92.助太刀参上3
昨夜は王宮の侵入から端唄までの盛り沢山で、忙しい一日だったのだ! フレディとダニーの計画は着々と進んでいるそうで、ダニーは一足先にロアにいる。
さてと、俺が頼まれたのはロアの王子と思われる海苔巻きくんの面倒と取調べ? である。フレディは間延びした顔のクマであるし、ダニーにはフレディの配慮で海苔巻きくんのことを伝えていない。
ダニーのお父上は現国王の実兄だったので、従兄弟かもしれぬし、複雑な思いがあると思われるからだ。
ふむ、取調べか……拐かしのようになってしまったので、顔が割れぬ方が良いだろう。バレて国交の火種になってもいかんしな……。
これは変装だな! 魔術学院のローブのような、全身をすっぽりと覆う黒色のロングローブはどうだろうか? フードを被れば髪も隠すことができるしな。
顔隠しには、大三郎が幼き頃に怖かった能面だ。能面は一つの面で喜怒哀楽の感情を全て表す事ができる優れものである。ちなみに怖い面は避けてっと、比較的に怖くない若い女の小面を用意する事にした。
ふふっふ、颯爽とローブを羽織り、フードを深く被ってっと、小面で準備完了! なかなかサマになっているのではないか? よし、一度フレディに見てもらうとするか。
「フレディ、どぅ………っ?!!」
近くにフレディがいたので声を掛けたのだが……なんと、フレディに火だるまにされたのであるぅ。
「ルークさん、す、す、すみませんっ! 突然で、驚いて、こ、怖かったものですから……っ!!」
うむ。この日暮れだと確かに怖いな……。己の防御に剣カミツルキの防御もあって良かった。しかし、用意したばかりのローブと小面は準備早々に丸黒焦げのやり直しなのである……。
何はともあれ、フレディにも力強い太鼓判をもらい、新しいローブと小面とで、海苔巻きくんの元へと転移した。
海苔巻きくんの寝床を覗いて見ると、寝転んでリンゴをかじってる……。呑気なものである。
「うほっ!! そのかっこう、すげぇ! 羽ばたいてる!」
「羽ばたいてる?」
「イイ感じってことだよ。あんた、何も知らねーのかよ?」
「激おこぷんぷん丸は知っているぞ」
「あーね、それ、オッサン語」
歳は同じぐらいなのに、この言われようなのである……。仕方ないから、オッサンに合わせてやるっとまで言われてしまったのだ。
「なんでオレ、誘拐された? 身代金? それとも人質? どっちにしても、無駄だと思うよー。オレがいないと喜ぶ人多いし」
時々、陰りの見える表情の青年は第二王子でビリーと名乗った。
ここ三百年程、ロア王家の血筋は名の後にエルが使われている。ダニーは『ダニエル』、フレディは『フレディエル』という感じだ。ふむ。ビリーにはエルがないのか? 『ビリエル』では変だしな。
「今までのことは覚えているか?」
「うーん、なんとなく。でもどうでもいいし」
その後に覚えている範囲で、よく会っていた人物達の名を聞くと、三名でその内の一名がイアンであった。ふむ……。
必要な事は聞いたので、これで俺の仕事は終わりのようだ。
「もう2、3日してから王宮に戻ってもらうが、ここにいる間に何かやりたいことはあるか? 書物を読むことだったら、書物を用意するし、他も協力するぞ」
「なーい」
「そうか……。王宮には人の目があるからな、本当の意味で一人になる事は出来ぬ。完全な一人で、自分と向き合う時間も悪くないだろう」
「それ好ハオ、寝て過ごすか! オッサン、飲み物に食べ物、置いてってよ」
「…………」
ビリーの寝床を出て思う。つ、ついていけなかった。気分はオッサンなのだ。な、何はともあれ、今夜の俺の仕事は終わりだ……。
さて、これからどうするか。薬草売りの時だが、行商人達は仕事が早く終わると皆で酒を楽しむ者が多かった。俺には夜に酒を共に飲み交わす者は……この辺ではいないな。孤独も付け加わって、孤独のオッサンになってしまったのである!
ふむ。目を閉じて考える。あっ! ラディス3世、昨夜の歌のオッサン。ラディスにでも会いに行くか。孤独のオッサンは仲間を求めて立ち上がるのだ!
すでに勝手知ったる王宮で、裏道から王宮の玉座の間に向かったのだが、今夜は歌声がしない? 歌は夜中過ぎからなのか?
「ラディス3世、ルークだ。酒を共に飲もうと思ってな。いるか?」
アーチ状の高天井を見ながら呼びかける。昨夜は分からなかったが、華やかで優雅な天井画があり、物語か神話だろうか? 伝説上の生き物なども色鮮やかに描かれている。
「ルークか、良く来たな! 酒は何があるのだ?!」
声が聞こえた方向を見るとラディスは金製の金ピカ椅子に長い足を投げ出して座り、ニヤリと挑戦的な笑みを浮かべている。
「なんでもあるぞ、様々な高級果実酒にロア国のロアイ酒までもだ」
幽霊くんなので飲めるか心配したのだが、ラディスが指し示した王座横にある置台のグラスに酒を注ぐと、ラディスの手持ちのグラスに酒が満たされるのだ?! どういう仕組みだか全くわからぬが、まあ、いいのである。
「ラディス、その椅子硬そうだが、座り心地が悪くないか?」
「生前は凄く痛くてな、よく尻を摩りながら無理をしたものだ。今はもう大丈夫だがな。はっははは!!」
「そうか、尻が痛くないようで何よりだ」
ラディスは折角の機会だから、俺が持っている全種類の酒が飲みたいと言い、楽しそうに飲み続ける。
『昔話』だと断りを入れてから、この玉座の間や主要な王宮の建築物の殆どはラディスが携わって建築されたそうだ。王宮にある色彩豊かな壁画や精巧な装飾に音楽の話まで、話題が広範囲に及んだ。
ラディスが言う昔話には、もちろん楽しい事や綺麗事ばかりではなく、国の為や、攻め入られた時などには、王としての苦渋の決断が多々あったとも打ち明けられた。
「それと、余は魔術剣士だったのだ。おっと、大を忘れていた、特大魔術剣士だ!真っー白で、大きな虎魔獣の友もいたのだぞ。余が戦場で死んでしまったので会えなく……なって……く、くぅ」
ふむ。『大魔術剣士』は良いが、不思議な事に『特大魔術剣士』は格好悪いな、語呂が悪いのか? と思っていたら、ラディスが泣き出してしまったのだ!
「死んでから初めて、血ヘドを吐くほどの労苦から、すべて解放されたんだぞ!! ちと痛かったがなっ!! あの深い安堵感に心の静けさといったら……くっ」
「何故幽霊になって、ここにいるのだ?」
「知らんっ! だが……余はな、死んでも尚、仕事をしているのだぁ!」
「歌を歌うことか?」
「おい、違うぞっ! 千年も歴史があるとなぁ、忠実な従者、警備の者、貴族に王族の者やらと、幽霊が王宮にわんさか居るんだぞぉ、わんかさだっ! ん? わんさかは言い過ぎか? とにかく居るのだ。話を聞いてやったり、変なのには注意してやったりと忙しいのだっ!」
「もしもだ。王宮の片隅にでも祀り鎮める場があればどうだ? 王族と民とで安らかに休むことを願い花を手向ける、助けになるか?」
「やってみないと分からんが、余の仕事が少なくなるかもしれんなら、大賛成だ。生きているのに取り憑いていたりするのは手に余るからな!」
その後は気になっていたラディスの提灯型のトラウザーズの履き心地を聞いてみたり、ラディスによる白のぴっちり股引きに、足が殆ど丸出しの提灯型のトラウザーズの利点と改善点の説明を受けたり。
丑三つ時には俺の自作の端唄を共に唄い、酒を飲み交わし、泣き、笑い、とても良いオッサン時間を過ごしたのだった。
「「 ホイヤ ホイヤ〜〜〜アア、どっこらしょっ!!
ホイヤ ホイヤ〜〜〜ァァ、おっこらっしょっ!!! 」」




