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侍領主でござる  作者: ケヤキ
第八章 助太刀
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91.助太刀参上2

フレディの側近はこの世を去り、残ったのはロアの王子であろうか? 細身で銀の長髪に緑色の瞳の青年が床に転がっている……。


さてと、これからどうするか。この転がっている青年も含めてである!



フレディは先ほどから言葉無く、こちらに背を向けて佇んでいる。色々と抱える思いがあるのだろう。


俺はフレディの分もやるべきことをやるのである!


イアンに背後から斬られた二の舞を演じないようにしないとな。念の為の用心で、青年の寝台から上布団を引っ掴み、青年を頭と足のつま先が出るだけのぐるぐる海苔巻き状態にした。


ふふっふ、海苔巻きはどんなことがあっても外れないように頑丈な魔術に、俺とフレディには更なる強固な防御魔術を掛ける念の入れようである。ここまで終わった頃にフレディがトコトコとやって来た。


「フレディ、体の具合はどうだ?」

「お陰様でかなり楽になりました」


フレディは寂しげに、本当はバーモンと話をしたかったが無理だと判断した事、この青年は善意も悪意も感じるので気を付けましょう、と言葉少なげに語った。


フレディは寝室を見回しているのだが、どこか遠い目をして、何かに思いを馳せているように見える。


「もしかして、この部屋に馴染みがあるのか?」

「はい、ここは私の部屋でした。あまり、変わってないようですね」

「バーモンがフレディの為にこの部屋を守っていたのかもしれないな」


少し頬を綻ばせたフレディはトコトコと歩き、寝台横に手を当て詠唱を唱える。すると、隠し部屋が現れたのだ!


「ここには誰も入った形跡がないようです」


中を覗くと最初に目に入るのは立派な装飾机に椅子だ。きちんと整頓された机上には一目で高価と分かるペンや置物、読みかけの書物だろうか、開いたままに置かれている。


繊細な装飾の休息用寝椅子、肘掛け付きの高背椅子、両方とも落ち着いた色合いで座り心地がよさそうだ。部屋の四方には見上げる程の高さの優美な本棚があり、秩序立ってキチリと書物が並んでいる。ふむ。イアン先生とは真逆だな!


この部屋に来て、初めて曇りのない笑みを浮かべたフレディは詠唱を唱えて、器用に隠し部屋を丸ごと折り畳み、大事そうに空間にしまった。



ふぅっと一息入れ、これからの事を話していたら、上から男の歌声が聞こえてきたのだ。なかなかの大声で躍動感があり、何よりも楽しそうなのである。


「「ーーーー?!」」


「フレディ、空耳だろうか?! 夜の最も深い時間に歌声が聞こえる?」

「私も聞こえます。この部屋の上階、5階には王の玉座があるだけなのですが?」


二人で悪戯っ子のように顔を見合わせ、興味本位で見に行ってみることにしたのだ。


王の玉座には天蓋付きの豪華絢爛な椅子が壇上に設置され、金製の金ピカ椅子に30歳程の彫りが深く、精悍な顔立ちの男が座っている。


片方の肘掛けに頬杖をつき、ふんぞり返って座っているその男は、白のぴっちり股引きに、足が殆ど丸出しの提灯型のトラウザーズを履き、立派な毛皮付きの朱色のマントに、頭上には王冠、足元にはかかとの高い靴だ。


「「ーーーー?!」」

手足が薄っら透けている。そう、違うタイプの幽霊さんなのである……。


「おい、そこのクマ連れ、勇気があるではないか。余が怖くないと見える。大抵の者は余が歌っていると恐れをなして逃げるのだが、いい度胸だ」

そう言うと、ニヤリと不敵な笑みを湛えた。


襲う兆候も見えぬし、態度はデカイが害は無さそうな幽霊さんだ。うむ。ここ何日かの酷い経験で、鼻をほじるほどの余裕があるのである。


「はっ! 歌でも歌って、余を楽しませよ。楽しませなら、褒美を取らすぞ!」


ほほう、褒美とは何だろうか?

「俺はルークだ。暇を持て余しているようだからな。此処は一つ、唄ってやるとしよう」


ふふっふ、遂に自作の端唄はうたを披露する機会がやって来たのだ! 少し心配そうなフレディを安心させるように頷き、咳払いをして喉の調子を整える。


「ホイヤ ホイヤ〜〜〜アア、どっこらしょっ!! 一生おぅ、短かきぃぃ〜〜

夢ぇ〜ご〜と〜く〜〜〜ホイヤ ホイヤ〜〜〜ァァ、おっこらっしょっ!!!」


「……も、もぅ、もうよい………」


「ホイヤ ホイヤ〜〜〜ァァ、おっこらっしょっ!!!

 アイ ヤァ〜〜〜ッ、アイ ヤァ〜〜〜ッ!!!」


「た、頼むっ!! 止めてくれ……!!」


「なっ……なんだ? これからが良いところなんだぞ?」


フレディを見ると口をポカンと開けている。ふふっふ、ちと声が裏返ってしまったが、あまりの出来に驚いたようだな。


「褒美は何だ?」


「「……………」」

何故かフレディも黙り込んでいる?

 

「……ルークと言ったな、其方には勝てる気がせん」

「そうか?」


こめかみに手を当てているところを見ると少し衝撃を受けたらしい。うむ。上には上がいるのである。



その後、この偉そうだが気の良い男はラディス3世と名乗り、博識で話が面白く、様々な話をしている内に明け方近い時刻になってしまった。残念だが帰途につく旨を伝えると、王宮から外に出る安全な裏道を教えてくれた。


「楽しかったぞ、また遊びに来るが良い!」

「ああ、褒美を貰いにくるぞ」

「はっははは、はは!!」


フレディによると、推測するに五百年ほど前の王のようで、文献で調べてみるそうだ。



さてと、次はこの海苔巻だ。

「フレディ、明けが近い。この寝ている海苔巻、いや青年はどうする?」

「そうですね。このままでは駄目でしょう。一旦連れて行きます」

「分かった。まだ信用できぬ男だ。安全な場所……砂漠の真ん中はどうだ?」

「いいですね!」


先ずはラディスに教えてもらった裏道を海苔巻を肩に進み、王宮の敷地を抜けきったところで砂漠へと転移した。


海苔巻セットを取り外してから青年の寝床を準備し、フレディが念の為に外を簡要牢獄で囲った。砂漠の真ん中だが寝床は温度の調整済みで、飲み水や食べ物なども十分準備してある。1、2日程は何も問題はないだろう。


俺たちはフレディの隠れ家、湖の小島で朝日を眺めながら汗を流し、フレディは猫つぐら、俺は白玉へ。それにしても疲れた……王宮の侵入に警報、バーモン、あの海苔巻き青年にラディスか、端唄も唄ったしな……。横になった途端に意識がふっと遠のいた。


次に目を開けたのは夕刻だった。白玉の外に出ると、プンスカしているダニーがいる。まだ働かない頭でボーッと考えると……? 


いかん! ダニーの事をすっかり忘れていたようだ。フレディも同じくで、昼過ぎて思い出し、急ぎ連れ戻したらしいのである!


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