57.魔術学院 ロア国7
箒の鈴の吹っ飛ぶような飛行により、皆より一足先に着いてしまったである。旧鉱山と坑道の地図で、イザベラとロビンとは予め打ち合わせをしていたので、そのまま予定の場で二人を待つことにした。
旧鉱山の坑道の前にいるのだが、手彫りのノミの跡が残っている。覗くとひんやりとした空気が漂っていて、寒い。
大三郎の祖父が大雨の日に招き入れた銀山からの客人の話が忘れられない。鉱山労働は苛酷な事この上ないと言っていた。蝋灯か貝に油の灯りで、ほとんど、手元しか見えない漆黒の暗闇。
そんな中で高温多湿に耐え、硬い岩石を手彫りで進み、落盤、出水、酸欠、常に大怪我や死の隣り合わせで、30前にみんな死んじまうって言っていた。
思いを馳せていると、イザベラとロビンが到着した。
「ルークの箒、凄すぎるわ、本当に!」
「ロアもディアスも皆、目が点になってたぞ」
「実は俺もあの速さには驚いていたところだ」
「そういや、ルーク。ディアスでも魔物討伐の仕方とか習うんだろう。どんなことを習うんだ?」
「いや、俺は入学してから、1日しか授業に出てないからな。討伐の仕方とか分からぬ」
「ちょ、分からぬ、じゃないわよ。あなた、今まで何をしてたの?」
ふむ。良い質問だな。イアン先生の研究室の掃除に雑事、研究資料の準備と……ん? それだけか? いや、黒の森には行ったな。その後に一月休学して……
「ルーク、ひょっとして、考え込むほど、何もしてないのか?」
「ちょ、ちょっと、し、心配になってきたわ……」
坑道を覗き込見ながら、ロビンが言う、
「まあ……取り敢えず、坑道に入ってみるか。浅い坑道は特に弱い魔物が多いと聞いたがな」
「う、打ち合わせ通りに、ロビンが先頭で、次がルーク、そして後が私ね」
魔物がいつどこで襲ってくるかも分からぬので、鈴と他の箒は坑道前で留守番だ。それにしても、なんか団子のような陣形だな! ロビンが火属性、イザベラが風属性だ。
坑道に入り、ロビンが火を灯す。中は想像した通り、薄寒い。ゴツゴツした手彫りの岩肌で、ロビンの背丈ギリギリの坑道が続く。
いつまでも同じ光景に静寂が続いていると、時の流れが分からぬものだな。かなりの距離は歩いているはずだが。
「ねぇ、どれくらい歩いたかしら? 魔物もいないし、少し休憩しない?」
引率の魔術師から預かっている砂時計を見ると、昼時だった。
「俺が念の為、見張りをすることにしよう。二人は座って休むといい」
二人が休憩と間食を取っている間、俺が火を灯し、辺りを見張る。坑道の壁を火で照らすと、まだ少し鉱物が残っているのだろう。闇夜に輝く星のように、壁にある何がしらの鉱物がきらりと輝く。綺麗なものだ。
「魔物討伐で魔物と出くわさなかったら、中間試験の成績どうなるのかしら?」
「ディアスは中間試験の成績次第で退学なんだがな」
「それは厳しいな!」
そ、そして、呑気に話している間に魔物に囲まれてしまったのである! そこにいたのは300はいるであろう、白い手毬ほどの玉蒟蒻だった……。
「全く殺気を感じないぞ……ただポヨヨンとしているだけだ」
ロビンの言葉に俺もイザベラも頷く。
魔物かどうかを資料で確認してみることにした。
「どれどれ、デェミリア講師の魔物資料に……描かれているな!魔物名はプルンだそうだ。なになに刺せば爆発して終わりらしい」
害のないもの、魔物か、を討伐するのは忍びないな。皆で頭を突き合わせて、どうしたものかと考え込む。
「よし、結論が出ないなら、見なかったことにしよう」と俺の意見が通った。
プルンはポヨヨンといるが休憩を順番に取り、プルンに別れを告げたのである。
その後もひたすら歩き、何事もなくその日は終わった。あまり大きくはないが洞穴のような場所で一夜を明かすことになり、空気が十分あることを探知で確認してから、焚き火をおこす。
寝ずの番を順番にすることになり、砂時計をみると朝方頃に刺すような殺意を感じ、身構えながら二人に声を掛ける。
「どうやら、お出ましだ」
坑道の岩と同じ色をした、50匹程のトカゲを巨大にしたようなものが、四方から飛びかかってきたのだ!
ふっ、俺たちを朝飯がわりのようだな。狭い洞穴なので、一人では無理がある。金色に光る幾何学模様の魔術陣が浮かべ、四方に盾を出した。
トカゲは臭い匂いを撒き散らし、忌々しそうに、激しく体当たりを繰り返す。
ふむ。この狭さだ。火や、水ではダメだろう。
「ルーク、ど、どう、討伐するか?」
「比較的、トカゲの数が多い後方はイザベルに任せ、数が少ないが、範囲の広い前方と左右を俺が受け持つ。ロビンは剣で止めを頼む。行くぞ!」
盾を消し、イザベラは風魔術で後方のトカゲを切り倒す。俺は土魔術で石弾を飛ばし、ロビンが次から次に止めを刺した。
トカゲを全て倒し切り、ロビンが汗を拭いながら言う。
「ど、どうなるかと思ったけど、なんとかなったな。ルーク、ひょっとして、魔物討伐したことがあるのか?」
「い、いや、ない、かな……?」
「かなり、冷静で余裕があったじゃない! ニヤリっと笑みも浮かべて!あれが有名な『笑み』なのね。怖かったわ……」
「………!?」
「つまり、お前の笑顔は底知れぬ恐怖を抱かせるだよ!」
(ひ、ひどい言い草だ……ん? だからイアン先生が手合わせの時に笑顔を忘れるなと言ったのか?! そういえば黒の森でも何か言われたな?!)
「ほら、そんなことより、魔石を取り出しましょう」
イザベラの一言で皆で手分けして魔石と呼ばれる石を取り出しにかかった。
取り出した50程の魔石はキラキラ輝く琵琶の実ほどの大きさと形の蒼石だった。禍々しくぬめり、トカゲのような臭い魔物から、このような綺麗な石が出てくる不思議さに驚いた。
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