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侍領主でござる  作者: ケヤキ
第八章 助太刀
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94.助太刀参上5

御仁、現国王、俺との3名で書面に署名を済ませ、建国記念の儀が終わるまでは歴代王の総意の使者となり、現国王よりも高い位になったのだ。それにより、魔術使用の制限も無くなった事を後に説明された。


それでなのだ! 思いつきで、海苔巻きくん、又の名をロア国の第二王子のビリーと、ディアス王国の第三王子のデュークを呼び寄せた。何が何だか分からずの困惑顔のビリーに、何故か吹っ切れて晴れやか顔のデュークを引き連れて中庭にやって来たのである!



ふふっふ、実は奇襲攻撃なのだ!


今朝、部屋にやって来た3名、御仁、金ぴかオッサンの現国王、そして横にいた整った顔立ちに鍛えられた体つきの男が王太子だそうだ。


金ぴかオッサンと同じで、たとえ10日間でもよろしく思われていない。正攻法だと、王太子に面会するのは難しいので、手順を踏まずに仕掛ける。


ウルへの頼み事の二つ目が王太子の正確な位置の把握だ。武具の手入れで中庭にいるとの事なので、いざ突撃である!



おっ、いたいた! 短く刈り込んだ銀髪に淡い緑色の瞳の男が椅子に腰掛け、剣の手入れをしている。ふむ。周囲には護衛の者が5人だな。


目が合うと面倒臭そうに顔を顰めてから、立ち上がり、公式な礼を執った。


「名は何と言う?」

「ラズエルにございます」

「そうか、これからしてもらいたい事がある。適当に合わせてくれ」


そう言うのと同時に小声で詠唱をし、空間から出したのは大自信作、なんと和太鼓一式なのである! 


大太鼓だだいこ1台、長胴太鼓2台、そして最後に手拍子ちゃっぱだ。大太鼓は口径が俺の身長程で、長胴太鼓は樽酒程ぐらい、そして横打ち用の台も完備なのだ。


和太鼓一式を準備したのは共に楽しみたいが、一番の理由だ。昨夜も幽霊くんだが、ラディス3世と端唄を唄い、太鼓を叩き、もっと親しくなれたように思えるしな。まあ、建前として建国記念の儀の為だろうか。


最初の計画では2台の長胴太鼓はロア国王子のラズエルとビリーだったのだが、ビリーは線が細くて無理そうなので、ビリーは手拍子ちゃっぱにした。


手拍子ちゃっぱは2枚の金属製の板を両手で打ち鳴らすだけの楽器だが、雰囲気をガラリと変えることも出来る奥が深い楽器なのだ。


結局、もう1台の長胴太鼓には、その場しのぎでディアス王国の王子でもあり、騎士学院生でもあるデュークをあてがう事にした。建国記念の儀にディアス王国の使者も招待されているので丁度良いだろう。



空間から取り出した大自信作、和太鼓一式なのだが、皆の顔を見ると口をあんぐりさせて固まっている。


ふむ。最近、何故かよく見る表情だな。まあ、いいか。


チャッチャとラズエルとデュークには長胴太鼓のバチを押し付け、ビリーに手拍子ちゃっぱの2枚の金属製の板をっと。


眉を顰めて不機嫌そうなラズエルにはこれだ。

「ラズエルは朝に聞いただろう、歴代王の御威光だ。建国記念の儀に演奏するようにとの事だ」


ふふっふ、ラディス3世が打ち鳴らした大太鼓。どう足掻いても歴代王の威光には嫌とは言えないのである!



よし、勢いでチャキチャキと進めるか。大太鼓だだいこは後方、長胴太鼓は前方で程よい位置に2台、横打ちでっと、よし! 準備完了だ。


「特に楽譜はない。難しく考えず、体で覚えてくれ」


そう言い、ラズエルとデュークにはバチの握り方から姿勢、打ち方、長胴太鼓同士での合わせ方を。そして、ビリーにも基本を教えたのだが、3人とも揃ってイマイチなのである。一丁、手本を見せてやるか?



打ち易いように、上着は両袖外す。上半身が顕になるがおなごはいないしな。大太鼓の前でバチをしっかりと握り、腰を落として、姿勢を整える。


ふと大三郎祖父上の後姿が思い浮かんだ。祭り時、大太鼓の正面にバチを構えて立った、あの鍛え抜かれた美しくも雄々しい後姿を。


ー背で、生き様を語るー



ドォォォーーン


最初の一打ちは渾身の力で打ち抜くように叩く。遠くまで響く轟音のように。そして、まるで儀式のように天高くバチを掲げ、我此処にあり、と知らさんばかりに打ち込む。


ドォーン……ドォーン……ドォーン……ドォーン……


ドンドンドンドン ドドン

ドンドンドンドン ドドン


ヤッ! ドンドドン ドンドドン ドンドン ドンドドン


バチ先まで気を入れ、魂を打ち込み、大地を揺らし、空気を切り裂く。

手足を躍動させ、飛んで跳ねて、


そして、深くにある魂に語る。

イーヤッ! ドドドン ドドドン ドンドンドンドン ドォーーン!!!



ふぅ、気分爽快である! 時を、我をも忘れるほど楽しんでしまった!


しかも最後は何故か、バチを持った両腕は横に伸ばし、俯いて片膝をついた変な姿になってしまったのである……。


やれやれ、おっこらしょっと、乱れた呼吸を整えながら立ち上がると、なぜか群衆に囲まれているぅ?! 


なぜ群衆が? どこから来たのだ? しかも、俺が立ちがるのと同時に群衆が片膝をついた姿勢になった。後ろを振り向くと王子達もである。デュークも適当に合わせてくれているらしい。


何が何だかさっぱり分からぬ上に、おなごもいるしで、非常に恥ずかしいのであるぅ。こ、こんな時はさっさと退散が一番だ……。


「ウル、行くぞ」

「はっ!」



部屋に戻ってから、ウルにデュークの事と和太鼓の管理を頼み、フレディとダニーの元、隠れ家へと転移した。


「フレディ、ダニー、今戻ったぞ」

「お帰りなさい。あれ、その衣服どうしたのですか?」

「話の前に汗を流してもいいか?」


汗をかくほど大太鼓打ちに熱中してしまった。しかし、いい運動になったようで、気分はスッキリ爽快である!


ダニーは外出中なので、フレディにビリーの話、ラディス3世と使者の話を伝えた。フレディも口をあんぐりとさせて固まってしまったのである。ふむ。フレディもこの表情だな。


「ル、ルークさんはちょっと目を離しただけで、こんな展開に……驚きです」

「そうか? ただの行きがかり上だ」



ダニーの調べ物が終わり次第、フレディはラディス3世に会いに行くそうだ。今度はフレディが歌を歌うそうなので楽しみなのである!


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