17.腹を括る
よく寝た、気分爽快なのだ! 白丸の抱き枕、ふわふわのもふもふの素晴らしきかな。
昨日は旅の疲れか、王都の疲れか、はたまた、従魔契約のなにかの疲れか、疲労困憊だったのだ。執事ジョセフ監修<おやつ>のラベルがついている袋から、適当に食べて倒れるように寝たのである。
ふむ、白丸はまだ丸まって寝ているのだ。体型の変化もあったし、俺よりもっと疲れているのだろう。起こさないように気を付けながら、荷物の整理を始めるとするか。
クラウス領都から送られてきた荷物の中に、母上からは母上選りすぐり……ど、独創的? 個性的な衣服の数々。多分、着ることのできる服も……きっと、何着かはあるのでは? と思う。
父上からは王宮魔術師だった祖父上の魔術本一冊。国境で砦の一つを守ってるラッセル兄上が砦の隠し扉から発見したそうだ。金銀財宝ではなく、魔術本だったと、残念無念の兄上の手紙付きである。
ジン兄上からは、おお、棒手裏剣だ! 試しで作ったから、後で感想を聞かせてと手紙にあるな。
他の荷物も整理しながら、部屋を整え、なかなかいい感じに落ち着いた。ふむ、これから居心地良く過ごすことが出来そうである。
腹が減ってきたので食堂へ行くことにした。
食堂は寮に隣接している3階建ての塔のような建物の中にあり、1階は初級、2階は中級、3階は上級生用と分かれている。
まだ始業前なので食堂には誰もいなかった。並んでいる料理から、好きなものを取って食べる形式で食べ放題のようだ。
好きなように好きなだけ皿に盛って、長い天板の食卓に腰掛けた。食卓は長い長方形で20人、30人ほどは楽に座ることのできる大きさだ。
そういえば、上級生は俺を含めて『20+1』の21人だそうだ。この不思議な『+1』は俺のような気がする……う、心配なのである。
うむ、支給された教本に目を通さねばな!
『難しかったら初級か中級へ移ればいいか、と言うか、移ることが可能か?』と真剣に考えていると、皿を持った男女の2人組みが俺の正面に座った。
「あら、初めて見る顔ね。あなたが噂の新入生かしら」
「……ああ、昨日、王都に着いた。ルーク=クラウスだ。宜しくお願いいたす」
いかん、緊張してしまったのである! 言い直して、
「というか、よろしく頼む」
「僕はルーベルク公爵の嫡男セシル=ルーベルク。こちらはナターシャ嬢。お父上はリンドル伯爵だよ。こちらこそ、よろしく」
セシルは金髪で青の瞳に目鼻立ちの整った爽やかな容姿で、ナターシャは小豆色だろうか? の髪に瞳で目が大きく愛らしい。
「ところで、なぜ噂の新入生なのだ?」
「決まってるじゃない。クラウス家だからよ」
「クラウス家は武術に秀で、戦闘に長けた名門。それに高名の王宮魔術師も出した一族だしね」
「そうよ、しかもあなたは初級と中級を飛ばしての入学だし、噂が出ない方が不思議だわ」
うぅ、裏口入学に魔術を使い始めて実質一月。このグッとくる重圧……た、大変なのである!
「少々、所用を思い出したので、し、失礼する」
執事ジョセフによる講義内容『寮食のハムサンドが美味しい』はしっかりと覚えていたので、昼、夜食+白丸分のハムサンドを貰って部屋に戻った。
白丸の様子を見ると気持ち良さげに丸くなって寝ている。起きたらすぐ食べれるようにとりんごを横に置いてっと。
よし、魔術の猛勉学だ。ここまできたら、腹を括るしかないのである!
最初に取り組むのは魔術本は2冊だ。
学院の魔術教本1冊。
祖父上の魔術本1冊。
それと付け加えで、白天さんに教えてもらった魔法の練習もだな。




