22.魔術学院 イアン王宮魔術師
うほほぅ、腹一杯だ!
今日の日替わりサンドはハムと新鮮な野菜、そう、食堂一押しのハムサンドだったのである。
調子にのって食べ過ぎてしまった腹をさすりながら、ナターシャとセシル、キース達とは別れ、王宮魔術師でもあるイアン先生の研究室の扉を叩いた。
気だるそうな声の返事を聞いた後に扉を開くと、驚くほど部屋は書物で溢れている。湾曲で精巧な飾りまである2階建の本棚には書物がぎっちりと隙間なく並んでいる。
部屋はあまり広くはないが、部屋の中央には大きな机があり、窓を背にイアン先生は座っていた。
ぶほっ! 少し訂正である。足の踏み場もなく山のような書物が床に広がり、部屋の中央にある大きな机だと思われ物の上に、あぐらをかいて座っているのである……。
「よくきたな。さあ、入ってくれ」
どうやって部屋に入ればいいだろうか? と立ち尽くしていると、イアン先生は面倒臭そうに舌打ちをして、風魔術で色々な物を吹っ飛ばして座る場を作ってくれた……。
吹っ飛ばされて初めて見えるようになった深緑色のソフアに座るよう促されたので座ると、どこからか小型の机とランプが現れ、ニヤリと笑みを浮かべたイアン先生の取調べが始まったのである……。
掻い摘んで話すと、今まで人に教わったことがないこと、全ては祖父上の残した本や文献からの知識で、1ヶ月ほど己で試行錯誤しながら練習したことを自白させられた……。
イアン先生に色々と魔術に関して質問され、疲れたな、いつ釈放されるのだろう? とぼーっと思っていると、
イアン先生は上機嫌に声をあげた。
「よし、全容解明だ!! ルーク、お前は歯抜けだ!」
「ーーーはい?」
「つまり、学生がこの学院で10巻までの本を学ぶとしたら、まずは1巻、2巻と順を追って学ぶだろう? お前は1、2巻、5〜8巻、10巻、そして何故か15、20、22巻と、ふっ飛んでんだ」
納得がいったように頷きながらイアン先生は続ける。
「今、最終学年が10巻を学んでいる。お前はすでに学び終えているので、教えてやることは何もない。そこでだ、歯抜けの部分は俺が教えてやる」
イアン先生はニヤリと口の端を上げた。
ええぇ!? 怖いしな……と思っていたら、顔に出てしまったようである。
「なんだその顔は、ローブの金の裏布を見ろ。第一級王宮魔術師の俺が、お前に教えてやると言っているんだ。ありがたく思え」
「………裏布の色に違いがあるのですか?」
そんな事も知らないのかと言う顔をしながらも、丁寧に教えてくれた。
「いいか、王宮魔術師は第一から第三級まであって、上から金、銀、銅なんだ。裏布を見れば分かるようになっている。ちなみに2人しかいない特級は青だ」
ほほう、そうだったのかと自分のローブの裏布を見ると黒だった。
「そうだ、黒はビギナーだ。はっはは!」
「…………」
「お前に一つ質問がある。王宮魔術師でもないお前が、魔眼、いや、目で魔術陣を使えるのだ?」
「如何なる状況でも生き延びる為、両手足が使えない場合を想定して、練習をしました」
「………お、お前、どんな環境で生きてんだよ!」
これから午後はイアン先生に師事することになったのである。
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