョリーヌさん。」
「みなさん。おはようございます。どうぞ温かいうちに召し上がってください。」
「ありがとうございます。」
オレ達は朝食を食べた後、再び昨日の応接室に集まった。
「マジョリーヌさんに聞きたいんですけど。ディアブ王国との争いはどうなっているんですか?」
「争いと言っても向こうが一方的に攻撃してきてるんです。こちらとしてはただそれを防いでいるだけの状態なんですよ。」
「ディアブ王国のカエサルは昔から攻撃的だったんですか?」
「いいえ。昔は温厚で優しい方でしたよ。実は幼馴染なんです。子どもの頃はよく一緒に遊びましたから。」
するとリンが言った。
「カエサルが変わったのって悪魔族が現れてからじゃないの?」
「よくわかりましたね。その通りですよ。」
リンがオレを見た。やはり悪魔族が何かした可能性がある。ミコトも気になるようだ。
「リン。どういうことだ?私にもわかるように説明してくれ!」
「悪魔族って人の精神を攻撃したり操作したりするのが得意な種族なのよ。だから、もしかしたらカエサルが悪魔族に精神支配されているかもしれないってことよ。」
マジョリーヌが何やら考え込んでいた。
「でも、おかしいですね。カエサルはバンパイア族なんです。バンパイア族の実力者であるカエサルが精神支配されるなんて思えないんですけどね。」
するとリンが言った。
「確かにサキュバスや普通のデーモンならカエサルが精神支配されることはないでしょうね。でも、もしマモンがデーモンロードだったらどうかしら?」
マジョリーヌの顔が青ざめていく。それもそのはずだ。デーモンロードと言えば天使に匹敵する力を持っている。神々や天使が地上にいない以上、デーモンロードは最強の存在と言っても過言ではないのだ。
「大丈夫ですよ。マジョリーヌさん。オレ達が何とかしますから。」
「そうだぞ!アスラは魔王だし、リンは天使見習いなんだから!どうにかなるだろ!」
「は、はい。」
ミコトの言葉を聞いてもマジョリーヌの不安は晴れないようだ。気を取り直してマジョリーヌが質問してきた。
「ところで、アスラさんはどうして旅をしてるんですか?」
「ああ、その件ですね。」
オレが言いにくそうにしていると、代わりにリンが答えた。
「アスラは罪の償いをしているのよ。ナデシア様から罰を受けていて、アスラは不老不死の存在になってるからね。」
「どうしたら罪が償われるんですか?」
「オレにもわからないんです。ただ、この世界の怒りや悲しみ、憎しみが黒龍を生み出すことがわかってるから、せめて黒龍が現れないようにしたいだけなんです。」
「黒龍ですか~。確かに魔族の間の伝承でも同じことが言われています。」
「魔族の間にも黒龍についての伝承があるんですか?」
「ええ、ありますよ。お教えしましょうか?」
「おねがいします。」
オレ達はマジョリーヌから黒龍についての伝承を聞くことにした。
「この世界ができてしばらくした後に、人族や妖精族、様々な生き物が創造されたようです。ある時、神様の一人が地上をご覧になると、地上では殺し合いや奪い合いが行われていて、悲しみ、憎しみによって空気が黒くゆがんで見えたそうです。そこで、その神様は悲しみや憎しみ、怒りをすべて自分の中に吸収したんです。おかげで世界は黒い靄が取り除かれ再び晴れたのですが、神様の身体から真っ黒な竜、黒龍が生まれたそうです。黒龍は地上に舞い降りて世界を破壊しつくしたようです。そして2000年前には、黒龍が現れると魔王まで現れたそうです。人々は異世界から勇者を呼んで魔王を討伐したそうです。」
マジョリーヌの話を聞いて、リンもマロンもミコトもオレを見た。
「マジョリーヌさん。その神様ってもしかして『慈愛神ガイア』って名前じゃないの?」
「伝承では神様の名前までは知られていませんでしたから。」
「そうなのね。」
もしその神様が慈愛神ガイアだとすれば、オレが毎回黒龍を生み出していることになる。もしかすると、ナデシア様が言ったオレの犯した罪というのはこのことかもしれない。オレ自身が狂暴で邪悪な黒龍を生み出しているのだとすれば、どうすればいいのだろう。
「アスラ!アスラ!アスラ!」
「なに?」
「あなた、自分のことじゃないかって心配してるんでしょ!」
やはりリンにはオレの心がわかるようだ。
「まあね。」
「だとしても仕方ないじゃない。黒龍が現れたら討伐すればいいのよ!それに、黒龍はこの世界の悲しみや憎しみを吸収してくれてるんでしょ!なら、必ずしも悪い存在じゃないんじゃない。」
「確かにそうだけどさ。でも、その神様がいなければ黒龍は生まれないんだろ?」
「違うわよ。世界に怒りや憎しみがなくなればいいのよ。だから、私達はその原因を少しでも摘んでいけばいいのよ。」
「リンの言う通りだ!アスラ!もしお前が黒龍を生み出しているとしても、それはお前のせいじゃない!この世界に怒りや悲しみがあるからいけないんだ!みんなでこの世界を平和にすることを考えた方がいい。」
「アスラ兄は正義!」
「ありがとう。みんな。」
マジョリーヌが不思議な顔をして聞いてきた。
「話がよく見えなかったんですけど。」
「ああ、マジョリーヌさんにはまだ話してなかったですよね。記憶が定かではないんだけど、オレは神界にいて『慈愛神ガイア』って呼ばれていたんです。昔の話ですけどね。そこで大罪を犯して神界を追放されたんですよね。それで受けた罰が不老不死なんです。だから、マジョリーヌさんが言う神様ってオレのことのような気がするんですよ。オレが魔王化するときにはいつも黒龍がいるしね。」
「そうだったんですか~。アスラさんの魔力が膨大で神聖な理由がわかりました。」
「マジョリーヌさんの魔力からも神聖な力を感じるんだけどね。どうしてかな?」
マジョリーヌがマロンを見ながら言った。
「誰にも言ってなかったんですけど、実は私は堕天使族の末裔なんです。かなり昔の話になりますが、堕天使族とバンパイア族は人々から嫌われる存在だったんです。そこで、堕天使族とバンパイア族がこの大陸に渡ってそれぞれの国を作ったんです。その結果、バンパイア族のディアブ王国には魔物から進化した魔族が住みつき、マジョリカ王国には魔力が増えすぎて魔人化した人達が住み着いたんです。」
「なら私は?」
マロンの問いかけにマジョリーヌが黙り込んでしまった。そして、何かを決心したかのように話し始めた。
「マロン。よく聞いて!実はあなたの父親はカエサルなのよ。」
「えっ?!」
「え—————!!!」
これにはみんな驚いた。ありえない話ではない。悪魔族が現れるまではディアブ王国とマジョリカ王国は仲が良かったわけだから。
重たい話が続いたのでいったん休憩することにした。