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侍領主でござる  作者: ケヤキ
第七章 名も無き土地
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85.名も無き土地10

日が高くなり始めると、すぐに砂もジリジリと熱くなってきたので、砂遊びはここまでだ。


か、かなり全力で取り組んでしまった……。足がガクブルなのであるぅ。


「ルーの背泳ぎかい? あれは実に凄かった」

「私も驚きました。仰向けで両腕をぶんぶん回して前に進むのですから」


「それに砂丘の中腹横を垂直に走り抜けていなかったかい?」

「あの蹴散らかす猛烈ダッシュの事ですね。あれは……驚異的でした!」


ふふっふ、今度二人に教えてやらねばな。


しかし、皆も箒も朝っぱらから、くたくたなのである。取り敢えず、西へ行ける所まで進み、昼寝の時間となった。




そして少し涼しくなってから、また西へと向かう。箒で飛行しながら砂漠を眺め見ると、陽の光にキラキラと輝く砂丘の美しさは格別なのだ。風に吹かれて刻々と変化する砂紋も美しい。


「「「ーーーー?!!」」」


なんだ? あの巨大真っ白は?!


「ダニー、予定外だが下に降りてもいいか?」

予定やら他の管理に見事な手腕を振るっているのはダニーなのだ。『まあ、いいか』の大雑把な俺とデュークには真似が出来ないのである。


許可が出たので下に降りてみたのだが、実に圧巻だ。地表一面、地平線までもが、雪原のようなの白銀の世界なのだ! 大きさは……クラウスの領都がすっぽり入るか? ぐらいだ。


それにしても、見事なまでの2色だ。空の青、地の白、以上である。地表は亀の甲羅のような模様がどこまでも続き、歩くとガチガチに硬い。


ふむ。これだけの真っ白は、雪と塩田だけしか見た事がない。塩、塩か?! ふと思いつき、崩れていた一欠片を口に放り込む。


(ううっ、し、しおぉ、塩辛いぃぃーーっ!!)


しまった、少し大きめな一欠片だったようだっ……。慣れ親しんでいる塩と比べて、甘味もあるが、苦味は最後まであるな! 口を片手で覆って動かない俺を遠巻きに見守っているデュークとダニーだ。その辺の物を、拾って食べたりしない。流石である……。


「ルーさん、これは何ですか?」

「どうやら、塩だ……」


しゃがんで興味深そうに地表の塩を棒で突いている二人を眺めながら、ふと思いついたのである。こ、これは魚の塩焼きにもってこいだっ! 塩は殆ど全て、他国からの塩鉱を高値で購入している貴重品なのだ。傭兵団引退組の実用を兼た趣味、魚釣。引退組への良い手土産になりそうなのだ!


ふむ。我ながら素晴らしい思いつきである。適当に持って帰るか。適当に表面だけを削り取って、空間魔法の空間へ放り込めば良いな。


お、おっと、危なかった。うっかり忘れるところだった。この前作った、魔術の杖。豆ちゃんを使わねばな。豆ちゃんはここだけの話になるが、『杖がある方が格好が良いかも?』だけで、作った杖なのだ。


材質は胡桃くるみの木で、大三郎の家近くにあった鬼胡桃おにぐるみの木の『鬼』から節分シリーズ。『鬼は外、福は内』で胡桃箒くるみほうきは『福』、杖は『豆』と名付けた。


ふふっふ、ちょっと魔術師らしく、格好良くキメるのだ。あっ、まだ学生か。危険がないよう、まだしゃがんで塩を突いているデュークとダニーを背にし、


「杖、召喚『豆』」


杖を使うのは初めてなので慎重に……。呼吸を詰めて、体から漏れる魔力はないように。体から杖の先端一箇所に魔力の流れを集中させてっと。


「風」


杖を握り、風魔術で風で表面を削り取る……ぅ?


ガガガガガガアガーーーーーッアア


いかん、これはいかんっ、コントロールが難しいのである!


クラウスの領都がすっぽり入るか程の塩地の表面を覆い、轟音と共に竜巻が削り取る。



危険と判断して、空間魔法の空間へ竜巻と共に入り、竜巻を握り潰した。クラウスの城と同じくらいの大きさの塩山が3つ、4つ。十二分すぎる塩が取れてしまったのだ。


それにしてもコントロールの練習をしないとだな。ルルさんがなぜ空間に引きこもって魔術を試していたのかが分かった気がする。ルルさんの空間は思いっきり魔術を使っても問題がないように造られていたようだ。


ふむむ。ひょっこりと空間から顔を出して、外を見る。ふむ。クルリと見回して、塩地には問題が無いな。少し磨かれて氷のようになっただけのようだ。くるっと顔を半回転してデュークとダニーを見ると、二人とも大丈夫そうで良かった。


砂遊びの時は解除したが、二人にはかなりしっかりとした防御魔術をかけてあるので、どこか吹っ飛ばされても探しに行けばいいかっ、と思っていたのである。


「「くぅ、ぅび、生首……?」」

「……?……」

「少し、時間をもらっていいか? 魔術の調整をしたい」

「ルーが生きている? ならっ」

「……?……」


まあ、いいか。寝床の白玉に食べ物や飲み物もあるし、大丈夫だろう。空間に戻って魔術で塩を適当な袋に纏め、隅に積んでから練習を開始した。洗練されていない荒削りな魔術だった。反省であるぅ。




夜明け前に空間から戻った。まだ、夜空の星がよく見える時間だ。


面白いことに、表面が削り取られたつるつるの塩地が反射して、夜空と地がひとつのように見えるのだ。足元を見ると一面の夜空、上も夜空で、夜空の中を浮いているような、立っているような。


ふふっ、面白い。夜空と幻想的な美しい景観だ。



さてと、回復魔法を使ったので寝る必要がないからな。皆が起きるまで待つか。


どっこらしょっ、と腰掛け、暇なので密かにカッコいい魔術詠唱を考える事にした。詠唱した『風』ではなく、魔術学院の皆のように『風よ吹け、風の力を我に授けたまえ』とかが格好が良いかな? でも……ちょっと恥ずかしいな。


ふむ。『風ェェ!』とかか?


(んんっ?!)


突然閃いたのだが、フレディエル王子の過ごした地の位置が分かっているので、一足先に転移で行ってくるか? うむ、デュークとダニーを連れて行く前の偵察みたいなものだな。


よし、走り書きを残して行ってくるか。そうだな……心配をかけたくないからな、『まだ魔術の調整に時間がかかる。ここで待っててくれ。転ぶなよ』最後の一言は塩地の表面がつるつるでダニーが転びそうだからである。


「箒、召喚『福』」

「休んでいたのにすまない。この紙をデュークとダニーが起きたら渡してもらえるか」


福の返事の仕方は柄を上下に動かすのだ。

「福、ありがとうな。頼んだぞ」


ふむ。魔術はたとえ短くとも詠唱すると、具体化というのだろうか。無詠唱より、スムーズにいくようだ。今の今で気が付いたのである!


魔術学院の上級生なのに、うぅ……恥ずかしい……っ! 転がりたくなる程であるぅ。



い……、いかん、き気をとり直して、


「転移」


____



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