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侍領主でござる  作者: ケヤキ
第七章 名も無き土地
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79.名も無き土地4

院長先生の隠れ家の戸締まりもしたし、出発準備は完了だ。予め準備していた隠蔽と防御魔術をかけた旅用マントを羽織る。このマントは乾いた大地が大部分の西側の土地に馴染むように薄茶色にした。フードを被ると隠蔽され、フードを取ると隠蔽が解除されるのだ。自画自賛だが凄いのである!



よし、出発だ!


日暮れに闇夜に紛れてロアの西外れの村、ウロへと向かう。今夜の計画はこうだ。薬草売りで訪れたことのあるロアの都市ミスリ近くに転移してから、箒でウロへと向かう。無理はせず、1、2日は途中で野宿も考えている。


俺たちは頷きを合図にフードを深く被り、転移した。

「ここがロアの都市近くかい? かなり平らな土地だね」

「そうなのです。北側を除いて平地がどこまでも続きます」


「さあ、朝方まで西へ進むぞ」

とは言ったものの、真夜中ぐらいだろうか。箒に座りっぱなしで皆、尻が痛くなったのである!


「少し、後側が痛くなってきたようだ」

上品なデュークは決して尻やドンケツなどと言わないのである。



適当な場所で下り、適度に体を伸ばした後に野原に軽く腰掛けた。青草の良い香りでふかふかな座り心地。大の字に転がると、上は満天の星星で、夜風が涼やかに頬を撫でる。


「…………?!」


変な音に耳を澄ますと、デュークの寝息であった……ひゅるるぅと変な音がするのである……。少しして、デュークを起こし、また西へと向かうのである。



太陽が東の地平線から昇り始め、空がだんだんと明るくなり始めた頃、人気がない場所で、白玉しらたまと名付けたつるんとした見てくれの光球の寝床を造った。


光球は色にこだわりがあるのだ。きな粉白玉の黄檗色きはだいろ、蓬白玉の蓬色よもぎいろとあり、今回はみたらし団子の金茶色にしたのである!


外側は勿論、隠蔽、防御、結界魔術を多重にかけてあるので安心なのだ。頑張った箒達も疲れが取れるように中に入れてっと。


「入った途端に眠くなるとイアン先生から聞いてはいたが……これが白玉かい。これは驚いたな」

「大きさも3人で寝るのに丁度いいですし、居心地もいいですね」


白玉の中はふかふかもふもふで柔らかくて、温かい、優れものだ。ダニーは疲れも相まってすぐ眠り始め、デュークの変な音の寝息も聞こえてきた、俺もまぶたが重い………


__

_____


昼過ぎであろうか? 


目が覚めると、二人はまだ眠っていた。起こさなようにそっと白玉を出ると、外は四方、見渡す限りの平地だ。ふむ。野原と言うよりは荒野だな。特に西の大地は赤茶けていて荒々しい。



そして、夕刻にまた箒に乗って西の夕陽に向かって進み、尻休憩を取ったり、明け方頃に白玉で休んだりとした。予定よりかなり早く、昼過ぎには西の最後の村、ウロ村近くに到着したのである。


俺たちは防御魔術のマントを着ているので、寒さも暑さも感じない。試しにマントを脱いでみると、とんでもない暑さで肌が焼け付くようである。マントで暑さは遮断できるが、陽射しがかなり強い。


ふむ。そんなとき用に自作の手拭いを持ってきたのだ。ほっかむりスタイルがいいだろう。どっちらがしっくりくるか? キュッと顎の下で結ぶほっかむりか、動きやすい鼻の下で結ぶ鼻掛けか。二種類試してみるか……こう、結んでっと……


「ルー、君は実に眉目秀麗でいて才気煥発でもあるのだが、時々変だな」

「………っ?!」


うぅ、デュークに手拭いを取り上げられたのである……。代わりに透けるようなタババンと呼ばれる薄布を巻かれてしまった。


皆も服装を改め、地図にあったウロ村に向かった。



「「「…………?!」」」


村が、ないのである?! 土と砂と藁を混ぜて固めたらしい日干しレンガで屋根が平ら。形が正方形の賽子さいころのような家が3軒ある。それだけだ。


「それにしても静かですね」


ふむ。家はどうやら扉がないようなので覗き込み、目が段々と慣れてくると、なんと! ぎゅうぎゅう詰めの羊くん達が収まっているのである! 他の2軒も隙間無く羊くん達で一杯である。


そして、『家陰の地面にうつ伏せで死んでいる者達がいる!』 と皆で驚いたが、ござを敷いただけの地面で昼寝をしているだけのようだ。昼寝をしているのはおのこ二人で、ルクス村のルカぐらい。14、5歳ぐらいだろうか。


「文献で読んだことがあります。暑い地方の民は正午過ぎの最も暑い時に日陰で昼寝をするのです」

「なるほど、羊も日陰で休ませ、人も休息をとると言うことかい」


おのこらは良く眠っているし、俺らも休むかと話をしていると、後から突然声が掛かった。


「あんた達、誰だや! 何してるや!」


ダニーが小声で、

「語尾に『や』をつけるのがこの地域の方言です。親しくなるには地域の言葉を使うのが一番です」


そう言うと、ダニーが予め決めていた旅の目的を説明した。

「わたしたちは都市から、この辺りの調査を請け負ってやってきましたや」

発音が違うのか、使い方を間違えたのか、おのこに不評を買ったダニーであった……。


「ウロ村はどうした? 人々はどこへ行ったのだ?」


『都市からの調査』に納得したらしい男は、

「2、3年前からウロ村は土や砂で少しずつ埋もれたや。村人はここから南東に歩いて2日程のイリキ村へ行ったや」


「君達はここに住んでいるのかい?」

「違うや、羊の遊牧で草があるところを回っているだけや」


おのこも今夜はウロで夜を明かすとの事で、共に夕刻に食事を取ることとになった。


少し涼しくなったので羊に草を食べさせてくると男は出掛け、俺たちは食事の準備をすることにした。異国情緒漂う香ばしい肉を丸焼きにしたものを切り分けて、釜で焼いた薄いパンに挟んで食べるロア料理だ。


全て空間魔法の皮袋から出せばいいだけなので準備は早々と終わり、デュークとダニーとで果実から作ったロアでよく飲まれる強い酒、ロアイを飲み交わす。



ロアイと共に太陽が沈みゆくのをただ眺める贅沢。たまには良いものだ。


____


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