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侍領主でござる  作者: ケヤキ
第四章 ブルクス領 領村ルクス編
49/130

49.御頭、フォート砦 へ

藤子の水魔法は強烈だった。真っ黒な雲々を呼び、雨どころか豪雨に雷が地の果てまで轟いた。宮殿前の赤茶けた狭い峡谷には豪雨による急流が生まれ、激しくうねる。


「しもうた。やり過ぎてしもうたようじゃ」


手で払うよな仕草をすると、黒雲々が散り散りとなり、消え去った。残ったのは抜けるような青空である……。余りの光景に言葉を無くしてしまう……これが神々しいと言うことなのだろうか。


そして、藤子はしれっと続ける。

「ほれ、其方の番じゃ」

「…………」



もちろん、藤子のようには出来ず、雲を呼ぶどころか、霧からの長い道のりである……。


「ははっ、ははははは!」


藤子は腹を抱えて大笑で、笑い過ぎて腹が痛いという……。


「これでも努力しているのだぞっ!」

「はっはは、すまぬ。そうカリカリするでない。妾は昼寝でもしてくるのじゃ。練習だったか? 励がよい」

そして、転移して姿を消したのである。



藤子は以前に云っていた。特に何も考える必要がないと。何も考えず、我々が息をするように、魔法を使えるのだろう。魔力量がとてつもなく多いので、威力が半端なく大きくなるようだが。


その日は日暮れまで水魔法を練習し、夜は倒れ込むように眠りについた。




朝がきた!


よし、今日も丸々1日、頑張るのである! 先ずは魔術の練習で祖父上の魔術本、第二章、土魔術である。どんな魔術なのか楽しみだ。


今日も黒龍の宮殿近くに転移した。本に目を通すと土を土壁、土壁を固めて石壁にしたり、逆に石壁を土に戻して、砂にする。


その後は応用編で土や石から、石弾や砂の嵐などとある。


ふむ。これは使い勝手が良さそうだ。家を作るときに材料いらずで、土から土壁を造り、石壁にする。壊したい時は石壁を土に戻したり、砂にも出来るということだな。


早速、いつもと同じ手法でふむふむと魔術陣を暗記し、頭の中で魔術陣を組立て理解してから、一つ一つ、もしくは藤子談、ちまちまと練習する。


この日もとっぷりと日が暮れるまで練習し、囲炉裏部屋で倒れる様に寝た。こうして2日に渡る魔術と幾らかの魔法の練習は終わったのである。




そして、次の日!


兄上の元で修行をするルカ達をフォート砦 に連れて行く日となった。3日かけて行き、フォート砦で一夜過ごす予定になっている。旅程は1日半は山下り、麓で一夜を過ごし、馬でフォート砦である。



藤子も砦 に行きたいとのことで、一緒に行く事になった。それにしても白丸は藤子が苦手なのか、なんなのか、藤子がいると姿を現さないのである。ジョセフが白丸と藤丸の世話をしてくれているので大丈夫とは思うが。


「「「兄貴ぃーー!」」」


待ち合わせの場所に元気な声のルカと仲間の5人がやって来た。藤子と俺はこの辺りの地図を見せ、指で指し示しながら伝える。


「皆で協力して、山を下った先にある、この麓に来れるな?」

「大丈夫とは思うっす。でも、兄貴達と一緒じゃないんすか?」

「ああ、これも修行の内だ。1日と半ほどで来れるな」


「「「えええぇ〜〜!」」」


「頑張るのじゃ。妾も行くゆえに」

にっこり微笑む藤子に鼻の下を伸ばしたルカ達は首を縦に頷いた。


ゲンキンなものである。食べ物や必要なものは手渡した付与魔術付きの皮袋に放り込んである。後は、皆でなんとかするだろう。


「さあ、先に行け」

「兄貴達には負けないっすよ。先に着いて待ってるっす!」

と元気に走って山を下り始めた。


俺は知らぬ場所は転移できぬので、藤子に任せ、山の麓に転移した。山の麓には数軒の家があり、兄上が人数分の馬と宿という名の一軒家を用意してくれていた。

 

翌日の日暮れにルカと仲間が到着した。かわいそうなほど、泥だらけでボロボロなのである……。ルカ達の話によると、最初は順調に山を下り始めたのだが、途中で最後尾にいた者が滑って転び、将棋倒のように皆で転がり落ちたそうだ……。


眉を下げてしょんぼりと俯くルカ達に川で洗ってくるように言い、藤子と俺、いや、主に俺が猪鍋の準備をする。チャキチャキと準備して、皆に腹一杯の猪鍋を食べさせた。気分は母上である……。



3日目は早朝に馬に乗り、フォート砦へ向かう。兄上に恥をかかせぬよう、服装も改めた。


俺と藤子は馬に乗れるが、ルカ達は初めてだったらしい。最初は恐る恐るだったが、旅の終わりには楽に乗りこなす様になっていた。砦で馬から降り、暫くは皆揃ってガニ股歩きだったが、なかなかやるのである。


初めて目にする石壁要塞フォート砦の迫力は圧倒的だ。重厚な砦門前には兄上が、そしてその両横には騎士団が一糸乱れず整列している。ルカ達は遠目から『かっ! かーっこいいっす!』と大興奮だ。


兄上はクラウス家の嫡男、そしてこの砦の騎士団長だ。無礼がないように公式な礼を淀みなく行う。


「よく来たな」

「はっ、兄上自らのお出迎え、恐悦至極に存じます」

「畏まるな、まずは茶でも飲もう。ダグラス、この若者の案内は任せたぞ」

「はっ!」


俺と藤子は兄上の後に続き、応接間に入った。フォート砦は無骨だが堅固な砦だ。大きくもなく、小さくもなく、全ての無駄を排除した、機能的で実用的な砦である。ラッセル兄上らしいな!


フォート砦の歴史は古く300年程前に建築されたそうだ。代々のクラウスがここを守護してきた。勿論もれなく、祖父上もだ。未だ発見される隠し部屋や秘密の隠し通路、奥が深い? 砦なのである。


応接間も最小限の調度品だが、なぜか客人に威圧を与える威厳の様なものを感じる。兄上と応接間で茶を楽しんだ後、フォート砦内を案内して貰える事になった。



これは面白そうだ! 興味津々であちらこちらと物珍しく見て回る俺とは真逆の藤子。いつものすました感じで俺の横を歩く。


少しばかりの違和感を感じながらも、砦の見学後に客室に案内された。


兄上がくるりと振り返り、


「二部屋用意させたが、一部屋の方が良かったか?」

「もち、勿論二部屋ですっ!」

「そう照れるでない。妾は其方と一緒の部屋で構わぬぞ」


(〜〜〜っまたまた、藤子が紛らわしいことを! 兄上はいつもの顎に片手を置き、目を細めての情報分析に入ったではないかっ)

「はっはは! 揶揄おうただけじゃ。ルークは揶揄い甲斐があるからのう」


「「…………」」


「あに、兄上、一休みしてから魔術本があった祖父上の隠し部屋を見てみたいのですが、よろしいでしょうか?」


「ああ……」


(いかん、兄上はまだ静かに目を細めている……こ、こんな時の為に用意したのは、これである!)


「あ、兄上から頂いた金でコロン用の脚輪を用意致しました。脚に簡単にはめることが出来て、しかも『コロン』と名も彫てあります!」


途端に兄上は表情を崩した。

「そうか、それはすぐにでもコロンに付けてやらねばなっ!」

と側から見ても、ウキウキと立ち去ったのである……。


_________

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