46.御頭、パパになる?
朝陽の眩しさに目を細めて瞬きを一つする。隣には黒の輝く長髪に陶器のような肌の美し女が穏やかに寝息を立てている……ぅ?!
「ーーーーっ!!」
さ、さく、昨日は村民と宴を開いて、腹いっぱい食べ……美味い酒に舌鼓を打って……と、隣で寝てる女は誰であろうか?!
よくみると女は俺の夜着を着て寝ているぅ? お、俺は……宴の時と同じ服装である! 安堵しつつも混乱を隠せずに戸惑っていると、ジョセフがいつもの『ルーク様、お目覚めでございますか』と声を掛けてきた。
起きている気配がするのに、いつもと違う異変を感じ取るあたり、さすがジョセフである。いつもより硬い声で『失礼致します』と囲炉裏部屋に入り、そして目をパチクリさせた後に、弾かれたように後に下がった。
「し、失礼、致しました」
大急ぎで部屋を飛び出しそうになるジョセフに待ったの声をかけ、俺は寝床から脱兎の勢いでぴょーんと跳び出した。
「まっ、待て! 違うぞ! ご、誤解だ!」
思っていたより、大声を出してしまったようで、女が眉を顰め、気だるそうに目を開けた。
「なんじゃ、朝っぱらから煩いのぅ」
「「ーーーー!!」」
煩わしいそうに整った顔を少し歪めた女に俺もジョセフも暫し時が止まったように固まる。すると藤丸が勢いよく囲炉裏部屋に入り、女の広げた腕に飛び込んだのだ!
「まま〜〜〜っ!!」
「「ままっ?!」」
「黒竜ではないか、其方は今まで何処にいたのじゃ? 心配させおってからに……」
眉を下げ、やさしく撫でながら、柔らかく笑みを浮かべる。そして、藤丸が落ち着いた頃合いに抱き上げ、おでことおでこを合わせている。
「そうか、土砂に巻き込まれて……長い間一人で留守を守ってくれたのだな、苦労を掛けた。何? 翼が生えて飛べるようになったか」
暫し、何が何だか分からずに突っ立ていると、女がこちらを向いた。
「ルークとやら、助けてくれたようじゃな。礼を申す。其方が魔力を分けてくれたお陰で黒竜は無事であったようじゃ。それにこのままでいられる」
「ふじまるのママのこくりゅうだよ〜」
「……ひょうっとして黒龍?!」
「そうじゃ、黒龍じゃ」
藤丸は頬を紅潮させ、嬉しそうだが、さっぱりついて行けぬ俺とジョセフは疲れ切ってしまったので、一息つくことにした。
ジョセフの淹れてくれた美味しいルクス村のお茶を飲みながら、黒龍らしい? 女と藤丸の話を聞いた。黒龍の姿は女で歳のころは俺と同じくらいだ。
眠りから覚めたら、何故か宮殿は半壊だわ、黒竜はいないわで、特にする事もなし。そこで、外を軽く散歩? していたらしい。人の姿になった方が目立たず、都合が良いからそうしているとのことだ……。
「妾は黒竜の母で、お主も魔力を黒竜に分け与えたのだから、父のようなものだな」
「ぱぱ〜〜〜っ!」
ええっ?! と思いつつも、藤丸の輝くような笑顔の前に誰が嫌だと言えよう……。
「……おぅ……」
「ところで、何故突然ルクス村にいらっしゃったのでしょうか?」
もっともなジョセフの問いに、女は不思議そうな表情をする。
「はて、呼んだのは其方らの方じゃがな」
「「……?!」」
「其方らはこの地で妾を担ぎ、祭り、踊り、歌い、そして、合図の狼煙を上げたではないか」
ひょっとして、幟の黒龍に、宴に、焚き火が一緒になって、知らず知らずのうちに呼んでしまった?
そういえば、大三郎の祖父上から聞いたことがあるな。龍にまつわる伝説がある村で、水害から農作物の守り、五穀豊穣と村の発展を願う龍の祭りがあると。確か楽しそうにしていると龍が童の姿になって、一緒に祭りに参加すると云う……そ、それか?!
「な、何故、黒龍殿はお、俺の寝床に?!」
「ほう、忘れたのではあるまいな。其方が妾に一緒に寝るように言ったのだぞ」
黒龍はニヤリとした笑みを浮かべるのである。
「〜〜〜……っ」
秒速で首を動かし、驚いた真顔で俺を見つめるジョセフ。
(し、視線が痛い……)
「「「…………」」」
「ふっ、はは、ははは! すまぬ。揶揄おうてしまった。酔い潰れていたので、お主の部屋に運んでやったまでのこと。それに手頃な服と寝床があったので、妾も休ませてもらった」
俺とジョセフは朝っぱらから深いため息をついたのだった。
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