魔王討伐に一番有力なギルドで起きた追放劇 おどれはそんなことサツにチクってカタギに戻れるとでも思ったんか?
「おまえを追放する」
ギルド長が下す追放宣言。
「そんな!? どうしてですか!?」
青年はいきなりのことに反抗する。
ここは魔王城に一番近い人間の街。
人類の最前線基地とも言えるこの街の中で、このギルドは一番の実力を持っていた。
人類の悲願、魔王討伐に一番近いとされ、人々の多くの期待や援助が集まっていた。
――というのが表向きの認識である。
そんなギルドの実態とは。
「ああん? そんなのおまえが一番分かってるんじゃねえか? 組のこと自警団にチクったじゃねえか?」
「………………」
ヤクザであった。
実は既に十年前には、この組は魔王を討伐寸前まで追い詰めていた。
しかし組はこのまま魔王を倒したら、最初こそ英雄として祀られるだろうが、そうしない内に忘れられ、お役御免になることを分かっていた。
そのため組は魔王と取引。
人類の敵を良い感じに演出してもらうことで自分らの存在の重要性を堅持、また魔王による裏ルートによる商売も開拓。
非合法なありとあらゆることに手を染め、甘い汁を吸い続けていた。
「ほらここにおまえが書いたメモがあるぜ。組の薬草工場の所在地、違法な地下賭博場を開いていること、シマで取っているみかじめ料の額……おうおう本当洗いざらいぶちまけてるじゃねえか」
「な!? なんでそのメモがここに……まさかあいつは……」
「ああ、かわいそうになあ。こんなことに協力したせいで沈められちまってよう」
「くっ……」
「強情な奴だったぜ。指を詰めても口を割らなくてなあ。そんなやつがこんなこともあろうかと捕らえておいた自分の嫁子供を目の前に突き出されたときの慌てっぷりはまあ見物だったがな!」
「………………」
「安心しろ、俺は優しいからな。三人まとめて一緒のところに送ってやったよ。ぎゃーはっはっはっは」
組長の笑い声が響く。
「それで……」
「ん?」
「そんなことを俺に聞かせてどういうつもりですか?」
組において裏切りはご法度。バレた時点で飛ばされてもおかしくない。
「だから言ってるだろう。俺は優しいんだって」
「…………」
「おまえは俺の舎弟で組の若頭だ。なのにどうしてこんなことをした。今さらカタギに戻れるとでも思ったのか」
「……人類を騙して自分たちだけ良い思いをするなんて間違っている。ただそう思っただけだ」
「全く理解出来ねえなあ。まあいい、別に話し合いたいわけじゃないんだ。さっきも言ったようにおまえは追放だ」
「やけにぬるいな……どういう風の吹き回しだ」
「若頭が裏切ったなんて知られてみろ、組の根底から揺らぐ大事件だ。大ごとにしないためにも自ら去ってもらおうってだけだ」
「……そうか。だったら言葉に甘えるよ。世話になったな」
青年は組長に背を向けてその場を去ろうとする。
「ああ、そうだ。追放だ――この世からのな!!」
その背中に組長は胸元から銃を取り出し引き金を引こうとして。
「――分かっていたさ」
青年は振り向きざまに一発。
組長は倒れた。
「っ、何だ今の音は!?」
「他の組のガラス割りか!?」
「組長!!」
銃声に騒然となる組。
「ははっ……最初からこうしておけば良かったんだ」
そうしておけばあいつは……俺の唯一無二な親友も死ななくて済んだのに。
そのとき扉が勢いよく開き、組の構成員たちがなだれ込む。
「今さら謝ったって意味がない……俺は地獄に落ちる……少しでも多くを道連れにしてな」
ーーーーーーー
人類の希望、ギルドが突如壊滅したことは当然のことながら大ニュースとなった。
このままでは魔王が攻め込んできてもおかしくないと戦慄する人類だが、いくら経っても音沙汰が無い。
しばらくして調査隊が魔王城を訪れるとそこはもぬけの殻となっていた。
不思議に思ったが、それよりも大きなことは魔王による脅威が無くなったということ。
訪れた平和に歓喜が沸く人類。
その出来事の裏に一人の男による大立ち回りがあったことは……誰も知る由の無い話だ。