魔大陸の街ジェネーロ
火山島から魔大陸まではそれほど離れていなかった。飛翔し始めて1時間ほどで大きな大陸が見えてきた。オレ達は砂浜に舞い降りた。砂浜から見える木々はどれも太くて大きい。やはり魔素の影響なのかもしれない。
「マロン。お前の住んでいたマジョリカ王国の王都ってどっちなんだ?」
「あっち!ここから3日ぐらい飛んで行けば着く!」
「そうか~。結構距離があるな~。」
「マロン~。王都の名前は何て言うの?」
「ナポル。ナポルは綺麗。」
魔大陸ではディアブ王国とマジョリカ王国が争いを起こしている。オレ達は状況を確認するために徒歩で王都ナポルまで向かうことにした。
「マロン。案内頼むよ。」
「うん。最初はジェネーロ!ここから半日!」
オレ達は森の中を歩いて行く。途中でブラックボアやホーンラビットに遭遇したが、オレ達が知っているものよりもはるかに大きい。
「アスラ!やっぱり魔素が原因なのかな~。なんか魔物が大きいんだけど。」
「私も感じたぞ!さっきのホーンラビットは通常の2倍近くあったな。」
「リン姉にはピッタリ!お腹いっぱい食べられる!」
「マロン!私はそんなに大食いじゃないわよ!」
それからしばらく歩いていると街が見えてきた。街の中に入ると建物が破壊されていて人の姿はみあたらない。まるでゴーストタウンだ。
「どうしたのかしら?」
「何かあったのかもしれないな。」
マロンが心配そうだ。オレ達は街の中を探索し始めたが、やはりどの家にも誰もいない。
「みんなどうしたんだろう?」
するとオレの魔力感知に反応があった。
「ちょっと行ってみようか。」
「何かわかったの?」
「ああ、隠れてる人達がいるようだ。」
オレ達は街の外れの大きな館までやってきた。中に入るとやはり人の姿はない。だが、家の奥の暖炉の脇に隠し扉があった。オレ達はその扉の奥に入っていった。階段は地下へとつながっている。階段を降りると男達が現れた。
「お前達は何者だ?」
「旅の者さ。この街で何があったか知りたくてさ。」
「ふざけるな!抵抗したら殺す!いいな!」
オレ達はロープで体を縛られて地下室の奥へと連れていかれた。そこにはかなり広い部屋があり、部屋の中には大勢の魔族達がいた。当然女性も子どももいる。奥からリーダーらしき男がやってきた。
「お前達は何者だ?何の目的でここまで来た?」
「さっきの人にも言ったけど、オレ達は旅してるんだよね。この街の様子が変だったから気になってさ。」
するとリーダーらしき男が目を細めて言った。
「どうして俺達がここにいるとわかったんだ?」
「街中を探し回ったよ。」
「そうよ。おかげでこっちはお腹ペコペコなんだからね!」
「リン!よせ!」
するとミコトも怒りが治まらないようだ。
「アスラ!私、こいつらの態度が気に入らないな!私達は心配して探し回ってたんだぞ!それなのにこの仕打ちはなんなんだ!」
「まあまあ、いいじゃないか。みんなが無事だったんだから。リンもミコトももっと大人になれよ!」
その場にいた街の人々の顔に安堵の表情が見えた。オレ達を敵と思っていたのだろう。
「どうやらお前達はカエサルの手の者ではなさそうだな。すまなかったな。」
「いいんですよ。それよりもこのロープをほどいてくれますか?」
すると仲間の人達がオレ達の拘束をといてくれた。そしてリーダーらしき男性が聞いてきた。
「だが、お前達からは相当な魔力を感じるんだが、一体何者なんだ?」
ここでマロンがオレの顔を見た。オレが頷くとマロンは本来の姿に戻った。背中には漆黒の翼が出ている。
「君は魔族だよな?名前は?」
「マロン。」
「マロン?!マロンって行方不明になった王女様の?」
「そう。私のお母さんはマジョリーヌ。」
その場の全員が平伏した。するとマロンはみんなに言った。
「私は別に偉くない。普通にして。それより何があったか教えて!」
最初にオレ達は自己紹介をした。リーダーはクレスポという名前でこの街の責任者のようだ。クレスポの話によると、ディアブ王国が強力な魔物を引き連れてこの街を襲い、3日以内に降伏しなければ皆殺しにすると言って帰っていったそうだ。
「司令官は誰?」
「名前はわかりません。ですが、あの女はサキュバスだと思います。」
「グルシアだ!」
どうやらディアブ王国とマジョリカ王国の争いは続いているようだ。今度はリンが聞いた。
「強力な魔物って何?」
「ハイオークです。ハイオークが200体以上で攻めてきたんです。我々では歯が立ちません。」
ハイオークはオークが進化した魔物だ。ハイオーク1体でオークジェネラルと同等と言われている。それが200体もいるとなると、クレスポ達では勝ち目がないだろう。マジョリカ王国の国民達は、魔力量は多いが他の能力は人族と変わらないのだから。それに対して、ディアブ王国にはバンパイア族の他に悪魔族やトロール族のような種族もいれば、アラクネ族のように昆虫や動物から進化した種族もいるのだ。
「アスラ兄!助けたい!」
「わかってるよ。マロン。」
ミコトも拳を握り締めている。
「そうだな。困っている人達を放ってはおけないな!」
「ありがと。ミコト姉。」
オレ達が戦う雰囲気の話をしていたので、その会話を聞いていたクレスポがかなり焦っている。
「おやめください!マロン様!危険です!相手はハイオークなんですよ。それが200体もいるんですよ!勝ち目はありません!」
するとリンが前に出た。
「ハイオーク200体なんて余裕じゃない!私一人でも倒せるわよ!それよりもサキュバスね。」
「そうだな~。サキュバスがいるとなると、他の悪魔族がディアブ王国に味方している可能性があるな。どうなんだ?マロン。」
「グルシア以外にはデーモンのマモン、デュラハンのデッセン、リッチのケルトン。その4人が四天王って言われてる。」
「やっぱりな。でも、それだけの奴らを相手にマロンのお母さんはよく戦ってるよな~。」
「うん。お母さん強い!誰もお母さんに勝てない!」
マロンはどうみても人間から派生した普通の魔族だ。そのお母さんがバンパイア族や悪魔族よりも強いとはどういうことだろうか?
“不思議なようね。アスラ。”
“ああ。リンは何か知ってるのか?”
“まあね。”
“教えてくれよ。”
“マジョリーヌさんに会えばわかるわよ。”




