117.助太刀参上26ー見得を切る
ちびっ子院長先生の『好きにしなっ』のお墨付きをもらったので海に行く事にした。疲れを取りたいのもあるし、なんと言っても魚の塩焼きを食べたいのだ。
共に海に来たイアン先生は独特の泳ぎ方? 浸かり方? で海を楽しみ、フレディは行方をくらまし? で銘々好きな事をして過ごしている。
俺は疲労困憊で少し眠りついたのだった。
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ふんふんと香ばしい焼き魚の匂いで目が覚めた。昼過ぎに来たのだが、もうすっかりと日が暮れている。イアン先生とフレディは魚をつまみに酒を飲み交わしていたようで、既にできあがっているのである!
「おい、こっちへ来いっ、師匠とだし、いや、でし、弟子か? 酒を飲み交わすぞ!」
「ル〜クさん、こっち、こっち」
そうそう、フレディなのだが、驚く事に食べる事ができるのである! 口から食べたものはフレディの体にある光の玉に入り、消えていく。しかし消えていく過程で味覚を楽しむ事ができるそうなのだ。
それにしても香ばしい焼き魚を一口に、キリリと冷えたロアイ酒一口。
「カアァーー、うまいっ!」
すっかり、おっさんなのである……。
うむ、景色良し、食良し、語らい良し!
「ルーク、お前も『使者』が終わって肩の荷が下りただろうっ」
「いえいえ、ルークさんは明日いっぱいまでは使者ですよぉ」
えええっ?! いかんっ、今日までだと思っていた……。念の為、指を使って数えると、後1日残ってるぅぅ!
「お前、なんでそんな余裕あんだっ?」
ひょっとして、酒飲んでる場合ではなかった? 気分良く酒を飲み交わしていたら、突然頭を叩かれたような一撃であるぅ。
「け、景気付けです? イアン先生、ロアでやり残した仕事は何だと思われますかっ?」
「北からの魔物かぁ?」
ふふっふ、何をやり残したのか忘れたのであるぅ。イアン先生の発言に対して、フレディが短い手を上げた。
「はいっ! 北の魔物のあーたらこーたらは間違いだと思われます。ウルフスさんに聞きました。北には魔物ではなく、長い年月を生きている魔獣。人よりも高い能力を持ち合わせているので、人なんか相手にもしないって、ですっ」
おほほぅ、ダンジョンを移したので魔物は解決だなぁ。
「そうか、まだあるっ。ロア国王の呪詛と怨念がなんとかで、魔術師や魔術学院の関係者が囚われている。ちっ、全く面倒臭せー国王だっ」
この酔っ払いのおっさん、イアン先生は赤い顔で舌打ちをし、面倒臭せーを連発している。フレディはと言うと、ボケーっと星を眺めているのである……。
「そういや、知ってかっ? ロア国王が今いる北の城。陰気を城にしたらこんな感じって城だっ」
フレディも俺もその陰気を城にの件に興味津々なのである。一体どんな城なんだ? 二人で色々とイアン先生に聞いていると、『見せてやるっ』でちょっくら転移で見に行くことになったのだ。
「おい、やばそうだったら走って逃げんぞっ」
「私、走れません!」
イアン先生の発言にどうやら足が短い事を気にしているらしいフレディがキレ気味の異議申し立てであるぅ。
結局、いざってときは俺がフレディを抱っこする事に落ち着いたのだ。
『転移っ』指を鳴らしたイアン先生の転移でその陰気の城近くの山頂に並び立つ。
うほほっ、霧がかって城の一部しか見えないのだが、闇夜より尚暗く、どんより雰囲気の城は眺めているだけで気が滅入るぅ!
「うわー、本当に陰気を城にした感じですねっ!」
「だろう?」
場に似合わない酔っ払いフレディの明るく元気な声に、ドヤ顔でカッコ良くキメたイアン先生なのだ。
「んん? イアン先生、霧から外れた東に豆粒ぐらいの空飛ぶ船がありますよねっ?」
「お前、よく見えんな。若さか?」
どうも様子がよろしくない。一時撤退の様相なのだっ。
「よーし、イアン先生、使者の仕事をちゃっちゃとしてきますっ。すぐ戻りまっす!」
くるりっと後を振り向き、フレディに声をかける。
「ふふっふ、フレディくるのだぁ」
有無を言わさず、フレディをサッと抱っこするとバタバタしていたが、気にしないのである。そして、うりゃっと上空に飛行なのだ。
うほほぅ、下を見ると巨大な黒霧が意志を持っているかのように右へ左へと蠢いている。
「フレディの元側近バーモンの時と同じ要領でこの辺りを浄化するぅ。岩は既に準備してあるのだっ」
「はい?!」
フレディの元側近バーモンは怨念を抱えたままにこの世に留まり、ビリー王子に取り憑いていたのだ。
あの時は元側近バーモンとビリー王子を分離。そして怨念とバーモンを分離した。
残った怨念は古代遺物と言われる巨大岩の一部へと移し、重荷を下ろしたバーモンは剣カミツルキの光で穏やかに消え去った。
今回は前回とは違い、巨大岩の一部ではなく、どどんと巨大岩半分を使う。
「岩? 2つに割れた片方の巨大岩はダンジョンの下敷きになったのでは?!」
「ふふっふ、こっそりと拾ったのだぁ。よし、城の後方には人がいないのは把握している。フレディ、手を離すぞ」
フレディは俺の腕から離れて、宙に浮かびながら口を開いた。
「それは、拾ったとはいいませんっ!」
「いくぞ、フレディ! 上手くいったら元側近達に声を掛けてやってくれ」
空間から巨大岩を浮かべ、渾身の力でその後方へと投げ落とした。
ドドド、ドドドーーーーッン
阿吽の呼吸でフレディが古の詠唱を唱え始め、この世の者とあの世の者を分離する。
俺は俺の仕事だ。分離された怨念に瘴気を巨大岩へ移す。
「杖、召喚『豆』」
「黒魔法、『吸引』」
黒魔法を使い磁石のように怨念を引き寄せ集め、杖先で巨大岩を指し示す。前回と同じで岩は面白いように瘴気も怨念も全て吸い込んでいく。
全てての瘴気と怨念が消え去った頃、城の隅々まで聞こえるように声を張り上げた。
「フレディエル王子、縁者の者よ。現れよ!」
すると、フレディの周りに14、5人程が膝をついた姿勢で現れた。既に怨念から解放され、元の姿に戻っている。それはまるで夜叉が人に戻ったかのようだ。そして、フレディも以前の姿に戻っていた。
初めて会った時にフレディは言っていた。
『私に心から仕えてくれた側近もいました。しかし、私と同じで王族達によって追放された者、又は命を奪われた者、不遇な対応を受けた者達がいた事でしょう。現世でもその者達が怒りと怨念を抱え、無念を晴らすべく、荒れくるうのです。私にはその者達を救う責務があるのです』
縁者を救うという責務から、今をもって解き放たれたのであろう。
フレディは威儀を正し声を上げる。
「皆の者、苦労をかけた。其方達の忠義、このフレディエル、未来永劫忘れはせぬ」
そう言うとフレディは一人一人の顔を見ながら、名を呼んだ。皆も泣いていたが、フレディも泣いていた。
そして最後の名を呼び終わった時にフレディが俺を見て静かに頷く。
「顕現!」
剣カミツルキを天高く掲げると、カミツルキから暖かな黄金の光が溢れ出て城ごと柔らかく包み込んだ。
「浄化」
すると辺りは鋭い陽射しのような閃光が発する。夢か幻かと思う程の刹那に城を残して全てが消え去ったのだ。そして凛とした静寂だけが広がった。
ふぅー、深呼吸をして気を落ち着かせる。俺は粛々とすべき事をするだけだ。
東に浮いているボロボロの船が5艘ほどある。手ひどく国王にやられたようだ。
うむ。真剣にいくのだ。ラディス3世の信頼を裏切っては男が廃る。見得を切るのである。ラディスから歴代王の威厳の為にと貰った白絹の衣服を纏い、金龍の豪華な刺繍帯をキリリっと締める。
王太子が乗っているだろう、一番大きな船にラディス3世から渡された燃え盛る黄金の槍を持ち降り立った。
皆の息を呑む音が聞こえ、一斉に跪く。見下ろすと腕の立つ王宮魔術師に魔術騎士達もいる。後はラズエル、そしてビリーに任せれば大丈夫だろう。俺の代わりにロア王の尻を蹴飛ばしてもらいたいものだ。
「勝利は我ら手にある! ラズエル、後は任せたぞ!」
「はっ!!」
ワッと皆の鬨の声が上がるのを耳にイアン先生の元へと転移した。ふぅ、燃え盛る槍で木製の船を燃やしてしまったら……と内心ヒヤヒヤしていたのであるぅ。




