26.魔術学院 同級生
ふふっふ、鬼のイアン先生が丸々1日、王宮の行事に出席するのだ。行きたくないと最後までブツブツ言っていたが、結局は王宮へ向かった。そう、『鬼の居ぬ間』ができたのである!
思えば一月過ぎても、たった5人の同級生としか交流がないのだ。セシル、ナターシャ、キースと取り巻き2人の計5人だ。食事も研究室で食べていたので、食堂にもほとんど行かなかった。
折角、縁があっての同級生だ。交流があるに越したことはない。今日は食堂で食べることにした。
昼食を食べに3階の上級生用の食堂に行くと、赤茶色の髪と瞳が印象的な女と淡い金髪に華奢で小柄な女が食事をとっている。
手早く皿に昼食を盛り、女達の真向かいで声をかける。
「ここに座ってもいいか」
「「ーーーー!!」」
両者ともに時が止まったように固まって動かない。うぅ、駄目なのだろうか? すると、助っ人ナターシャが颯爽と食堂に現れたのだ。
「あら、ルークじゃない。珍しいわね。一緒に食べましょう」
うむ、ナターシャのお陰で、時間が動き始めたようである。
「すいません。驚いたものですから」
「俺はルークだ」
「私はリリー=ラッセルで、こっちはサラ=シェルスです」
「「「…………」」」
いかん、次の会話が続かないのである。何を話したらいいのであろうか?
「ルーク、ご婚約者の方が寮にいらっしゃったんですって? キースに聞いたわ」
「………っ!!」
助っ人ナターシャが俺の横に座りながらの爆弾発言である! うっ、きっと姉上のことだな。それにしても、キールは口が軽いな!
クラウス一族の方針の一つに抑制力になるから姿を晒さないがある。実態が不明なものは余計な想像心を掻き立てられ、怖れるからだ。戦わずして勝ちを目指すクラウス秘伝、幽霊作戦なのである! 公の場に出るのは父上と母上だけなのだ。
そう、姉上はフードを深くかぶったマント姿で現れ、早朝に姿を消した。姉上ではなく、こ、こ婚約者として。おそらく、どうしても婚約者に会いたくなったお忍びのご令嬢風……?
「ルーク、ご婚約者はどんな方なのかしら?」
「ええぇ?! な、何というか、強い? 凛とした雰囲気、だろうか……」
「まあっ! 素敵ね。きっとお綺麗なのでしょうね」
「た、多分……」
話題を変えねば、身がもたないのである!
「ルークさんは、従魔がいますか?」
ありがたい事にリリーが変えてくれたのだ。
「ああ、白のもこもこふわふわの狸? がいる」
「狸は珍しいですね。私は怪我していたのを拾った水鳥です」
「あの……わたしも草兎の従魔がいます!」
リリーとサラは従魔がとても好きで、従魔の事について色々と教えてくれた。二人が白丸を見てみたいそうなので、白丸の体調が良くなったら、連れてくる約束をしたのだ。
それから、魔術の話になり、魔術を始める前の口上だと思っていたあれを『詠唱』というそうだ。
「基本魔術は詠唱することによって、魔術陣が組み上がるのよ。そこに魔力をのせ、魔術を発動させるの。気を練って詠唱するから、声が大きなる傾向があって、そうね、人によっては独特な癖や抑揚が出るわね」
ほほう、気合いの掛け声のようなものだな。うむ、剣でも気合を入れる時や相手を威嚇する時には大声になるしな。
初級だと詠唱が長く、上級だと詠唱が短くなる。俺が詠唱を知らなかったのは、上級の教本は初級と中級の応用編なので、詠唱の記述が省略されているからだそうだ。
多分、祖父上の魔術本も上級の教本と同じくで、省略されていたのであろう。
「俺は独自の多重展開魔術を使うことが多いので、独自の詠唱で気合が入るように、きえええっ! いやあああ! とかにしてもいいのだろうか?」
「「「えええぇ?!」」」」
イアン先生に聞くように言われたのである。
____




