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侍領主でござる  作者: ケヤキ
第四章 ブルクス領 領村ルクス編
39/130

39.領主、酒を酌み交わす

生命力を帯び、キラキラと輝いてる森で山菜ときのこ採りに夢中になってしまったのである! いかん、いつの間にか日暮れなのだ。


イリスが折角だから、家に泊まっていけっという、なんと家で山菜料理を振る舞ってくれるそうなのだ。山菜料理には勝てず、有り難く泊まらせてもらう事にした。


山菜を水辺で洗いながら、念話を使って白丸に伝えると、藤丸の宮殿を見に行きたいから丁度いいそうだ。白玉しらたまは藤丸とで協力して運ぶそうなので任せ、何かあったら呼ぶように伝えた。


その後、洗い終わった山菜と共にイリスと山道を登って行く。イリスの家はこの山道の突き当たりにあって、爺さんと二人暮らしだそうだ。


道すがら、夕飯用の鳥を捕まえたりしながら歩いていると、イリスの家が見えてきた。おほほぅ、これは茅葺かやぶき、いや麦の穂の藁葺わらぶき屋根の家なのだ! 


大三郎祖父上の家と比べると、土壁ではなく、丸太を組んで建てた家のようだ。それにしても藁葺屋根、懐かしさで涙が出そうであるぅ。


屋根から煙が上がっていて、蝋燭だろうか? 家内は柔らかい灯火がともっている。懐かしさのあまりしんみりしてしまった。良い家だ。


「イリスの家は良い家だな……」

「だろっ!」

少し、誇らしげなイリスが眩しかった。


「じっちゃん、帰ったぜぇ! 山で拾った客人連れてきた」

「おーよっ!」


ええぇ?! 想像していた年の行った爺さんを想像していたが違うぞ?! 強面の筋肉隆々の爺さんが出て来た……。


ものすごく渋面で至近距離に顔を寄せてくる爺さん。

「お前、なんで山中にいたんだ?」

「さ、山菜を摘んでいた」


すると、腑に落ちた顔になり、爺さんは頷く。

「そうか、集中して山菜を摘んでたら、そういう時もあるわな。

山菜が好きな奴に悪い奴はいねぇ、ゆっくりしていきな」

「…………」


そういうものなのか? と首を捻りそうになったが、取り敢えず先に礼を述べる。

「感謝する。摘んできた山菜がここにある。是非、料理するのを手伝わせてくれ」


部屋の隅に石造りで出来た暖炉のような、かまどのようなものがあり、鍋が天井の丸太からぶら下がっている。その鍋に捉えた鳥の肉、きのこ、そして、たっぷりのセリを入れたセリ鍋を作った。


「「「美味いっ!!」」」


____


朝が来た!


昨夜はイリスと爺さんとで夕飯を食べ、山菜摘みの疲れか、倒れるように寝てしまった。多分、大三郎の暮らしに似ているからだろう。どこか懐かしく、心がほっこりとする。


持参したハムサンドと果実を取り出し、3人で食べる。白丸と藤丸は白玉に常時用意してある食べ物セットから朝飯を食べているだろう。


この付近には推測していた通り、100ほどの世帯があるそうだ。イリスに道を教えて貰い、感謝を述べてイリスと爺さんの家を後にした。


このブルクス領? の南側は山脈、東側はクラウス領。北に10日で王都があり、東北に10日でクラウス領の領都がある。ちょうど良い間合いなのだ。


実はブルクス領? の領都、いや領村の名を今朝決めたのである! ブルクス領 領村ルクスである。もちろんブルクスの後の三文字を取ったもので、単純明快で良い名と自画自賛中なのだ。


山道を進むと山間部の谷間に繋がり、その谷を中心に四方に細く枝分かれし、家々が立ち並ぶ。周りは段々畑が広がり、山の緑、空の青、畑の土色、絵画のようだ。



そ、そして、分かってしまった……この領地は荒くれ者の住まう土地なのだ。そう、ごっつい荒くれ者どもに目下囲まれているのである!


なかなかの迫力のある隻眼の男に怒鳴られた。

「おいっ、そこのクソ野郎!! この村に何のようだ?!」


ふっと笑みが出てしまった。クソには耐久性があるので驚かないのだ。

「ただ、見学させてもらっているだけだ。日が暮れる前には立ち去る」


胡散臭そうに腕を組み、睨みつける隻眼の男。突然、隻眼の男が腰に差していた剣を使い、ヒューと風を切る速さで斬りつけてきた。剣先が、俺の前髪ぎりぎりを掠める。


ぞくりと鳥肌が立つような心地がする。魔物を除いて、まともに剣を振るったのは執事のジョセフだけだ。ジョセフは静の剣だ。この隻眼の男は動の剣。久しぶりで血湧き肉躍る。


ニヤリと笑みが出た。

「ーーーそれで?」


ピリピリとした空気を貼り、隻眼の男が上から下にまっすぐに斬り下ろそうとする瞬間、右薙なぎで、右から左へ水平に一閃、怯んだ隙に刺突で鼻の頭で寸止めした。


「………っ!! はははっ! 負けた、負けた! お前スゲー強ぇー。クソ強ぇーな」


少し悔しそうだが、サッパリした表情の男。言葉より剣で語り合うか……たまには良いものである。しかし、周りが水を打ったように未だ静まり返ている。あの森の調査の時に俺の笑みは怖いと注意を受けたばかりだ。自分では分からんが、気を付けねばならんな。


そして陽も真上に来ていない時分から、なぜか2、30人で集まって酒盛りが始まってしまった。隻眼の男が負けて悔しいから付き合えだそうだ。


この男はダラスと名乗った。歳は25で、軽く毛先の跳ねた髪は濃紺、がっちりと鍛えられた体。うむ、学院に行けば、筋力鍛錬部の奴らに取り囲まれるのは間違いないな!


この村の者は3年前にクラウス領の国境付近での小競り合いに参加した傭兵どもとその家族だそうだ。


小競り合いの終結後、山間部の開拓の為に集められたそうだ。道理でこの村の男衆は鍛えられた体をしている訳だ。それにちょっと、目つきも悪いぞ! ぐるっと周りを見回すと女衆も強く逞しいのである。


纏めるとこの村の者は腕に覚えのある荒くれ者の集団である……。


酒の飲み過ぎですっかり酔っ払いのダラスが聞く。

「ところで、あんた、こんな所で何してんだ?」

「見学ついでに山菜摘んで、そして絡まれた」

「絡まれた?……俺にか! はは!!」


それから、川で捕まえた川魚の塩焼きをつまみに色々な話をした。傭兵だったので、死んだ者や怪我をした者、又その家族の面倒を見ている話、この地の開拓の話、それから剣や鍛錬、魚釣に狩、山菜から天候の話まで。話は尽きなかった。


_____


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