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侍領主でござる  作者: ケヤキ
第八章 助太刀
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124.粗方お役御免7ー般若の面

『是非にとも、あの御力『バシィィィーーーーン』一発を!!』


王太子と御仁に深々と頭を垂れて頼まれてしまったら……断れないのであるぅ。

____

__


捕らえられた旧国王らは魔術封じの手枷をされているのだが、災いの言葉を吐き続け、近寄る者を次々と寝込ませているそうなのだ。


大三郎が聞いた事のある呪禁師じゅごんし、呪文を唱えて邪気や災難、そして病を除去するのとは真逆なのである。 


気が乗らないのだが、願いを無下にもできず……。よし、バシっと一発でさっさと退散させてもらうのだ!



王宮魔術師の転移で北の城、旧国王らが幽閉されている塔の手前へとやって来た。


おほほぅ、これは冷え冷えとした古い石造りの、いかにもである……。高さは3階建ぐらいだろうか?


御仁の従者がギィギィーっと錆付いた塔の扉を開くと、中は吹き抜けで塔に沿うように石の螺旋階段があるだけなのだ。


御仁が振り返り、心配そうに口を開いた。


「使者様、この塔の上でございます。どうぞお足元にお気を付けを」

「ああ」


魔術が使えないこの塔では己の足で階段を上がるしかない。手摺もないこの螺旋階段、老齢の御仁の方が心配なのであるぅ! 


御仁の足元にハラハラしながら塔の階段を上り切ると、旧国王と高位の貴族と王宮魔術師だろうか? 10人程が魔力封じの手枷をされた状態で簡易牢獄の中にいた。



おほほぅ、いたいた、旧国王が。口汚く罵る元気はあるようだな!


「余にこのような仕打ち、呪い殺してくれるわっ!!!」

「父上………」



名高い能面師が彫り込む、嫉妬と悲しみと怒りの極限を表現した般若の面。おなごを模倣した面だが、それを彷彿させる表情をしている。


面と共に能面師のおもてを打つ時の凄まじい気迫、まるで魂を打ち込むように一彫り、一彫り打っていた姿を思い出す……。



い、いかん! 面のことに気を取られて、ぼーっとしてしまった。


新国王、いや、戴冠の儀は明日なので王太子だな。王太子ラズエルと御仁を辱め、激しく罵り続けているのだ。


ラズエルは死地に赴く騎士のように表情を引き締め、拳をぎゅっと握りしめている……。


それにしても、もう沢山なのだ。ハムサンドをたらふく食べた食後には良くなかった……。胃も気分もムカムカで大変なのであるっ。


これ以上聞いていたら、ハム……い、一大事なのだ!



「口を慎め、たわけが!!」

「「「ひ……っ」」」


湧き上がってくるの腹からの不快感を抑えることができずに大声を出してしまった。それに全力で懸命に努力している者を愚弄するなど、久しぶりの激おこぷんぷん丸なのだ。



だが、何故か皆の息を呑む音と度肝を抜かれたような視線が一斉に集まり、無音が重く塔の中に広がった。


「「「…………」」」


何気に結構長い時が流れたような? 変な顔でもしていたのだろうか? まあいいか。



さてと、般若だが、般若は元々は人間だ。己の業か。それともの生い立ちか、他の何かか。きっと斟酌すべき事もあるだろう……。


これは天にお任せなのである。



俺は俺の役割、『バシっと一発!』なのだ。それにしても、類は友を呼ぶ、だろうか? 10人もいる般若顔がガン首を揃えているのである……。うむ、なかなかの迫力なのだ。


しかし、10人か……10回のバシっは面倒だな……。


よし、ここはロアの玉座に取り憑いている? 守護している? 歴代王のラディス3世からもらった純金製の槍の出番だな!


ふふっふ、長さがあるので、ひとバシっで4、5人ってところだろう。


空間蔵から取り出したのだが、相変わらず光り輝く美しい槍だ。長い柄の先には鋭く尖った穂先があり、美くしい装飾に文様も刻まれている。


「おりゃぁぁーーー!」

片手でブンブン回転させて、後ろから何人かの背を纏めて一文字で叩く。


バシィィィーーーーン!!!


「「「うぅぅ………」」」



遠くでビックリして目をパチクリしている御仁が目に入った。


いかん、どうやら勢い余って御仁の従者達を叩いてしまったようなのだ……。後からだと、誰が誰だか分からんな! うむ、気を付けることにしよう。



よし、次! 


バシィィィーーーーン!!!

バシィィィーーーーン!!!


不思議な事に旧国王と他の者達は逃げ出したり、刃向かったりもせずにただ黙って叩かれているのである。ウルフスから貰った魔物を操る黒石。ひょっとして魔物だけではなく、魔者? にも効き目があるのだろうか?



良く分からぬが好都合である。よし、最後に特別扱いで旧国王一人に一発だ。


バシィィィーーーーン!!!


それにしても先程から、御仁達を叩いた時に感じた『蝿を叩き潰したような気分の悪さ』どころか、地にいる、み、み、何とかを叩き潰したような倒れそうな気分の悪さであるぅ。


うぅ、槍を立て、倒れないように必死に踏ん張っていると、黄金の槍に刻まれている文字の羅列が発光しながら浮かび上がった。


それが急速に回転をしながら、織りなす幽玄の世界。只々言葉を忘れて眺めていると、羅列が旧国王と10人の者達を縛り上げ、激しい閃光を放つ。


あまりの眩しさに目が眩み、暫ししてから慣らす様にゆっくりと目を開けると、驚く事に、そこには髪が真っ白で皺だらけの醜い老人達がいるっ。いや、見事なつるっぱげもいるな!


老人は老人でも翁のように目尻を下げて、笑みを浮かべた寿ことほぐ表情ではなく、真逆なのである……。


腰は曲がり、手足は痩せ細り、魔力も失った醜い老人達。大声で嘆き、狼狽えているが、きっとこれは天の恩情だ。若さに力、全てを削ぎ落とされた身で、己の行いを振り返る幾許の間を与えられたのであろう。



ふむ……俺の仕事はここまでだな。後は新国王と重鎮らで何とかするだろう。畏まり膝をついているラズエルに声をかける。


「ラズエル、後は任せた。明日の戴冠の儀に会おうぞ」

「はっ!!」


その眼差しに、人からならぬ決意が漲っていた。明日には新国王の誕生である!


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