13.森の中
朝が来たのである! 早朝に宿場町を出発して旅程短縮の為、森中を抜けることになった。
それがどうやら、旅人達は森を越えを避けて、迂回路の街道を進むようなのだ。理由を聞いてみたのだが、霧がかかる、何かが出るような感じがすると云うだけなのである。
ダンと俺はそのまま近道である森の古道を進む事にしたのだ。森は苔むした石畳が続き、巨大な木々が鬱蒼としげっている。
ふむ。これは大三郎のよく知っている古道の面影があるな! あの場所は巨大な大杉が立ち並び、近くによく滝行をした大滝があった。
冷たい澄んだ空気に森の香り楽しみながら先へと進むと、激しく地面でうねるような木の根や、倒木が見えてきたのだ。異界と現世が接するような……近寄ってはならない気配がするぅ。
いかん、この先は行かないほうがいいな! 大三郎の祖父上もこのような時は引き返すべし! と言い聞かされてきたのである。
よし、引き返すか、と思ったと同時に深い静寂が辺りに漂い、突然何も見えなくなったのだ。横に居たダンと五助、黒丸も消え、音のない世界が広がった。
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「客が来る予定はない」
「ーーーーっ?!」
どこからかは全く分からぬが、凛とした澄んだ声が響き渡った。こ、怖いのである!
すると一閃し、銀色に光り輝く女が現れたのだ! 銀髪で銀の瞳の美しい女だ。白布で手首から足首までゆったりと包み、腰には同じ白布を結んでいる。しかし、強烈な不機嫌顔なのだ……。
どこらかにいた白丸が突然庇うように俺の前に出てきたのだ。格好良いのであるぅ。
「お主か……合点がいった。だが、どうした? 落ちぶれたものじゃのう」
かなりつんつんしている女なのである。白丸とは旧知の仲のようだが……どうしたものか?
「「「…………」」」
暫し沈黙が続き、女がしぶしぶの不承不承の体で口を開いた。
「……まぁ、折角じゃ、茶をくれてやる。ついてまいれ」
白丸が女に続いたので、俺もその後を追うと、女の前に無機質な平屋が現れたのだ。
ここはどこだろうか? 夢でも見ているのだろうか?
「ふんっ、白魔とあろうものが落ちぶれたものじゃ。言葉も話すことができぬとは呆れすぎて、片腹痛いわっ!」
白丸は女と念話で話をしているようである。それにしても、かなり怒っているようにも見えるな!
「其方がルークだな。妾の名は白天、そして此奴は白魔だ。全く聞いて呆れるわ。此奴が森を歩いていたら、お前の母に攫われたと言うておるぞ」
ふむ。母上が犬と間違えて拾って、いや、攫って来たのであろうか?
「其方に妾からは何も話すつもりはない。白魔が力を取り戻せば、話すことができようぞ。いつのことか分からんがな! 白魔の願いが、お前に三つばかり魔法を教えてやって欲しいとのことじゃ。習いたいか?」
狐に騙されている? あ、いや狸? それにしても魔法には興味があるな!
「お教え願えるだろうか?」
「わかった。ならば教えてやる。有り難く思うが良いぞ」
白丸はいつもの短い両手を前に軽く添えて、2本脚で立って見学を始めた。
「お前に教えるのはの三つじゃ…………」
「おいっ、聞いているのか? この辺でメシ食おうぜ!」
上を見上げれば木々の間から青空が見え、風が爽やかに通り抜けた。
「馬に乗りながら寝るとあぶねーぞ!」
深呼吸をして、ダンに言う。
「もう少し先で、森を抜けてから食べよう」




