12.宿場町
昼食の後、ダンの『ちょっと、休もうぜ。朝から馬に乗って尻が痛えー』で、少し休憩を挟むことなった。
ダンはひょろっとした若木の影に上手く入り、両掌を頭の下で組んだ姿で寝転ぶと、直ぐにイビキをかき始た。馬の黒丸達は青空の下で草をのんびりともぐもぐ食べている。
ふむ、暇なのである。膝に乗っている白丸に向こうで弓の練習をしてくると声を掛けると、どっこらしょっという感じで膝から降りたのである!
犬も言葉を理解するっと聞くし、狸もそうなのか? これは母上が言っていた『犬も狸も同じ』はあながち間違いではなのかもな。首を傾げながら、弓の練習をしていると、ダンが起きたらしい。
黒丸に荷物を乗せていると、すぐ横にダンの愛馬がいる。近くでよく見るとダンの馬もダンと同じで前髪がモコモコ、愛嬌のある顔立ちにぽっこり腹で短めの脚。
(よく見るとダンに似ているな!)
頭の図式は『 五助 = ダン = ダンスインザカメハメメハ 』
思わず笑みが出る。
「ダン、ダンスインザカメハメメハは名が長くて呼びづらい、短く五助はどうだ?」
「駄目に決まってるだろうっ」
「ふむ。一度呼んでみるか。どっちが好きだ?」
ダンスインザカメハメメハの方を向いて声を掛けた。
「ダンスインザカメハメメハ」
「……………」
そっぽを向き、知らんぷりだ。
「五助」
「ぶひぃーぶひぃー」
鼻で音を出し、首も縦に振る。もう一度ダンがしても、結果は同じだった。
「何だよー、もうー」
うかない顔のダンを残して、今日から五助になったのである。
少し予定より遅れて、日暮れ間際に宿場町に到着した。宿場町は街道が整備されて発展した集落で、街道を行き交う商人や旅人でとても賑やかだ。
街道には石畳が敷かれ、街道入口には旅人向けの茶屋、そして街道沿いには石造りの二階建の建物が隙間なく連なり、中小の宿に高級宿、食堂や商店まであるな!
ここはルークの人生でも初めての場所だ。ダンも同じだが、物珍しく、入口から見て回っていたら、宿場町の端まで来てしまった。ちょうどそこに宿屋があったので、一晩泊まることにした。
今夜の宿はトマト絵が目印の『メリーの食堂と宿』は感じの良い古い石造りの二階建で、一階に家庭料理の食堂、二階は宿屋になっている。女将は元気いっぱい、日に焼けた肌の向日葵の花のようなメリーさんだ。
旅籠のように食事付きではないが、食事は一階の食堂で食べることができ、部屋は小さいながらも清潔なベッドが二つある。そして、黒丸と五助は食堂の裏にある小屋で一晩過ごすこととなった。
腹が減ったので部屋に荷物を置いて、早速、一階で食事をとることにした。居心地の良い小さな食堂で、テーブルには赤と白の格子柄の布が引かれている。
旅人は日暮れ前には宿に着き、すでに夕食を済ませた後だそうで、食堂には俺とダンの二人だけだ。メニューにある
『トマト好きメリーさんのオススメ! 肉と野菜のトマトスープ〜美味しいよ!』のスープとパンを注文した。
暫しして、メリーさんが運んできたスープはコトコトと煮た柔らかな肉にたっぷり野菜で美味しそうだ。匂いからして美味いと判るが、一口食べてみる。
「「美味いーーっ!!」」
自然な甘みと酸味で実に美味いのであるぅ。空きっ腹に、疲れた体に染み渡る味なのだ。香ばし香が漂うパンももぐもぐと食べているとメリーさんが聞いてきた。
「兄ちゃん達はどこまでいくんだい?」
「王都までだ」
メリーさんは腰に両手を置き話を続ける。
「それじゃ、あの森を越えないといけないね。迂回路の街道を行くんだろう?」
「いや、旅程短縮で森の古道を進む予定でいるが」
王都で入学準備もあるので、早めに着きたい。古道を行くと2、3日短縮できる。
「うーん、森深くに何かが出るってことで、旅人は迂回路へ行くんだけどね。勧めないけどねー」
領都でもこの話は聞いていて、特に被害を受けた者はなく、噂の領域だった。『幽霊の正体見たり枯れ尾花』だろうか? ここまで来る途中にダンと話し合って、森の古道を進むことにしたのだった。
「おうよ、俺は王都の騎士学院に入学だし、こっちは魔術学院だ。何か出てきても大丈夫さっ!」
「そうかい? 森がよく霧がかるそうだから、気を付けていくんだよ」
「おうっ!」
部屋にいる白丸が喜ぶかとパンを一つ貰い、その夜は疲れと相まって早めに寝た。
朝が来た!
翌朝はぐっすり寝て疲れがとれたが、ダンの尻は違うらしく『寝たら、もっと尻が痛てー』と大変そうだ。
部屋の窓から外を見ると同じく早朝に旅立つ旅人が多く、朝の眠そうな顔で静かに荷造りをしている。
一階に降りて、メリーさんに昨夜頼んで置いた朝食の包みを受け取った。中はゆで卵に野菜と鶏肉のパンサンド、トマト入りだそうだ。
一期一会、トマトのメリーさんに感謝を告げて旅立った。




