24.魔術学院 姉上、参上
いつものように忙しい日々を過ごしている。夜遅くに寮に戻ると、にたり顔のキースに声を掛けられた。
「お前も隅に置けないなぁ、綺麗な人じゃないか。部屋に案内してやったぞ」
いかにもありがたく思えの気持ちが見え隠れする。
「……?!……」
何のことだろうと思いながら部屋の扉を開くと、怒気を帯びる声が飛んだ。
「おい! この私を待たすとはいい度胸じゃないか!」
暖炉近くの椅子に暖炉の炎に負けをとらない、燃えるような赤髪に瞳で、軍服姿の姉上がいたのである!! 姉上の後には護衛騎士も一人いる。
「ーーーーっ!!」
驚きすぎて立ち尽くしてしまった。日々の疲れが吹っ飛んでしまうほど、とんでもなく、とんでもなく想定外だった。
「姉上、姉上ですか?! 本当に?!」
「人を幽霊みたいに言うな!」
姉上のティアベル=クラウス、俺より5歳上の22歳だ。剣士として一流の才覚を誇り、一本気で猪突猛進。怒らせたら、真剣に死を覚悟しないといけないと密かに言われている。
さすが、国境という戦線を任せられているだけはあるのである。
「ラウスの砦は大丈夫なのですか?」
クラウス領東にあるラウスの砦を守る姉上は第一騎士団長なのだ。
「さあな。そんなことより私はすごく怒っているのだ。すごくな!」
「ーーーー!!」
いかん、死んでしまうぅ! 部屋が暗く、長い足を優雅に組んだ姉上の表情が窺い知れない。想像心に掻き立てられ、背筋に冷や汗が流れるのだ。
物音一つしない部屋の暖炉から、薪の弾け燃える音だけが響く。
ーーバッチッ!ーー
少しの沈黙を置いてから姉上が続ける。
「父上が私のブラックサンダーフラッシュを勝手にお前にくれてやったようだな」
(……ブラックサンダーフラ……?! 黒丸か?)
姉上の声が一層低く、うなりを上げるのだ。
「天塩にかけて育てた馬だ。お前に問おう。お前が一枚噛んでいるのか?」
「い、いえ!! 噛んでません! 父上が唐突にくれたのです」
嘘はついて無いだろうなっ!! と射抜くような視線で見据えた後に、姉上は深いため息をついた。
「そうか……軍馬を育てるのがどれだけ大変かわかるか? 音に慣らす訓練から始まって、特殊な訓練を地道にして、軍馬として注意深く育てるんだ」
姉上は俺を鷹のような目で見据えながら、言うのである。
「なのに山での長期演習が終わって戻ると、父上が勝手に連れ去った後だ。父上の元に駆けつけると」
「「え? 言ったと思ってたよ」」 姉上と声が重なり、姉上は苦々しく頷いた。
「そうだ。そこで、取り戻すために領都からはるばるここまでやって来た。そこまでの価値があるからな」
「誰かには頼まず、ご自身で、ですか?」
「ああ、お前が一枚噛んでいるのなら、一発殴るつもりだったからな」
(……お、お恐ろしい話だ……)
「裏の小屋にいるブラックサンダーフラッシュをここに来る前に見てきたが、ちょっと太ったような気はするが、元気そうで安心した。仮眠を取ってから、早朝にここを立つことにする。お前の寝台を借りるからお前は床で寝ろ」
「………えっ」
「なんだ、文句でもあるのか?」
「ない、ないです!! 一つだけお聞きしたいのですが、姉上なら部屋の鍵はどうにでもなると思いますが、寮にはどのように入られたのですか?」
「ああ、ひょろっとした茶髪の男にお前の婚約者だ、と言って入れてもらったぞ。おい、なんだそ嫌そうな顔は!」
どうやら、気付かないうちにひどく嫌そうな表情をしていたらしい………。姉上はその後すぐに寝台で休まれ、護衛騎士は暖炉の前の床で仮眠をとり始めた。
俺のせいではないが、姉上には余計な気苦労をかけてしまったので、お詫びとして姉上の剣に付与魔術をかけることにした。
魔術陣を展開させ速度と攻撃力、耐久性上昇の付与魔術を、姉上の安全を願いながら白天さんの魔法をもかける。
暖炉の炎に照らされた魔法の金粒子は美しく幻想的だった。
翌早朝、姉上は剣をヒュンっと一振りし、目を白黒させた。それと付与魔術付きのジン兄上力作、棒手裏剣の直打法などの使い方を説明し、姉上が気に入ったようなので手土産として手渡した。いや、献上した。
その後、姉上は朝陽を浴びながら『またな!』と、颯爽と黒丸とともに見えなくなったのである。まさに風のように現れ、風のように去った姉上なのだ。
さてと……疲れたので寝るかな……。




