38.領主、山菜摘みに励む
その日の午後には王宮から寮の自室に戻ってきた。
呆然である。賜ったのは3点、叙爵男爵、土地、それから領地に名を付ける栄誉。
それと官僚の使者から手紙が手渡された。父上からだ。手紙には一言『貰える物は貰っとけ』だった……。
クラウス家には独自の暗号があり、読み解くと『あの狸め』だった。『あの』は誰を指すのであろうか? 見なかった事にしよう……。
爵位は興味がないので捨て置いて、領地である。どんな領地であっても、要らないとか、変えてくれとかは言えない。腹を括るしかないのである。
クラウス領の西側、領隣の土地で南のトリア国の国境に面している。
『もともと一代貴族が収めていた土地で廃爵となった。南山脈の麓、自然豊な土地柄で、納税は2年免除』と王宮で説明を受けた。野生の感だろうか? 何か、きな臭さを感じる……。
住民は500人ほど。ふむ。一家族5人と数えると100世帯ほどだな。大三郎の母上方の祖父上は村長だったのだ。家の近くは30世帯程の村が3つほどあったから、同じぐらいか?
領地にこれから名付けをし、俺の名にもなる。こ、これは大仕事だ。下手な領名で名になってしまったら、うっ……恥ずかしくて外を歩けない。
その後は自室に閉じ籠り、真剣に領名に取り掛かった。今ある俺の身近な名前を五つ挙げて、適当に繋ぎ合わせて考えた。ブルックスか、ロルックス。
ルーク=ブルックス ブルックス領 ふむふむ。
ルーク=ロルックス ダメだな。なんか滑りそうな感じを受ける。気のせいか?
もう一度、考える。ブルウスはどうだ?
ルーク=ブルウス ブルウス領 ふーむ。もう、一声だな。そして、迷走は続いたのである……。
夜半にはもう面倒くさくなり、決めた。ブルクスだ。
ルーク=ブルクス ブルクス領
どう、決めたかというと、だいざぶろうの『ブ』、ルークの『ルク』、そしてクラウスの『ス』だ。うむ。これは口外しない方が良い気がする……。
署名をするまで3日ある。もう少し考えたほうがいいかも知れない?
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朝が来た!
朝一番で寮の食堂に行き、日替わりサンドに果実を3人分を手に入れて部屋に戻ってきた。よし、用意ができたぞ! 白丸と藤丸に声を掛ける。
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今日はこれから俺の領地になる土地の下見だ。南山脈の麓なので、藤丸の守護している宮殿近くではないかと推測したが、その通りだった。
本日の計画は従魔の藤丸に場所を念じてもらい、一緒に転移する。実は昨晩、近場で試してみたら出来たのある。従魔だからだろうか。そこで、二人を腕に抱き、転移をし、領地の下見に行く事にしたのだ。どんな土地なのだろうか。楽しみで、ワクワクする。
藤丸が黒龍を探しにトボトボと歩いた付近が領地らしい。その場所付近に移転をする予定だ。藤丸が両手をじゃんけんのグーにして、腹に力を入れる。
「う〜〜〜ん。はいっ!!」
俺は藤丸と白丸を抱き、森の中に立っていた。藤丸は黒龍を探し歩いたことを思い出したのか、少し悲しげな顔をした。
「辛かったと思う。けど、ここを頑張って歩いたからこそ、今があるんだ。よく頑張ったな」としんみりと藤丸を抱っこしながら、話しをしていた。
すると、真横から何か茶色のものが、すごい速度で突っ込んできたのである。こりゃいかん、と片足に力を込めて蹴っ飛ばしたら、何かが薮の中に勢いよく転がっていった。
「ルーク、なんか突っ込んできたよね。何あれ?」
「何だろうな?」
「いのししー?」
危険な感じは無かったので、捨て置こう。
「まあ、なんでもいいか、先へ行こう」
「これから、人がいるかも知れない。念話で話そうな」
「「わかったー」」
「それと、しばらく周りを見て回りたい。白丸と藤丸はこの辺であそんでいてもいいぞ」
「「わかったー」」
念の為、疲れたら休めるように防御と隠蔽済の白玉も準備し、もし何かあったらすぐ呼ぶようにも伝えた。
学院でもそうだが、話をする従魔はいない。悪目立ちも良くないので、外では喋らないようにしている。そこで、今練習中なのは白丸と藤丸との念話だ。段々と上手く出来つつはあると思う。
顔を上げると木々の間から青空がよく見えた。木漏れ日の中、鳥の囀りが響き渡り、山は自然豊かで美しい……いい森だ。
大三郎は山中で育ったので、このような森に入ると心が躍る。森の匂いにひんやりとした吹き抜ける風を感じていたら、またまた、真横から何か茶色のものが、すごい速度で突っ込んできた。ひらっと躱したら、茶色が豪快にすっ転んだ!? と思ったらすぐ立ち上がった。
「……?!……」
「怪しいヤツ!! 何者んだっーーー!!」
子供だった。焦茶色の髪は肩に掛かるほどで、焦茶色の簡素な服を身に纏い、どうした訳か全身泥だらけだー?! 俺か?!
「すまん、真横から突然突っ込まれたから、さっきは蹴っ飛ばしてしまった。体は大丈夫か?」
子供は睨みながら、全身で警戒しているのが分かる。まるで野生のイノシシみたいだな。また突っ込んでくるのかと眺めていると、固まったように動かない。
「「…………」」
ここだけ、時が止まっている?
いつまで、こうしていればいいのか? 疑問に思い始めた頃、子供が口を開いた。
「なんで、山中ウロウロしてんだ!」
うっ、痛い所を突かれた。転移で来たとは言えんな。
「さ、さ、山菜摘みだ……」
「…………」
また時が止まってしまった……。どうするかなと思っていると、
「ここには山菜は生えねぇ。ついて来な」
どうやら生えている場所に連れてってくれるようだ。
「俺の名はルークだ。お前の名は?」
チラリと振り返って、子供は答えた。
「オレはイルスだっ」
イルスは10歳ほどだろうか。始めはイルスの山菜摘みに付き合うつもりでいた。しかし、いかん。俺が山菜摘みに熱中してしまったのである!
「おお! 水辺にあるのはセリっぽいな。この特有の爽やかな香りがいいな! セリ鍋にしたら美味そうだ。ん?! こっちは蕗のとうか? これは揚げ物だな!」
初めての領主の仕事は山菜摘みだった。
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