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侍領主でござる  作者: ケヤキ
第八章 助太刀
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Side フレディ2

兄上、兄上、

フレディエル兄上……



ん……? 誰かの呼ぶ声が?


ここは、温かい……。日向ぼっこの様な温かさが、心にまで優しく届く。何もかもから解放されたような、心も身体も羽のようにふわふわと……。


もう少し……このまま、眠らせて下さい……。



「フレディエル兄上、もう、起きてくださいっ! ぷぷっ、不機嫌な時に口を尖らせる癖は変わってないのですね」


ここは? 煌めいていて眩しい。緩慢な瞬きを何度か繰り返して、やっと目を慣らすと、誰かが顔を覗き込んでいる……?


「ロディエル……ですか? ここは、気持ちが良いですね……。もう少し眠らせてください」


「ぷぷっ、兄上、まだ口が尖ったままですよ。兄上に一つだけ質問があるのです!」


「なんですか……ロディエル?」


現世うつしよに戻りたいですか?」


____

__


う〜ん、上手くいきませんね。何かコツとかあるのでしょうか? 


ふふっ、つい、煮詰まった時の癖で左右に数歩ずつ歩いては戻るを繰り返していました。これは誰かの助けが必要ですね。



あの時、ロディエルが言っていました。すべては理解できませんでしたが、天は全てを見ていて、天の采配で私は現世に戻る機会を得たそうです。


最終的に戻るかどうかを決めるのは私自身だと言われ、かなり、いえ、とても迷いました。


もし戻れるならば、過去に戻ってやり直したいものですが、それはできないそうです。あるのは今だけ、現世うつしよだけ。



ルークさんが前に言っていました。私ではないですよ! 


『この世は味噌くそ一緒だ』と、味噌は分かりませんが、この二つは似ているらしいです。


詳しく聞くと、玉石混淆ぎょくせきこんこうと同じ意味合いのようで、良いも悪いもが入り混じっているのがこの世だと。


それにしても、ルークさんの優れた美貌は羨ましいです。軽く遠くを眺めるように『くそ』と言っても絵になるのですから。



えーっと、話が飛んでしまいました。そう、纏めると良いも悪いも一緒くた、現世は楽ではないという事です。



友のダニーが『黒龍王の物語』というルークさんの本を執筆中で、前にチラリと見たのですが、『黒龍王の心に響く格言』の一節にありました。


『この世は味噌くそ一緒だ。その中でも楽しんで生きることが人生。くそが飛んできても掴んで投げ飛ばす、その覚悟が大事』だそうですよ。



そう、私も覚悟を決めました。くそは……できるだけ避けたいのですが、どうしようもない時は、どうしようもないですよね。


縁在ってめぐり逢えた人々と共に、精一杯生きることを楽しみたい。もらえた貴重な機会、全力で生きます。現世うつしよを楽しんできます。


ロディエルに『戻る覚悟を決めた』と伝えると、笑顔で頷き、続きの人生を楽しんで来るように言われました。



見送られた際に一度だけ振り返ったのですが、ロディエルの後には懐かしい人々が温かい笑顔で手を振っていました……。


祖父上、母上、幼馴染のクリスティナ、忠実な側近達や友に、国民だった人々でしょうか? それになんとなく懐かしさを感じる人々までも……。


『ふふっ、まるで旅立ちのようですね。沢山の土産話を持ち帰りますから、それまで見守っていて下さい』



そして、気が付いたら元の場所に戻っていたのです。あの北の城近くです。状況から見て、然程時は経っていないようでした。


ふふっ、皆に会う前にしたい事があったので、先ずは湖の隠れ家に転移しました。そして、今取り組んでいるのは変化へんげです!



戻るにあたっての問題が一つありました。体です。私の体は既に失く、あるのはあの変な顔のくまだけです。そこで、ロディエルから形を変える力をもらいました。


その力とは、人よりも遥かに高い知能と能力を持つ魔獣の力の一部で、体を人の形に変化する力です。


例えば、龍が人の形をとり、人として暮らしたりもしているそうなんです!


先程から、その力『くまから人の形へ』の変化を試みているのですが、これがなかなどうして、コツがあるようで上手くいきません……。


腰を据えて考えていると、ピーンと頭に浮かんだ人がいます。只者ではないと感じた魔物を統べるウルフスさん。あの底知れぬ金色の瞳……。


「転移」



「あぁ? おい、くま。ここは風が強いからふっ飛ぶぞ」

「は、はいっ、この、石に掴まるので、精一杯……」

「たくっ、世話やけんな。ほらよ」


首の後ろを摘まれて、ぽいっと寝床に投げられてしまいました……。もっと優しく運んでもらいたいのは贅沢、でしょうか?


「ルークが日暮れ頃に来て、この丸こい変な寝床と酒などを置いてった、と魔物共が言っていた。この酒、なかなか美味いぞ!」


「これは最高級のお酒ですね!」


既にほろ酔いのウルフスさんからお酒を勧められて、一緒に飲むことになりました。今日はとても良い月が夜空に浮かんでいます。


「ウルフスさん、月を見ながらのお酒は『月見酒』というそうです。ルークさんが言っていました」


「洒落た物言いだな。ところで、くま。お前、俺に何か用があるのか?」


何故かは分かりませんが、ウルフスさんなら私の突拍子もない話を理解してくれるような気がします……。


月見酒をしながら、私の300年前の話、この地に辿り着き、生涯を終えた話。ここでのルークさんとの出会いに、天? ロディエルの話。


ウルフスさんはただ月を眺めながら酒を飲み、私の話に耳を傾けてくれました。


「そうか。ここで死に、生まれるか。お前は果報者だな。お前が想像もできないほどの沢山の助けで、お前はここに在る。報いる為にも思いっきり生きろ」


「はい!」


ウルフスさんは自身の事は何も明かしませんでしたが、変化へんげの仕方を教えてくれるそうです。


「いいか、くま、お前は頭を使って変化しようとしている。お前は形を持たぬ魂だ。深くにある魂に語れ」


「………?!」


こ、困りました……さっぱり、わかりません! 一夜中、左右にうろうろしながら、試行錯誤です。


途中、飽きたらしいウルフスさんは笛を吹いたり、鼾をかいて寝ていましたが、朝日が昇る頃にやっと変化ができたのです!


酔いもありましたし、正直どうやって変化できたのかはさっぱり分かりません。でも、取り敢えず、大成功です!


「ウルフスさんっ! できましたっ!!」


手があり、指もあります。顔に両手を当てると目に耳に口に。髪も長いですが、腰までっ、えええぇ!


「はっ、は、裸っ?!!」


思わず叫び声を上げてしまうと、寝起きの不機嫌そうなウルフスさんから『あぁ? 裸の何が悪い?』と言われましたが……恥ずかしいのは恥ずかしいのですっ。


適当な服を空間庫から引っ張り出してから、ようやく一息です。


清涼の風に、陽光の温もりを全身に感じ、清々しい空気を目一杯吸い込む。陽射しで輝くような景色もまだまだ眺めていたいのですが、今は皆と取り組んでいる仕事に力を注ぎます。


それは名も無き土地での国造りです。


ふふっ、ルークさんはまだ知りませんが。



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