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侍領主でござる  作者: ケヤキ
第六章 ロア国 都市ミスリ編
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71.つかの間の休息1

薬草売りは院長先生の「ズラかるよ」で突然の店仕舞いとなった……。しかし、棚から牡丹餅と言うのだろうか、3日間の休息をもらえたのでルクス村へと転移したのである!


ルクス村の俺の家、うっ、懐かしい囲炉裏部屋だ! 板の間だった部屋には、今では畳もどきもあるのだ。畳の上に寝っ転がり、ゴロゴロしながら、青い草の匂いを嗅ぐ。これだけでも癒されるのである。


さて、すでに夜だ。皆への挨拶は明日にして、さっさと休むか。すると白いもふもふの見た目が狸? 従魔の白丸が姿を見せ、両手を広げるとぴょんと飛び込んできた。うむ、もこもこのふわふわにお日様の匂いまでもするぅ。


「おかえり、思ったより早かったね」

「無事戻ったぞ、白丸。しかし、3日後にはまた出掛ける」

すぐに夜着へと着替えて、もこもこふわふわの白丸を抱えて眠りについた。



陽の光が部屋へと差し込み、気持ちよく目が覚めた……? 俺の顔を覗き込むように藤子、藤丸、ジョセフと取り囲まれていたのである。


「おお、起きたな」

「おきた〜〜〜」

「おはようございます」


いつから居たんだ?! まあ、いいか。ジョセフの用意してくれた茶を飲みながら、報告をする。

「持っていた薬草やらは完売だ」


「そうじゃろうな。妾が住まう地じゃ。良い薬草じゃからのう、不思議はない」

藤子が少し鼻高々だ。


「ジョセフ監修の裕福層向けのルクス茶包装セットも大した評判だった。さすがジョセフだ。見栄えもするし、茶の配合にこだわっただけに香り高い」

ジョセフも嬉しそうに目を細める。


「ところで、皆、露天風呂はどうだったか? 気に入ったか?」

「勿論じゃ、今まで知らなかったのを残念に思うほどじゃ。藤丸なんぞ、泳ぎに精を出していたぞ」

「がんばった〜〜〜」

「……おぅ……」


露天風呂は泳ぐところではないのだが、気に入ってくれているなら、まあいいか。


村の様子など留守をしている間の出来事を聞いたり、俺のロアまでの旅話にロアの都市や市場の様子などを話したりとしていたら、藤子がふと思い出したようで手を叩いた。


「ところでじゃ、その国での薬草売りが終わったのなら、その銀の髪色を戻しても良かろう」

「ああ、そうだな。手間をかけるが、戻してもらえるか」


返事をする前に、藤子はさっさと元に戻してくれ、た? 元の黒髪だが、腰近くにある髪を一束掴み見る。

「おおぅ、髪色だけでなく、長さも戻してくれたのか? というか、前より長いようだが?」


藤子が俺の髪を後で軽く一つに纏める。

「そうじゃ、お主にはそれぐらいの長さが似合うからのう」


そして、その会話を静かに聞ながら、少し髪が薄くなったジョセフの目が鋭く光ったのである。



高値で売れたと皮袋に入った金貨をルクス村の管理を引き受けているジョセフに手渡した。ふむ。


「ジョセフ、前から思っていたのだが、村の代官になるつもりはないか? これまで通りなのだが。もし領都に戻りたいのであれば、勿論それでいい」


膝の上にいる白丸と藤丸を撫でていたジョセフが穏やかな表情で微笑んだ。


わたくしは引退し、余生をどこか自然豊かな地でのんびりと過ごすつもりでございました。束の間のお手伝いの予定ではございましたが、今ではすっかりこの村の暮らしが気に入っております。午前中は村の仕事、午後からはゆったりと釣りを楽しみ、夜は村民と飲み、ゴホン、食事を共に。それにこの老骨がお役に立てるのであれば、嬉しく存じます」


「そうか。それでは引き続きだが、代官の肩書きと共に任せてもいいか」

「はい、勿論でございます」


「ジョセフはすでに俺の家族だ。共にいられることを嬉しく思う」

「じぃじぃ〜〜〜」


最後の藤丸の言葉がとどめで、この頃、涙脆いジョセフが泣き出してしまったのである。落ち着い頃に、鼻を真っ赤にしたジョセフが父上からと、差し出した文を受けとった。


文には届き次第、急ぎでクラウスに顔を出すように書かれている。ジョセフに村を任せて、村を治めるに相応しい、有能で信頼できる者を1人付き従え、急ぎくるようにと。


何やら急を要する事があるようだ。クラウスに行かなくてはな。ジョセフ以外で、有能で信頼できる……か。


ふむ、頭をフル回転である。釣りのドルド、傭兵団のダラス、村の良き相談者の村長。個々では有能で信頼できる者達だが、うーむ。村を纏める者、治める者、ジョセフ以外……か。これは藤子しか居ないな!


「藤子、クラウス領にいる父上に急ぎ、面会しなくてはならない。父上の文にはジョセフ以外で村を治める者を連れてこいとある。共に来てもらうことは出来るだろうか」


「なんか面白そうじゃのぅ、よかろう、共に行ってやるのじゃ」


すぐに身支度を整え、クラウス領の父上の城、俺の部屋へと藤子と共に転移したのだが?! これは、一体全体、なんなんだろうか? 


二間続きなのだが、寝台のある部屋はそのまま。もう一つの暖炉があり、書斎として使っていた間が……溢れんばかりの赤子の物で埋まっている……。ひよこだろうかの、色とりどりの変なひよこの置物や目に眩しい黄緑色の赤子の寝床他にもたくさんだ。


手で搔き分けながら部屋を出た。多分母上だと思うのだが、母上のセンスは謎である。藤子が着ている服も母上が送ってくれた衣服の一つだが、かなり変だしな。レースがフリフリ過ぎるし、布の柄が個性的というか、特殊の領域なのだ。


部屋から応接間へ、そして父上の書斎へと歩いていると、母上が応接間の向こう側から歩いてきた。いつもの様に長い栗色の髪を高い位置で一つに結い、優雅で気品のある所作で歩く。


「ル、ルークちゃん! いつ戻ってきたの? 連絡もしないで、全くもうっ、悪い子ねっ!」


『公』では有能であり、外交、商談などの母上の手腕には舌を巻くのだが、『私』では相変わらずでこんな、ゆるやかな? 感じなのである……。


「まあ、顔を見ると元気で暮らしていたようね。安心したわ、もうっ」

「母上もご機嫌麗しゅう……」


すでに母上の関心は藤子に移ってしまったようで、もう藤子に向かって話を始めていた……。


「あら、貴方が?! 貴方なのかしら?!」

「……?……」

さすがの藤子でもついていけてないのである。


そこへ混乱を極めるように灰色の髪でいい感じに渋みがでた美丈夫、父上が登場した。肩には鷹を乗せている。見覚えのある、俺が差し上げた使い魔の鷹だ。


父上に気が付いた母上が少し困った顔をしている。

「あらまあ、肩がまた真っ白よ」

どうやら、クソのことのようだ。


「ルークちゃんって、うんこ、あっちこっちでするから、困っちゃうわ」


えええぇ?! ひょっとして鷹の名前が俺と同じ?! 聞き様によっては、俺がクソをあっちこっちでしている様ではないか?!


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