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侍領主でござる  作者: ケヤキ
第八章 助太刀
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Side イアン王宮魔術師2

「師匠、この茶はルクス村のルクス茶ですね」

「そうさ、ちょっと前にルークが沢山置いてってね」


院長室にあった茶は爽快な香りで、スッキリとした飲み心地の茶だ。ふ、懐かしい味だな。


「イアン王宮魔術師、その後はどうなったのですかっ?」

ダニエル元……いや、名誉回復を既に受けたので、ダニエル=ロア公爵だな。


「さあさ、話を続けておくれ」


茶で喉を潤していると、二人が矢継ぎに話の続きを催促する。どこまで話したか……。ルークが瀕死の状態までだったな。


____

__


瀕死の状態のルークに駆け寄ると、信じられない事にあの状態、息も絶え絶えの状態で転移したんだ。


『余程最後に会いたい誰かが………』



この後すぐに魔術で拘束され、気がついたら魔力封じの手枷をされて牢獄にいた。


思い出しても、鼻の奥がツーンとする。ルークの事もそうだし、真っ暗な牢獄で一月半も食料もなく樽にあった濁った水で命を繋いだんだ。


『確か、人は二月程度の絶食状態で死に至る。流石にもうそろそろだな……』


駄目だと覚悟した頃、ルークが突然現れて呑気な口調で『ここ、どこですか?』だ。


『あの世からルークが迎えに来たのか? 元気でピンピンしているところを見ると、あの世とやらはそんなに悪くはないらしい……』



だが、まだ生きたかった。やりかけの魔術の研究もあった。まだまだ、やり残した事が山ほどあった……。


確か、ルークにあっち行けっとか言ったか? 掌を添えられたのか、背の暖かい感じだけは、今でも鮮明に覚えている。



♢♢♢



何でそんな事に?! と驚きの表情を隠せないロア公爵に師匠が説明をする。


「そうなんだよ。私の代わりに捕まっちまってね。強固な結界に妨害されて、上位王宮魔術師らとでの救出作戦も失敗だよ。あの結界は現代魔術じゃなかったね。それ以上の……古代魔術か、何かだよ」


「結界の見解ですが、師匠と同意見です。ルークにどうやって結界を破ったのかと聞いたら、あいつ、『そんなの有りましたっけ?』でした……」


「はははっ! ルークに敵わないねっ」


腹を押させて大笑いしている師匠を見ていると、こっちも可笑しくなってきた。全く、あいつには敵わない。


「ははっ、笑いすぎて腹が痛いよ……で、その、その後はどうなったんだい?」



♢♢♢



長い間、意識がなかったようだが、心までもポカポカとした暖かな感じが何度もあった。今思うにルークが回復の光魔術を何度も掛けてくれていたのだろう。


ルークの家で意識が戻ったんだが、実に変な家なんだ。部屋の床で寝起きし、部屋の中央の床に四角い区切りがあって、そこに薪やら炭で火を熾すんだ。


何だったか……ああ、囲炉裏だったか。暖も取れるようになっていて、薪の爆ぜる音に火のゆらめきを見ているだけで心が安らいだ。そこは素朴でいて、居心地のいい空間だった。



具合がマシになるまでの半月程、そこで夢うつつ、寝て過ごしたのだが、ルークの家には従魔の色と形まで茄子で頬がピンクなのと、白毛で猫っぽいのと2匹がいた。


茄子ぽいのを最初に見た時に『変な茄子』って思わず言ってしまったんだが、泣きべそかいて部屋から出ていった。言葉を理解し、しかも話すんだ。



それとルークの領主館には目も眩む程の美人、藤子嬢がいた。言葉使いや物腰などを見ても、どこかの王女かそれ以上だな。利発で聡明、そして強い意志を目に宿していた。


ルークが息も絶え絶えで転移した場所は藤子嬢の元だったそうだ。ひょっとして、ルークが付き纏っているのでは? と心配もしたのだが杞憂のようだった。


藤子嬢も時折、愛おしそうにルークを目で追っていたので、相思相愛のようだな。


あれだけの状態からの回復が不思議でルークに聞いてみたのだが、茶を濁すばかりだった。ルークには守り神でもついているようで、それは藤子嬢ではないかと今でも思う。



他は強固な信頼関係で結ばれている代官や村のリーダー達もいて、ルークの補佐をしていた。かなりルークには振り回されてはいるようではあったが、口ではぶうぶう言うが嬉しそうだった。


多分、ルークに任され、頼りにされている事が誇りでもあるのだろう。


夜になると自然に囲炉裏部屋には村長やら村人やらが集まって、囲炉裏を囲みながら魚を焼き、皆に御頭と慕われて楽しく酒を飲み交わしていた。



よし、ルクス村の話はここまでだ。ルークと山奥に一月暮らしたことを話そう。


あの時はルークが斬られて、俺が牢獄に捕らえられてで……情報不足で何がなんだか分からなかった。ルクス村を巻き込みたくなかったので、念の為に村から離れた山奥で体の具合が良くなるまでルークと一月暮らしたんだ。



山奥は鮮やかな緑が目に眩く、風も心地よく吹き抜けていく。みずみずしい生命の輝きに何もかもがキラキラと……この日から、研究ばかりだった俺の見える景色が変わり始めたんだ。


居心地の良い陽だまりで、寝転んでは青空を眺めた。空一面に星々が煌めく静寂な夜、焚き火が燃え上がる様子は別世界のようだった。


そして、日々魚を釣り、露天風呂に浸かり、たわいもない話をし、子供の頃のような自由を心から楽しんだ。



ルークと共に過ごしていくうちに、天賦の才に恵まれただけのヤツだと思っていたが、それだけではなかったようだ。


早朝から普通の度合いを遥かに超えた鍛錬と剣の振りで『技を通して精神を鍛え、そして磨く』だそうだ。


木にぶら下がって動かないのを不思議に思って見に行くと、『指を鍛えてる』とか言って、よく見ると指だけでぶら下がっていたんだ。普通じゃないな!


剣も『正しい型を何千回かを繰り返し、体に覚え込ませる』だ……。1日でもサボると調子が崩れるらしい。当たり前だが難しい……自分なりの努力を最大限に尽くしていた。


____

__             


「名も無い土地へ行き、そしてロア国での使者を通して、あいつ、いつの間にか漂う雰囲気が只事ではなくなった。魔力が桁外れで瞳の色も水のように透き通るように煌めき、底が見えない」


既に師匠が言っていた次元が違う、格が違う、高みに立ったのだろうか……。


時折見せる、伏せ目がちにどこか遠くを見るような儚げな表情をする。まるでこの世の者では無いようにも思える。


「だが、あいつ、今でも変な歌を大声で歌ったりでうるさい! それに結構、行き当たりばったりの無計画。しかも大雑把で抜けているんだ。なんかあっても、『まあ、いいか』で受け流すしな!」


「まあ、そこも魅力なんだろう。ルークは成し難きを為す、何百年に一度かの逸材さ」


確かに師匠の言う通りだ。王に相応しい風格をも持っている。王になれば、国を豊かにし、民を幸せにすることができるだろう。



「ふふ、イアン王宮魔術師は心が決まったような顔をしておられますね」


「イアン、国造りの一人として名が刻まれる機会なんてほぼ無いに等しい。しっかりルークを支えてやんな」


二人は見通したように笑みを浮かべて言った。


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