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侍領主でござる  作者: ケヤキ
第一章 クラウス領 領都ダル編
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2.ふんどしを締める

朝が来たのだ!



状況は変わらず、と言ったところなので……仕方ない。腹を括るとするか。 


手始めにベッドの布を六尺ほど少々拝借し、六尺褌をキリッと締めた。うむ。まさにこれが褌を締めてかかるだな。気を引き締めて事に当たるとしよう。


執事のジョセフには褌は奇抜に見えるだろうから、暫しの間は秘密にして置くことにした。


さてルークとして生きてきたので、全ての記憶はある。しかしだ! 褌を締めた体を改めて見ると、長身なのは良いが、なんだこの軟弱な体は? まさに牛蒡くんなのである!


試しに忍び者の基本の歩をしてみたのだが、忍び足すら足がつり、つった痛いふくらはぎを涙目でさする羽目になった。


よし、体の鍛錬は最優先事項のようだな! 


幸い、父上と母上は領地内の村々の見回りと管理で2、3ヶ月は不在。姉上と上の兄上は騎士団長なので、それぞれの砦の守りで不在。下の兄上は多分? 不在。


鬼の居ぬ間になんとやら、好き勝手出来るので、体を鍛えることにした。


出掛けの際に窓からの陽差しを受けて、きらりと光る両手剣が目に入ったのだ。そうだな、直刀も準備したい。仕込み刀に棒手裏剣とかもあると良いな、と考えながら部屋を出ると、ドアの死角からジョセフが突然現れたのである!


「どちらへ、お出掛でございますか?」

「ね、寝てばかりいたので、体が鈍ってな……。少しばかり、鍛えてくる」


「左様でございますか、いってらっしゃいませ」

気配の消し方が達人の領域で、流石はクラウス家の執事なのである。



城内には騎士団専用の訓練場があるが、俺のはちょっと特殊なのだ。『何だありゃ?』と云われそうだし、恥ずかしいしので目立たぬところで鍛錬する事にしよう。


城の北側の城壁を抜けると森が広がっていて、丁度良い。まずは鍛錬に耐えられる体力づくりからだ。体をほぐしてから、森を走り、足腰から鍛え始めた。



それからは毎日、朝食を食べ、昼食を包んで貰い、森で自主鍛錬をし、日が暮れ始めたら城に戻る日々を二月繰り返した。


始めは生まれたての子鹿状態で、片足、片足、プルプル震えさせて戻り、翌日にはひどい筋肉痛で涙を浮かべたのだった。しかし、今では木に登り、素早く走り、正しい型の素振りも午前三千、午後七千本できるようになった。


よしよしと自画自賛中である。



今日は泳ぎの鍛錬として、城外のやや領都に近い場にある大きく深い溜池にやって来た。その溜池の目立たぬ場所で古式泳法、ぷかぷかと浮かぶ、鍛錬をしているのである。


すると対岸に生活用水を汲みにきたと思われる女達おなごたちの一人が滑って転げ落ちたのだ。水汲みは年若いおなごが主に請け負っているからな。 


やれやれと仕方なしにその女を助けて岸に上がったら、女達は横目で恥ずかしそうにチラリチラリと見て、頬を赤くしているのだ。


何故だろうか? 首を捻ると、褌一丁だったことに気が付いたのであるっ! う、ちょっと、いや、かなり恥ずかしいのである!! 失礼した、と目を伏せながら、一目散に逃げ去ったのだった……。



______



「ちょ、ちょっと、水も滴るいい男っ!!」


「見た、見た?! あのお顔に、

 あのお美しい黒髪に手櫛を入れる仕草」


「「「もちろん!」」」


「恥ずかしげに目を伏せて『失礼した』だよぉ!」


「「「くぅ〜〜〜」」」」


「しかも、あのお後ろ姿………」

「「「ーーっ!!」」」



後日、細身で鍛えられた体、艶やかな黒髪、そして褌スタイルの絵画<溜池の君>が領都内で女だけではなく、なぜか男からも爆発的な人気となったのだった。


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