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侍領主でござる  作者: ケヤキ
第七章 名も無き土地
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80.名も無き土地5

ウロ村には村民は居らず、羊と遊牧の羊飼いのおのこ二人だけがいた。


二人にウロ村のことを聞くと2、3年前からウロ村は土や砂で少しずつ埋もれ、村民はここから南東に歩いて2日程のイリキ村へと移動したそうだ。


今夜は共に夕食を取ることになり、俺たちはロア料理の香ばしい肉に釜で焼いた薄いパンを準備し、羊に草を食べさせに行った二人が戻るのをロアの酒、ロアイを飲みながら待っていた。



日が沈む少し前にカランコロンっと鈴音を響かせながら、二人は羊を引き連れて戻り、手際よく羊を3カ所の家に振り分ける。大した腕前である。


どうやら仕事が終わったようなので、手でここだっと合図をして、焚き火前の地面に敷物を敷いただけの席だが、座るように声をかけた。


二人はルオにイクスと名乗り、見た目より年上の17歳。幼馴染で元々このウロに住んでいたそうだ。二人とも長い髪は焦茶色で、瞳の色は薄緑だ。


野宿に慣れているようで、俺たちの準備した料理をパッと見て、この地域でよく食べられているソース2種類をさっと出してくれた。


一つは果実の油で、もう一つはルオの秘伝ルオソースだそうだ。ほほうっと試しに言われるがまま、果実の油はパンと、秘伝ルオソースは肉にと試して食べたが、こ、これは美味い! あまりの美味さにデュークとダニーとで顔を見合わせてしまった。


「「「美味い!」」」


果実の油は口に含むと香りが広がり、油なのにスッと抜ける爽やかさでパンとの相性は抜群だ。天からの贈り物と言われる荒地でも育つ木の果実だそうだ。


ルオの秘伝ルオソースも爽やかでいて、刺激的な辛味に木の香が食欲をそそる。いかん! こ、これはますます強い酒ロアイが進むのである。



酒のつまみにルオとイクスの話を聞いていたのだが、とても興味深い。例えば羊毛の手織りで製作される草木染めの敷物の話など、他にも沢山だ。


「羊は臆病で群れとなって行動することを好むや」


「ん? ルクス村の羊はあっちこっち1匹でフラフラするし、怒ると傭兵団も手に負えないと聞いていたのだが?」

ついこの間、ルクス村の傭兵団長ダラスに文句を言われたばかりなのだ。


「「それは羊じゃねえや!!」」


ふむ。ルオとイクスによると、どうやらルクス村の山羊やまひつじは、羊ではなく山羊やぎのようだ……。羊だと思っていたが、山羊やぎだったか……今度皆に教えてやらねばな。怒られそうな気もしないでもないがな。



デュークがルオ達の服装に興味があるようで二人に色々と聞く。二人の服装は夜着を長くしたような生成りのゆったりした上着に、トラウザーズを穿いていて、楽そうでいて涼し気だ。


「この袖周りと首周りの刺繍は村の伝統刺繍だや、刺繍でどこの村の者か分かるやー」とルオとイクスが少し得意気に語った。


俺たちもロアの首都、服装や食べ物、市場の話をしたりと夜も更けていた。


名も無き地を聞いたのだが、ルオにイクスは遊牧で常にあちらこちらと回っているのでよく分からないと言い、ウロ村の村長が南東に歩いて2日程のイリキ村にいるので、行くことを勧められた。



翌早朝、気温が低い早朝に旅立つ、ルオとイクスに日持ちのする食料やルクス村の薬草や茶などを渡し、また会って酒を飲み交わす約束をして送り出した。カランコロンっと鈴音を鳴らしながら、ルオとイクスは羊の群れを引き連れ、笑顔で手を振り去っていった。


ルオにイクス、また、会おうな!



さあ、俺たちも頑張るぞ、3人で作戦会議だ。そして秒ほどで終わったのである……。


「何も情報もないままに名も無き地へ行くのは危険です。遠回りになりますが、イリキ村へ行きましょう」

ダニーの言葉に俺とデュークが頷き終了である。



支度をし、フードを深く被りイリキ村へと箒で向かう。途中に休憩や食事を挟んだが、イリキ村には夕刻前に到着した。


ふむ。見渡す限りの乾いた土色。家々も日干し煉瓦造りで、その上に土を塗り固めたものだ。密集する家々の間を縫うような小道がひたすら続き、まるで迷路のようでもある。


まだ昼寝の時間のようで、ひとっこ一人いない。どうしたものかと3人で広場と思われる場に座っていると、昼寝の時間が終わったらしい? 5、6歳ほどの童がやって来て、人懐っこい笑顔で声を掛けてきた。


「にいちゃん、なにしてるのや?」


「私たちはロアの首都から来ました。ウロ村の村長はどちらにいますか?」

方言を使うのは止めたらしいダニーが言った。


「にいちゃん、つれててあげるやー」

童はにかっと笑顔で、ついていくるように手招きをしたので、童の後に続いて村を歩く。


昼寝の時間が終わったらしい? 村民がわんさか出て来て、客が珍しいのか好奇心いっぱいの眼差しで人懐っこく話しかけてくる。そして、デュークとダニーはおなごに囲まれてしまったのであるぅ。


「何処から来たや?」

「名前を教えてや?」

「村に泊まるや?」


おなごに囲まれることに慣れているらしいデュークが

「すまない、先を急ぐので失礼するよ」

と、きらりとするような笑顔で言い、ダニーまでも


「お嬢さん方、またの機会にでも」

と爽やか笑顔の落ち着いた対応で、カッコ良いのであるぅ。



童とダニーが手を繋ぎながら歩き、その後ろに続きながら、そう言えば、ロアの都市ミスリでも、イリキ村でも俺はおなごにモテないな……。ん? モテたことって一度もない?! としょんぼりである。


すると気遣いデューク察してくれたようで、

「君は容貌が優れ過ぎている。眉目秀麗過ぎるんだ」

「…………?」


「そうだな……例えば、高みにいる国王と話すには気後れするだろう」

「……似たようなのが、王子がここにいるではないか?」


「そうじゃなくて、クラウスだから気にならないのか……説明が難しいな…」


どうやら慰めてくれているらしい……。

モテなくても、強く生きて行くのである。


____



童の案内で辿り着いた家は二軒続きの長屋のようで屋根は三角屋根だ。一軒がウロ村の村長さん、もう一軒がイリキ村の村長さんの家だそうだ。


中に入ると一部屋しかなく、目に鮮やかな美しい敷物が敷いてあり、その敷物を囲むように座が床に設けられている。


茶室のような部屋奥には、綺麗な色のタババン姿のばばさまが、飲み物セットを前に座っていた。なんでも色々な相談をしに村民が次から次へと訪ねてくるので、茶をいつも用意しているそうだ。


笑顔で慈愛深い目をしたばばさまが、

「これは、これは良く来たねや。さあさ、座って、座ってや。お茶淹れるからねやぁ」


のんびりとした作法で竹のような香りの茶を淹れてもらう。穏やかな雰囲気の居心地の良い空間だ。


淹れてもらった茶で喉を潤していると、ばばさまが

「そこの黒髪のお方や、その剣を見せてもらえるかや?」


懐刀のように持ち歩いていた短剣だ。それにしても、よく気付いたものだな。

取り敢えず、意思のある剣カミツルキに念で聞いてみた。


『ばばさまに少しの間、手渡すがいいか?』

『…………』


全くこのおやっさんは、無口と言うか、何と言うかである。嫌だという気配はないので、ばばさまに手渡した。


「ルー、そんな短剣持っていたのかい? それにしても艶やかな黒色で金の細工といい、かなりの名剣のようだ」

剣に博識なデュークが興味深げに剣を見つめている。


ばばさまは時間をかけて丁寧に柄頭や鍔の模様を眺めたり、指でなぞったり、ひっくり返してたり、振り回してたりと忙しい。


暫くして気が済んだのか、振り回すのをやめて剣を返してくれた。

「ミナ、あれだや。持ってくるようにやぁ」

ミナと思われるおなごは重々しく頷き、何処かへ行ってしまった。


「話はミナが戻ってからや。さあさ、お茶を飲みなや」

ばばさまにルー、ディ、ダニーと名乗り、皮袋から焼き菓子やルクス茶を出して和やかに茶を楽しんだ。


その後に真っ白の足首まで覆う夜着のような服に、鉢巻タババンを頭に巻いた男衆3人がやって来た。その後ろに同じくのミナもだ。三畳ほどの狭い部屋に8人もで、ぎゅうぎゅう詰めで大変なのである!


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