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侍領主でござる  作者: ケヤキ
第四章 ブルクス領 領村ルクス編
41/130

41.御頭、体験村暮らし

領主館を建てた次の日は丸々一日を掛けて領主館の細かい改装や改築をした。


それと、領主館の片隅に俺の家を建てたのである! 藁葺き屋根、土壁、土間と囲炉裏ありで板の間。おまけに縁側付きなのだ。


よし、次に取り掛かるのは領主、いや、頭としての仕事だな!


しかしだ。何から手を付けたらいいのわからん。領を治める為には領を知る事からだろうか? 領を知る、村人の暮らしを知る。体験すると何か見えてくるかもな!


丁度良いところにダラスと村長がやってきた。


「おっす、御頭! 好物の焼き魚、持ってきたぞ」

「大きいのが捕れましたからのぅ」


相変わらず、村長は口調からは想像できないほど筋肉隆々で、服が今にも弾けそうなのである……。


「おお、美味そうだな! ところで相談したいことがある。皆の仕事ぶり、暮らしが知りたい。そこで、それぞれの仕事を体験してみたい」


「それなら、そうだなぁ。まずはこの魚を釣った魚釣り名人のドルドなんか良いんじゃねぇーか?」

「それは良いのぅ。魚も捕れるし、ほれ、なんと言うかのぅ。一石なんとかじゃ」


ほほう、それぞれの分野の名人とで仕事体験か。例えば山菜摘みだったら、山菜摘み名人の仕事を体験するということだな。名も覚えられるし、体験村暮らしも出来るしで、一石二鳥だな。



一夜明けて、鍛錬に素振り、イアン先生の魔術の研究や資料作成、そして、午後からが体験村暮らし!


準備したのは藍色の短めの上着と足元が絞ってあって動きやすい野袴のばかま。脛の部分に上から脚絆きゃはんをも巻いて準備万端だ。


なんせトラウザーズを穿いて動いていたら、後ろ側が破れて尻丸出しになった前科があるからな……これで安心というものである。



今日は釣り名人が迎えに来てくれた。両足は肩幅ぐらいで腰を屈め、両手を両膝に置いて挨拶をするのは、釣り名人、名はドルドだ。


「御頭、お疲れ様っス」

なかなかのドスを利かせた低音で話すドルド。


「……おうっ……」


ドルドは30前半ぐらいで髪色は深緑……か? 目が細く、強面だが朴訥な人柄のように見受けられる。ドルドが案内をしてくれるのはこの村の東の外れ、南の山脈から北東へと走る沢にある釣り場だ。


豊かな森をドルドと歩いていると、段々とせせらぎの瀬音が聞こえてきた。沢へと下り始めると川石が多くなり、滑りやすくなっていく。

「御頭、足元、気ーつけてくだせー」


「ああ、ところでドルド、お前は弓兵だったようだな」

「……御頭、どうして分かったんですかい」


「見ればわかるさ、ドルドは左右の体型に著しく差異がある。左胸が発達しているし、左手首に腕が肥大している。

右指の使い方を見ると痛みがありそうだな」


「一目見ただけでバレやしたか、参りやした」

「その釣竿も弓造りの技術で作ったようだな」


「ーーーー!!」


それから目をキラキラに輝かせたドルドの釣竿の話が止まらなくなった……何かの琴線に触れてしまったらしい……。


弓で使う柔軟性のある木を使った木製の釣竿で、釣り糸はテグスのような半透明。


更にこの釣り糸は貴重な蜘蛛の糸を撚ったもので、針は弓矢の技術を使ったドルド自慢、五番目の改良版だそうだ……。


第一印象では寡黙だったのだが、目を輝かせて話す姿はかわいいオッサンなのである。


ドルドお勧めの沢は豊な森に緑色の苔むした石、透き通った水が光の加減で青に見える。綺麗な渓流だ。


なんとドルドが釣り針を入れると、すぐに魚が釣れたのだ。岩魚イワナのような、白っぽく白い斑点模様がある魚だ。


こ、これは、実に美味そうだ!


釣りは精神を集中する鍛錬にもってこいで、よく岩魚釣りをしたものだ。これでも岩魚釣りの大三郎と呼ばれていたのである。


うむ、ドルドに引けを取る訳には行かないな。釣り針を波だっている瀬、石に流れが当たる場所の狙い目に入れると、ふっふふ、釣れたぞ!


少し顔を顰めたドルドと、釣りの戦いが始まった。


日暮れ近くまで釣りをした結果、引き分けだった。だが、ドルドの魚の方がやや大きかったので俺の負けである。


釣れた魚は勿論、即塩焼きだ! 川岸近くで、ドルドと食べた魚は香ばしく、ほんのり甘い白身の魚で、実にうまかった。



翌日は薬草摘み名人のリスがやってきた。ダラスの妹でダラスと同じく軽く毛先の跳ねた髪は濃紺で、瞳も濃紺。そして、腕周りの筋肉がバキバキでかなり強そうなのである!


大三郎の時も山の恵みの薬草を摘み、かなり割の良い金子きんすを得ていた。出来るのなら、薬草をこの村の特産の一つにしたいのものだ。薬草の栽培も試してみたいしで真剣にリスと薬草を見て回る。


特に多く生えているのは匂いの強烈なドクダミぽい薬草。やはり解毒薬としてよく使われるそうだ。


「おおっ! ヨモギ?! おおばこ?!」

薬草摘みも熱中してしまい、気が付いたら日暮れだった。たくさんの薬草は後程、薬として調合してみよう、と空間魔法の皮袋へポイッと投げ入れる。



それからも山菜摘み名人の子供おのこのイルスと干し椎茸を作ったり、狩に木こり、村料理、傭兵訓練、家畜の世話、織物やら、農業やらの体験村暮らしに励んだのである。


しかし、2年後には税を納めねばならんので真剣なのだ。いくつか収入を増やす案を思い浮かべたのだが、如何であろう。


 釣りで使ったテグスのような蜘蛛の糸での織物

 木の実や山菜の干物、薬草の栽培に薬作り

 茶畑で茶の栽培 高級ルクス茶?

 山羊を飼い乳用に肉用、毛で織物

 詳しく調査が要必要 鉱山


村長やダラスを中心に名人5名と俺とで、第一回ルクス村会議を後日することにしよう。


_____


その頃、ルクス村では村民達が井戸端会議をしていた。


「すんげぇ、御人が御頭になったもんだ。ここいらでは名のある傭兵長のダラスにオレらも一人残らず、ぶちのめすしよぉー」


「ああー、御頭の体験なんとかでか? 狩で右に出る者なしのワシだってそんなもんだ。御頭のいう『抜き足、差し足、忍び足』だったか? 気配を完全に消して、物音一つ立てずに獲物の首を切り落とすし、鳥なんて弓使わず、その辺の石ころ投げて狩をするなんざ、普通じゃねーな」


「ああっ! 狩なら見てたぞ! 木から木へ飛び移ってたし、それに崖を棒一本で滑り降りてたな」


「野放しの家畜なんかも殺気と強烈な威圧感かで、身動きが出来なくなった家畜を楽々とっ捕まえるしな」


「女どもも目も眩むほどお美しいと見惚れてたぜ。前掛を掛けても、木の実パイを焼いてても男前で倒れそうとかなんとか。


「木こりの仕事も蹴っ飛ばして、木倒したりするしな」


「「「ーーーーっ!!」」」


「まぁ、なんだ……最強の御頭なのは間違いねぇーな」

「「「ちげーねぇー」」」


_____


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