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侍領主でござる  作者: ケヤキ
第一章 クラウス領 領都ダル編
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5.領都見学

ディアス王国の最東端、父上のクラウス領地は東と南を囲うように山脈がある。その山脈を境に東にラウトス帝国、南にトリア国、そう二カ国の国境に面しているわ、細長わ、大変な領地なのである!


北側なのだが、神話の時代から黒の森と呼ばれる不思議な地なのだ。幾十にも結界も張り巡らされていて、立ち入る事も出来ないのだ。


そのクラウス領の領都ダルだが、東のラウトス帝国と南のトリア国、そして西にディアス王国 王都が交わる盆地に位置する交通の要所である。東と南から商人が入り、西へ抜ける。またその逆も然り。野菜や果樹の実りも良く、クラウス領の財政は豊かなのだ。



さて、落ち着いてきたので、午後から領都へ遊びに、いや、視察に行くことにした。領民の暮らしをこの目で直接見たいし、市場で何か美味しい物を食べたいのである! 


そうと決まれば、変装をしなくてはな。母上にも云われた場に応じた服装だ。大三郎の時は薬売りや商人によく変装したものだ。今回は常のつねのかたとも云われる庶民の装いだな。


執事のジョセフが、念の為に護衛をつけろと譲らないので、新人女騎士を一人つけることにした。名はエレナ、俺より二つ年上だ。南天ナンテンの実のような落ち着いた赤髪に瞳をしている。彼女も今日は騎士服ではなく、庶民の装いだ。


「エリナ、今日はよろしく頼む。市場を中心に視察したい」

「はっ!」


「姉弟設定でエリナは姉で、俺は弟だ。今日は市場へ大根を買いに行く」

「はっ!……大根? でございますか?」


あれ? 大根はないのか。

「それじゃ、りんご。りんごを買いに行く」

「承知しました」


いつも鍛錬している森を背に城は丘の上にある。南へと石畳を下ると、貴族、裕福層の屋敷が建ち並び、そして南下に領民の暮らす街並みが広がっている。


「姉さん、市場で流行っているのは何?」


「ルークさ……くん、綺麗な飴と艶々なコリル布、よ。裕福な人はそのまま服に、庶民は一部取り入れる形かな。例えば髪飾りとかで……ね」


「へえー、そうなんだ」


「あっ、そうそう、果実汁も! 南トリアのプリム果実汁。色が夕焼け色で味も甘酸っぱくて美味しんだから」


「それは一度飲んでみたいな!」


エリナと話しながら歩いていたら、市場の入口に着いた。市場の中心に向かって東西南北の十字に馬車が通れるぐらいの大通りがあり、その中心に広場と噴水がある。


北から来たので北入口の北大通りからエレナと見て回る。北側は貴族向けの値が張る衣服や宝飾、高級菓子に茶葉、上質な書物などの店々が並んでいる。


十字の中心にある広場と噴水に着いた。辺りは様々な人々が交わる憩いの場だ。思い思いに人々が休憩をしたり、楽しそうに会話をしたり、幼子も楽しそうに走り回っている。穏やかな景色は良いもので、いつまでも眺めていたくなる。


その広場の噴水を境に東西に延びる東大通りと西大通りは庶民の市場で、すでに美味しそうな匂いが漂う。パンに肉、色とりどりの果物などの食料品が所狭しと並び、威勢のいい呼び込みと掛け声が飛び交う。


折角だからと市場の屋台で売られていたプリム果実汁に、エレナお勧めの揚げ菓子を広場で頬張った。うむ、こりゃ美味い!


「さすが姉さんだな。とても美味い。この揚げ菓子の名は?」

「うふふ、これはね、丸いでしょう。『コロコロ揚げ』よ」

「コ、コロコロ……」


腹も膨れて、最後に南大通りだ。庶民にも手頃に買える服から雑貨、生活用品が売られている。鍛冶屋、飲み屋もあるな。


南大通りの小道にはやや貧しい領民が住まう家々が並んでいて、この先は一般的な庶民の装いでも支障がありそうだ。エレナには用を足しに行ってくるので、広場の噴水で待つように伝えた。表裏兼用の衣服、表は一般的な庶民、裏はやや貧しい民の上着を準備していたので、裏に着直しだ。



ほんの3年前に国境で小競り合いがあったのである。小競り合いでも長期に渡ると経済は疲弊し、国境近くで暮らしていた難民、孤児、怪我をした傭兵、そして貧困から身を崩して犯罪に走る者までいた。


父上と母上は私財から、働けるものには仕事と住む場所を、病人や怪我人には治療を、そして希望者には学ぶ機会を与えた。あれから、3年経ち、この辺も大分良くなってきたようだ。ただ施すだけでは人は立ち直れない。希望と矜持を持って生きていけるように支援するのは難しいものだ……。



帰り際に今日の礼にと、赤の艶々なコリル布で出来たリボンをエレナに手渡した。南天ナンテンの実のような落ち着いた赤髪にとてもよく似合う。エレナはにこりと満面の笑みを浮かべて喜んでくれた。

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