「劇」
配信者の応募で送ったボツ作品
文化祭で劇をすることになった。人気者の実行員が決めたらしい。
私は夕日に照らされた誰もいない教室でパソコンを見つめる。
「ん……」
「大丈夫?脚本家さん」
教室に、セーラ服を着た生徒がいつの間にかいた。
彼女のことは知っている。上の名前だけなら。
「少し見てもいい?」
「あ、うん」
彼女は、私の後ろ右から画面を覗き込む。
花のような匂いと微弱な体温を感じる。
「本当に書いてる。勝手に決められたのに」
耳元で彼女の声が私の鼓膜を振るわせる。
「一応やるよ。欠席して拒否もできなかったけど」
私は首を傾けて彼女の顔と距離を取る。
「そう……。どこで悩んでるの?」
彼女は、首を傾けた分さらに顔を近づける。
「敵捕まったヒロインをどうやって悲劇しようか悩んでる」
「じゃ私で想像してみて」
え
顔を彼女の方に向けると目が合う。
「私で可哀想で悲劇で可愛いヒロインを想像して」
彼女の瞳は夕日に反射して眩しかった。
「もしできたら、私が劇のヒロインなってあげる」
突如学校のチャイムが鳴る。
「ごめん、帰らないと。またこの時間に来るから。また明日」
「あ、は、また明日」
一人なった教室で右の耳を触る。
「温かい」
しばらくキーボードの打音が鳴り続いた。
ありがと