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侍領主でござる  作者: ケヤキ
第六章 ロア国 都市ミスリ編
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67.薬草売り5

ルクス村の薬草売りを探しにきた5、6歳の女子おさなごが、元ディアス王国特級王宮魔術師で、現ディアス王国魔術学院の学院長と名乗ったのである!


「「「ーーーー!!」」」


息を呑み、時が止まったかのように静まり返った……。そして、馬の五助の「ぶひぃーー」鼻息で時が動き始めたのである。


この女子は白髪のおかっぱだ。髪色は違うが絵巻で見たことのある座敷童子の見てくれ、そのままである。


「なんだい、その締まりのない顔は? しっかりしな。ちょっとした魔術の失敗さ。時を遡る魔術の構想中でね。ほんのちょっと差の『止め時』って言うんかい? 失敗しちまってね」


俺たちはどうもあんぐりと口が開いたままでいたようだ。院長先生? によると、何やら魔術学院の学院長になった直後に魔術を失敗したとの事である……。


「魔術学院の学院長が魔術に失敗したなんて体裁悪いだろう。王宮で仕事してるって事にしてたんだよ。まあ、そんなことより、誰がルークなんだい?」


「はい……俺です」


「聞いてた見てくれとは違うね。まあ、あんたには礼を言わなくちゃだね。イアンを助けてくれたんだって、感謝するよ。あの馬鹿弟子、捕まっちまって、人質に取られちまってたんだよ」


 (人質ぃーー?!!)


「返して欲しいなら、ロアまで来いってね。あの時は歩くことも話すことも出来なかったから、行けなかったんだよ。馬鹿でも、弟子だから心配でね。イアンには悪いことしちまった。まあ、捕まったほうが悪いんだけどね」


(あのイアン先生が馬鹿馬鹿って言われてるぅーー?!!)


院長先生が言うには、失敗したのは時の魔術で、時を遡る魔術だそうだ。時の遡りを止める、たった一瞬がズレて、遡り過ぎたとの事である。


そして、時の魔術を使うには発音が大事だそうで、三月前はまだ3、4歳程の幼子だったので、舌ったらずで上手く行かなかったらしい……。やっとマシになった姿がこの5、6歳だそうだ……。しかも完全に戻るまでには月単位の月日が必要らしいのである。


「そこの二人、この子ちょっと借りるよ。弟子の弟子だからね。何て言うんだろうね。馬鹿の弟子の弟子だから大馬鹿かい?」


(えええぇ?! 弟子の弟子は孫弟子では?!)



圧倒的な威圧というのだろうか? ちびっ子なのに怖いのである。質問も出来ずに言われるがままにセシルとダンは昨日と同じように薬草売りに行き、俺は師匠の師匠、大師匠? 言いにくいので『院長先生』とロアの魔術学院の学院長に会いに行くことになった。


セシルとダンが幌馬車に乗ると、俺がいない事に気が付いた箒の鈴が飛んできた。院長先生が目を大きく見開いて鈴を見つめていたので、鈴の必殺技、『強烈、手の甲叩き』を受けたことがあるのかもしれない。


「さてと、あの古狸、どうせ学院にいるんだろう。どうやって入り込むかだね。チッ、厄介だね。何を使役しても、魔術だと分かっちまうから……そうだね……。薬を使うかね。ちょっと待てな」


ちび子院長先生は背中に背負っていた体に不釣り合いの大きな袋を下ろし、瓶に入っている、いくつかの液の調合を始めた。最後に色を陽に透かし、


「よし、良いだろう。不味いけど、飲むと体が透明になるんだよ。魔術じゃないからね、多分わからないだろう」


院長先生が差し出したのはどろりとした深青色で刺激的なすえた臭いが漂うのである……。院長先生だから殺しはしないだろう? 多分? と我慢して飲むと、まず手の色が透けていき、足が透けてきたのだ。


感覚はあるのに物理的に見えなくなる。これは面白い! 今は側から見ると胴体だけで、気持ち悪い事この上ないだろうが。少し、時を置き、院長先生も俺もすっかり景色と同化した。


「この効果は半日だからね。しっかりと覚えときな」


そして院長先生が鈴に向かって言う。

「あんたは体の色を変えることが出来んだろう、この馬鹿についてきたかったら同じ色にしな」


そうすると鈴の色が透明になった。

「すごいな、鈴!」

俺が声をかけると鈴が嬉しそうに飛び跳ねた感じがした。


院長先生が『よし、ついてきな』と言われたが、どこにいるのか分からないのであるぅ。目を閉じて集中すると、院長先生の姿が段々と、そしてはっきりと分かってきた。そのまま後をついて行く。ロアの学院の生徒や先生の間を縫い、院長先生が再度舌打ちをする。


「ちっ、厄介だね。四方に3重ほど魔術を重ね掛けしてある。ありっこ1匹も入れないね」


闇魔法や光魔法ではするりと入れそうなんだが、院長先生がいるしな。ふむ。気付かないうちに院長先生も俺も、同じ姿、腕を組みながら考えを巡らせていた。


「「……………」」


うむ! ロアの図書室で覚えた超古代文字、超古代魔術だと通り抜けが出来るのでは! あれは思うに魔法と魔術の間に位置している。ロアでも魔術陣に超古代文字を一つ、二つ、組み入れるだけだ。もし通常使っている魔術陣の文字を超古代文字にすべて置き換えたらどうなるのだろうか?


「その顔はなにか思い浮かんだようだね。やってみな」

「初めてなので、失敗するかも知れません」

「まあ、何もしないよりマシだろうね。失敗した時の為に、逃げる準備をしとくさ」


目を瞑り、集中をする。そして光属性の魔術陣を組み立て、外の壁から光と共に通り抜けた。


(うぅ……目がシバシバする……)


院長先生も後ろからついて来ていて、同じく眩しそうにしかめ面をしている。

「こりゃ、驚いたね。現代魔術陣を超古代文字に書き換えたのかい。思ったより馬鹿じゃないようだね」



古狸院長がにこやかに頷いていた。


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