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侍領主でござる  作者: ケヤキ
第八章 助太刀
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96.助太刀参上7

躍動感のあるバチ捌きで王子らが長胴太鼓を叩き、手拍子ちゃっぱが華やかな金属音を放つ。俺はラディス3世に貰った金槍と衣服を身に纏い、皆と一つになる高揚感をも感じながら、より高くへと舞い上がる。


ヤッ!! 威勢の良い掛け声を上げながら、槍を天高くあげ、激しく右手、左手、そして両手でと回転させ、己も回転す。


何故なら……穂先から猛炎が噴き出したからであるーーーっ!!

槍だけに投げれば終わりだろうが、王子達の演奏を中断させたくないのだっ。


先ほどから猛炎を消す為に飛んで跳ねているのだが、限界がついに……来てしまった。目が回って倒れそうなのであるぅ!


セェィ!! 最後に跳ね上がり、着地と同時に槍を右手で真一文字に払うように一閃したところで、炎がやっと消えたのだった……。



群衆を見ると御仁も含めて、両膝をついて涙を流している者が大多数である。中には鼻水を激しく垂らしている者もいる……うむ。気持ちはよく分かる。俺も怖かった。


こんな状況の時はこれである。さっさとズラかるのだ!


「ウル、行くぞ」

「は、はっ!」




部屋に戻り、槍と衣服を空間に大切に仕舞いながら、プリプリしていた。ラディスには文句を言わねばな! オッサン語のあれである。そう、激おこぷんぷん丸だ!


ウルが気分のスッキリするお茶だと茶を淹れてくれた。プンプンしていて、気がつかなかったが、ウルも鼻水が垂れているのだ……。


よし、俺もウルも気分転換が必要だな!


「ウル、付き合ってもらいたい場所があるのだが、いいだろうか?」

「は、はい?!」




そして、そう、転移した場所はーーー海だっ!!


俺もウルも冷たい海に飛び込めばスッキリしそうだしな。ウルの顔も綺麗になるだろう。


「うほほっほぅーーぅ!!」


一目散に海へと飛び込んだ。うーむ、火照った身体に、冷んやりとする海水、実にスッキリ爽快である!


まだ砂浜にいるウルに声をかける。

「ウル、気持ちいいぞ! ここまで来れるか?」

「はいっ! うひょ、ひょっ!」


ウルは元気よく返事をして、少し恐々と飛び込んで来た。共に背浮きでぷかぷかしながら、青い空、波音や潮風を楽しむ。


ウルは海は初めてで、なぜ水が塩辛のか、波も含めて何もかもが不思議だと云う。しかし、幼き頃に過ごした地には大きな川があり、泳ぎは得意だそうだ。


そしてひょんな事から、夕食は魚の塩焼きに決まり、魚釣りをすることになったのである。ふふっふ、釣竿なら、釣竿にこだわりのあるルクス村の村人達の試作品がたくさんあるのだ。


抜けるような青空の下、魚釣を始めて暫しの時が過ぎた。うむ、やはり釣りは良いものだな。大きな海を見ていると、それだけで心が洗われるようだ。


横にいるウルにはアタリがあったようで、魚との駆け引きを楽しんでいる。いつもは大人びているが、年齢にふさわしい満面の笑顔が眩しい。



そして、夕暮れまでにはウルと俺とで十分過ぎる程の魚が釣れた。塩水で体がベタベタするので魔術で綺麗にしてから、魚の塩焼の準備である!


ウルが魚の下ごしらえと串打ちを担当し、俺が焚き火や他の準備だ。もはや、拾い物から、名工の品まで何でもありの空間袋から薪、塩や串などを取り出した。


熾火おきびの為に大量の薪を用意してから火を熾す。魔術だと早いが、情緒溢れる昔ながらが一番なのだ。一つ一つの工程を楽しむ。


薪をくべていく毎に小さな炎が大きな炎へ。薪が時折、パチパチと爆ぜる音を立て、揺れる炎はいくら眺めても飽きないものだ。


下ごしらえを終わらせたウルが、焚き火を囲むように砂浜に串を刺していく。焼き目がついてくるのをただ眺めている時間が楽しい。何もしない贅沢も良いものである。



最初は畏まっていたウルに少し楽にするように頼んだ。固辞していたが、公事と私事で、こちらも楽にできないと伝えたら、渋々のようではあるが納得してくれた。


「ところでウル、今日のことだが、なぜ皆が俺を見て畏まったのだ?」

「はい。使者様は王宮の大階段、最も目につく場に飾られている最古の絵画とそっくりだったのです。その絵画は青の煌びやかなマントの凛々しいお姿で『守り神』と言い伝えられています」


(はて、そんな絵画、有ったような? 無かったような?)


「フードを深く被られているので、ご拝顔は叶わないのですが、使者様は絵画と見分けがつかないほどの同じ槍と衣服を身に纏っていらっしゃいました。それに使者様の瞳とマントが同じ色なのです」


(ふむ。一度、時間があるにでも見に行くか)


「他にもですが……」

「おおっ! ウル、焼き上がったようだぞ!」



そうこうしているうちに、串打ちした魚がジュウジュウと音を立て、いい感じにこんがりと焼きあがったのだ。くぅ〜〜香ばし匂いがたまらん。


飾り塩もありで、外側はカリカリに火が通っているしで、実に美味そうである! 串焼きはかぶりついて食べるのが醍醐味だな。


ウルとガブッとかぶり付いた。

「「………!!」」


表面がカリカリ、身がフワフワ、説明のいらない美味しさなのである!



どれだけ食べただろうか? 出っぱった腹をさすりながら、ゴロリと寝転がった。うむ、大満足なのだ。


焚き火の炎を眺めていたら、いつの間にか寝てしまったようだ。目が覚めると、夜空には満月が煌いている。真上なので真夜中ぐらいだろう。


ふふ、月はこんなに明るかったのだな。




少しして、ウルと共に王宮の部屋へと戻った。俺が居眠りしている間に寝ずの番をしてくれていたウルには、昼過ぎまで眠るので、ゆっくり休むように伝えると笑みを浮かべて眠そうな顔で退室していた。


さてと、お向かいさんに焼魚のお裾分けを持っていくか。


俺は槍の炎の件でプリプリし、ラディスのオッサンは玉座の房紐の件でプンプンしながら、焼魚をツマミに酒を飲み交わす。酒が回った丑三つ時にはラディスがご機嫌に大太鼓を叩き鳴らし、俺はそれに合わせて愉快に槍舞を舞う。


この日も明け方に部屋に戻り、寝台に倒れるように眠りについたのだった。



昼過ぎて目覚めると、続きの間の長椅子にはデュークがつまらなそうに転がっていた。従者達にはデュークは取り継ぎなしに部屋に入れるように伝えているので、自由に出入りしているデュークなのである。


「やっと起きたようだね。朝に太鼓の練習をした後は暇なんだ。ルー、今日は何をする予定だい?」


「ふむ。困ったぞ。今日は何をするか? 群衆に囲まれるのは疲れたので避けたい。いっそう、部屋でゴロゴロするか?」


「特に何もないようなら、剣の練習に付き合ってくれるかい? 昨日、王族専用の練習場を見つけたんだよね、誰も居なかったし」


「剣か、それは良いな。久しぶりに千本素振りでもするか」

「………」



王宮の裏庭に行くと、一角にその王族専用の練習場があった。王族が数名で稽古をするには十分な広さの円形で、その外側には腰の高さ程の石垣でくるりと囲まれている。ほほぅ、なかなか良い感じだな。


「あなた達、ここで何をしているのかしら?」

声がしてきた方向へ顔を向けると赤の騎士服を華やかに着こなしているおなごがいる。


「女が騎士であることに不満があるようね」


思わず怪訝な顔をしてしまったようで、気分を害してしまったようなのだ。女は長い金髪の両横だけを変に残して、後で一つに結いている。その横髪がワカメのようなのだ。ひょっとして、飾り髪だろうかと首を傾げてしまったのであるぅ。



おなごはギロリと睨みを利かせながら、声を出した。

「あなた、名を名乗りなさい」


こ、これは困った……。ここでは名を名乗らず、名無しの権平、『使者』一本なのだ。だが、『俺は使者だ』とか、己で使者と名乗るのにはかなりの抵抗があるぅ!




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