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侍領主でござる  作者: ケヤキ
第八章 助太刀
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119.粗方お役御免2ー只今接待中

1日しかないのだが、暫く会えていない者達への挨拶回りのような事をしてる。皆に久しぶりに会いたいのであるぅ!


よし、次はディアス王国にいるダニー達だ。居場所はジン兄上からの文で知っていたのだが、行き違いになってしまったようだ。


ロアの王太子、新国王だな。新国王の意向で、国外追放処分となったダニー達が名誉回復を受ける事になったのである! 財産も屋敷も戻ることになり、亡きお父上も浮かばれる事であろう。


ロア王宮からの迎えの者と既にロアへ発ったそうだ。うむ、後でロアで会えるな!



次は勿論、領地のブルクス領、ルクス村だ! 皆元気で過ごしているだろうか。逸る気持ちを抑えながら、領主館前へ転移である。ジョセフもいい歳なので驚かせると心の臓に悪そうだからな。


領主館の扉を叩くと見慣れぬがきちんとした装いの若者が対応してくれた。ジョセフが雇ったのだろうか?


「どちら様で御座いますか」


ほほぅ、なかなかの立ち振る舞い。さすがジョセフが雇っただけはあるな。


「ブルクス領、ここの領主だ。代官はいるか?」


驚きのあまりか、すっかり固まってしまった若者に一声かける。


「書斎にいるので代官を呼で来てくれ」

「は、はいっ、直ちに!」

一礼をした後に飛ぶような速さでどこかへ行ってしまった。


ふむ、と周りを見回すと勝手知ったる領主館だが、たった2月の留守でとても懐かしく感じるな。


うっ、書斎の机には山盛りの書類の束がある……。仕方ない、一仕事するか。一枚一枚、目を通して署名を次から次へとしていく。


しばらくして、あの若者と共にジョセフが高速スタスタ歩きでやって来た。おほほぅ、何気ない素振りで上半身はゆったりと、足だけが高速回転なのである!


うむ、お手本のような高速スタスタで、流石ジョセフなのだ。ジョセフが一礼して顔を上げると、目を大きく見開いて固まってしまったのである。いかん、適当な装いがまずかったか?


ジョセフが目配せをして若者を下がらせた。


「ジョセフ、元気にしていたか? 釣具の六本継竿ろっぽんつぎさおは気に入ったか? 別々の竹を組み合わせてピッタリ継げるように、調子や長さ調整に苦労した」


「は、はい。するりと手に馴染み、アタリの時の手応えが格別で、こう、くいっと、ではなくて、その瞳は如何なさったのですかっ? 濃い青空から透き通ったような薄い青空……薄水色と言いましょうか……」


「これか、これは色々とあってな。視界には何も問題がないので気にしないでいいぞ」


「さ、左様でございますか……」

ジョセフは梅干しを食べたような変な顔をしているが、まあいいのである。



んん? そんな事より、何か言い忘れてるような……。

「ああ! 山羊だ。 山羊やまひつじではなく、山羊ヤギだということを家畜担当のボブに伝えてくれたか?」


「その件でございましたら、皆存じております。領主様が山羊やまひつじだとおっしゃるので、皆で山羊やまひつじと呼んでおりました」


(えええぇっ! は、恥ずかしぃ……そんな変な気遣いは不要なのであるぅ)



「と、とこ、ところで藤子と藤丸に白丸はどうしている?」


わらしが何か隠しているようなニカッと笑顔を浮かべているジョセフなのだ。


「領主様のお誕生日が直ぐでございます。藤子様は準備の為にと、ここ十日ほどお出になられておいでです。もう、数日もしたらお戻りになられるかと」


使者やらですっかり忘れていた。祝ってくれるという気持ちだけで十分なのだが、嬉しいものだな。


ニヤける顔を抑えつつ、明日の昼過ぎにはロアに戻る旨を伝えると、さすがは凄腕代官ジョセフなのである。


時を考慮してのルクス村の報告がチャキチャキと始まった。全ては特に問題なく順調。取り組んでいる村の整備に、採鉱は戻った際に視察する運びとなった。



そして最後にジン兄上の話である。俺宛に鷹文が届き、ジン兄上が森中の隠れ家にしばらくいるので、一度顔を見せに来るようにとの事だ。


直ぐにジン兄上の元へ行けるよう、昼食にと出されたルクス茶と塩漬け肉サンドを頬張り、ジョセフが予め用意していた急を要する書類の束に目を通して署名を済ませた。



よし、ジン兄上の元に転移なのだっ。


おっと、その前にと。先ずは防御の術式を十分なほどの重ね掛け、それとジン兄上から十分な距離を取った空中に転移しなくてはな。


下手にジン兄上近くに転移すると本当に命が危ないのであるぅ!


ジン兄上は母上に似たクセ毛で栗色の髪に瞳、柔らかい印象の品のある顔立ちなのだが、父上の治めるクラウス領の陰の諜報活動集団、精鋭集団を一手に取りまとめる頭である。うむ、十分気をつける事としよう。


「転移」


うほほほぅーー! ヒューーィと殺気と共に幾数の矢が複数の方角から飛んで来た。刀を手に転移して大正解なのであるぅ。飛んでくる矢を叩き落とすようにしながら声を張り上げる。


「ジン兄上! ルークです!!」


すると時が止まったように物音一つしない間が続き、複数人が場を引く気配が僅かながら感じられた。


ひとり木の陰で恥ずかしそうにモジモジとしているのが、ジン兄上なのだ。そう、少し恥ずかしがり屋さんなのであるぅ。



「ジン兄上、お呼びとのこと、馳せ参じました」

「…………」


うむ、相変わらずの声の小ささなのだ。読唇術でっと。


『あのね、ルクス村は山に囲まれて、お湯も湧くって聞いた。怪我をした部下とか、訓練が必要な部下の面倒を見てもらえるー?」


兄上の頼みは断る事など出来ぬ。ふふっふ、それに頼られたことがちょっぴり嬉しいのであるぅ。勿論二つ返事なのだ。


ふむ、確か兄上は一度もルクス村に足を運んだ事がないな……。


「ジン兄上、もし宜しければ下見も兼ねて、これからルクス村へ行きませんか。夕食後にはこちらまでお送り致します。勿論、後の岩陰にいる3人とご一緒で」

「…………」


おほぅ、ジン兄上はやはり格好いいな。腕を自然に下ろしているのだが、指先で印を組み、部下へ指示を出す。瞬きほどの間に調整が終わったようである。


『分かったー。行こうか』

その一言が終わる直前には、ジン兄上の後には3人の部下が膝をつき控えている。


「転移」


また領主館前の扉を叩き、ギョッとした顔の若者に迎え入れてもらった。久しぶりにジン兄上に会えて嬉しそうなジョセフに村長や傭兵団長との段取り等を整えてもらう。その間にそう、ひとっ風呂である!


兄上の部下達は領主館の若者に任せ、この2月の間に完成した客人用の露天風呂に兄上と向かう。


恥ずかしがり屋の兄上用に大判の手拭いを用意した。柄は数匹の川魚である。本当は扇型の大海原を表している縁起もの、青海波せいがいは柄が好きなのだが、染めはなかなか難しく試行錯誤中なのだ。


今回はこれで我慢してもらってっと。

「兄上、全て脱いで、これを腰に巻い………?!」


後を振り向くと、いるはずの兄上がいないのであるっ! 


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