世界樹の幼木
オレ達はマジョリカ王国の街フィレントにある湖まで来た。この湖から濃い魔素が発生しているのだ。その対策を考えていたが、精霊女王ラミリスに相談することになった。
「じゃあ、世界樹まで転移するから近くまで来てくれるか。」
オレの右腕にリンが抱き着いてきた。それを見てすかさずマロンが左腕に抱き着いてくる。
「何でいつも私ばっかり一人なんだ!」
「ミコトが遅いからよ!」
「わかった!なら私はこうしよう!」
するとミコトは正面からオレに抱き着いてきた。ミコトの豊かな胸の感触が伝わってくる。
「行くぞ!」
オレ達は世界樹まで転移した。するとオレ達が来ることがわかっていたのか、精霊女王と7大精霊達が待っていた。
「ガイア様。お待ちしてました。」
「待ってたよ!ガイアちゃん!」
いつもの通りウンディーネがオレに抱き着いてきた。自分の場所を取られたミコトがムッとしている。だがそんなことにお構いなく、シルフィーもオレに抱き着いてくる。
「ちょっとウンディーネ!シルフィー!失礼ですよ!」
「だって久しぶりなんだもん。ガイアちゃんの温もりを忘れないようにするためだもん。」
サラマンダーもノームもあきれ顔だ。オレはウンディーネとシルフィーを引き離して真剣に話し始めた。
「ラミリスさん。今日ここに来たのは魔大陸の魔素の件なんだ。」
「わかっていますよ。魔大陸には世界中の魔素が集まりやすいですからね。」
するとマロンが聞いた。
「どうして?どうして魔大陸に集まるの?」
ラミリスは目の前に赤い靄を出した。そして、大きく深呼吸する。すると赤い靄がどんどんラミリスの方に吸い寄せられていく。
「これと同じですよ。魔大陸の人々は魔法を使うわよね。だから魔素がどんどん魔大陸に吸い寄せられていくのよ。」
物凄くわかりやすい説明だ。オレも納得した。
「ところでラミリスさん。濃い魔素を薄める方法はないんですか?」
「そうですね~。世界中の魔素は世界樹が管理しているんですよ。魔素が濃くなればそれを取り除き、薄くなれば魔素を放出しているんです。世界樹と同じ効果を持つものがあればいいんですけどね~。」
するとドリアードが何かに気づいたようだ。
「精霊女王様。世界樹の種をお渡ししたらいかがでしょう。」
「そうね~。でも、世界樹の種は発芽しないのよ。恐らく、世界に1本しか育たないようになってるんじゃないかしら。」
「ラミリスさん。良かったら世界樹の種を見せてくれませんか?」
「いいですけど。ちょっと待っていてくださいね。」
ラミリスが目を閉じて何やらブツブツ言っている。すると目の前に虹色に光る大きな種が現れた。
「これですけど。」
オレはラミリスから種を受け取って魔力を込めた。
「我が願いをかなえよ!『ユグドラシル』」
すると虹色に光っていた種が眩しい金色の光に包まれた。そして、種の右端から芽が出てきた。
「えっ?!嘘でしょ!」
「芽が出たぜ!」
「凄いわ!」
ウンディーネもサラマンダーも双子のウイスプとシェイドも、その場の全員が目を丸くして驚いている。
「さすがはガイア様ですね。やはり、ナデシア様と創造神様の・・・・・」
ラミリスが何か言っていたが最後の方はよく聞こえなかった。なんか聞いたらまずい気がして聞きなおすこともしなかった。
「ラミリスさん。この世界樹の幼木をもらってもいいですか?」
「はい。もうこれはガイア様の物ですからご自由にお持ちください。」
「ありがとう。」
オレ達はフィレント郊外の湖まで戻ってきた。そして、世界樹の幼木を湖の畔に植えた。
「アスラ。このままだとなんか心配よね。」
「リンの言う通りだ!魔物がこの幼木を食べてしまうかもしれんぞ!」
「大丈夫さ。」
オレは幼木に魔法をかけた。外から見ても何も変化がないように見える。
「アスラ。本当に大丈夫なのか?」
「そんなに疑うなら触って見なよ。ミコト。」
ミコトが幼木に触ろうとするが空を切って触れない。
「あれっ?」
「触れないだろ。この幼木には触れないし食べられないよ。」
「凄いな!アスラは!」
「当然!アスラ兄はガイア様!」
「よせよ。マロン。」
少し疲れたので湖の畔で座って休んでいると、湖の中央にブクブクと泡が出てきた。そして、頭が獅子、胴体が山羊、尻尾がアナコの魔物が現れた。背中には赤い翼があり、上空に舞い上がってこちらに向かってくる。
「あれがキメラ!」
「みんな注意しろ!」
キメラが上から毒を吐き出してきた。避けると地面が紫色に溶けている。
「マロン!お前がやってみろ!」
「うん!ピーちゃん出てきて!」
上空に魔方陣が現れ、そこから真っ赤なフェニックスが現れた。すかさずマロンも黒い翼を出して空に舞い上がった。
「ピーちゃん!上に回って!」
フェニックスがキメラの上に舞い上がる。そこから炎のブレスで攻撃した。キメラはたまらず右に旋回しようと避ける。そこにマロンが魔法を放った。
『シャイニングビーム』
マロンの指から放たれた光線がキメラの翼に直撃した。翼を傷めたキメラはそのまま地面に落下した。
グオー
キメラは咆哮を上げてピーちゃんに向かって毒を吐き出した。ピーちゃんは避けきれずに左の羽に毒を食らってしまった。
「ピーちゃん!」
ピーちゃんが地面に落下していく。そのまま地面に落下するかと思ったが、ピーちゃんの身体が完全に炎に包まれ再び上空に舞い上がった。
「とうとう完全体になったようね。」
ミコトには意味が分からなかったようで、リンに聞いた。
「リン。どういうことなのよ?」
「ピーちゃんは神獣のフェニックスよ。あの姿が完全体なのよ。」
「そうなのか~。だが、凄まじい魔力だな~。」
ピーちゃんがキメラに向かって突っ込んでいく。キメラもそれを叩き落そうと尻尾を振り回した。だが、キメラの尻尾はピーちゃんの炎で塵となって消えてしまった。
「終わりにする。『シャイニングボム』」
マロンが手をかざすと手の上に光の球が現れた。その球がキメラに向かって飛んでいく。
バ———ン
マロンの放った光の球が直撃して、キメラは粉々になった。
「よく頑張ったな。」
「うん。ピーちゃんのお陰。」
「そうだな。ピーちゃんも完全なフェニックスになったようだしな。」
キメラとの戦いが終わった後、再びオレ達は世界樹の幼木のところに行った。
「アスラ!この幼木、なんか大きく成ってないか?」
「世界樹の幼木なんだから不思議でも何でもないさ。どんどん魔素を吸ってもっともっと大きく成るさ。」
マロンが自分の胸に手を当てて言った。
「あたしとおんなじ!」