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侍領主でござる  作者: ケヤキ
第八章 助太刀
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115.助太刀参上24ーどっこらしょっ!

魔物の流行病は狂犬病とほぼ同じ症状である。狂暴で攻撃的、見境なしに咬みつき、そして新たに咬まれることで病が広がっていく。


病の連鎖を断ち切る為にこの地域を統べる者、ウルフスが腹を括った。

____

__


ひ、疲労困憊なのだっ。夥しい量の血を浴びて血だらけのまま、ウルフスと二人で大の字で寝っ転がりながら、『尻を咬まれそうだった』、『いや違うぞ』と言い争いの後に、只々岩の冷んやりで涼んでいるとイアン先生とライアン騎士が駆けつけてきた。


「ルーク!!」


イアン先生は倒れるのではないかと心配になる程、顔色が真っ青だ。そうだった。ここで斬りつけられて、死にかけた事があったな。あの時もイアン先生が真っ先に駆けつけてくれたのだった。


先生は俺達が無事な事を確認すると、今度は顔色が真っ赤の激おこプンプンに小言ブーブーになってしまったのであるぅ。


かなりブーブーと色々言った後にやっと締め括りである……。

「師匠の俺様にまた心配掛けさせやがってっ! 小言は後でまたたっぷりだ。今は後の事は任せて、少し休憩しろ」


このままの血だらけでいると、老齢の王宮魔術師が驚いて倒れでもしたら大変なのであるっ。返事を返してウルフスと転移した。



そう、恒例の海である!


ウルフスは海を見ると目にも止まらぬ速さで飛び込んだ。泳ぎはあの頭だけ水面から出して、手足をバタバタして前に進む『犬かき』なのだが……。


「おい、でっかい湖だな!」

「これは海っていうんだ」


暫ししてから白玉の寝床で少し休む事にした。


ふぅ、緊張感が続いていたが、海のお陰で体が軽く感じる。波の音を聴きながら……ゆっくりと海の底に沈んでいくかのように意識が手放した。



「うおおおぉぉ〜〜〜〜んっ!!」


び、び、吃驚したのである! な、なんだ?! 慌てて体を起こして周りを見回すと、隣で寝ていたウルフスがいない?


寝床の白玉から飛び出すと、仁王立ちのウルフスが海に浮かぶ月を見つめていた。聞くと気合を入れる為の気合の声だそうだ……。うむ、気合の入れ方は、人それぞれである……。


すっかりと目が覚めてしまったので、狂犬病は咬まれてから症状が出るまで一月、三月もふまえて、これからの事をウルフスと話し合った。


「よし、すべき事は決まったな。戻るとするか?」

「あぁ、気合の声、次はルークの番だ!」


(えええぇ?!)


困ったのだ……鬨の声なら『えい、えい、えい、おー』だろうか? だが、どちらかというと『どっこらしょっ!』の方が気合が入る。結局、月に向かって『どっこらしょっ!』と声を上げるハメになってしまったのであるぅ……。



寄り道してからイアン先生達がいる場所に戻ってきた。おおっ、坑道内はすっかりと片付いている!


「し、使者様! お二人、ま、まるで剣舞のようでした! 上下、右左と身を捩り、空中で回転しながらの連携。超越した剣術に震える思いです!!」


全速力で駆け寄ってきたのは落武者の髪型、鼻息荒いマリーである。


そう、フレディとマリーはイアン先生達より前に駆けつけていたそうだ。下手に入ると連携の邪魔になり、足を引っ張るからと、遠くでいつでも手助けできるように様子を見守ってくれていたのだ。


「惚れ惚れするほどの重心の分散、足捌き、打突の冴え……」

続くマリーの話はウルフスに任せてっと。


周りを見渡すと最初の俺を含めた5人にウルフス、ちびっ子院長先生と5人の王宮魔術師、計12名の全員集合だ。おっと、遠くにみえる海苔巻きくん達を忘れていた。


坑道で見つけたよく分からぬ2人を厚手の布で頭と足のつま先が出るだけのぐるぐる海苔巻き状態した、海苔巻きくん達である。


よし、とにかく12名が揃っているのは都合が良い。皆にこの辺りを統べるものとウルフスを紹介した。そして、計画を説明をする。


「「「………!!」」」


皆、面白いほど口をポカンと開けて呆然としているのである!


____

__


ウルフスと海にいた時だった。爽やかな潮風を全身で感じていたら、なんだか面倒臭くなったのであるぅ。


「ウルフス、ロア国王の魔物を使った呪詛やら呪いやら実に面倒臭い。あの廃鉱山、ダンジョンを一時移動させてもいいものだろうか?」


「あぁ、一時移動? そうだな……何か問題が出たらその時に考えるか。どこに移動させるのだ? 黒の森は駄目だぞ、あそこは他の統べるものがいるからな」


「それなら、誰の土地でもない『名も無き土地』はどうだ? 孤立した砂漠の真ん中だ」


「あぁ、分かった」


大雑把と大雑把が組むと、無敵のとんとん拍子である。そう、寄り道の一つはフレディが居た巨大岩の辺り、名もなき土地をウルフスに見てもらった。


____


「し、し、使者様、ダン、ダンジョンを移動? 名も無き土地へ?」

「ああ、協力してもらえるか?」


「「「………!!」」」


また、ポカンである。驚きのあまり言葉が出てこない?


今だ口を開けてポカンとしている皆をウルフスが睥睨する。例の金の瞳で射るような視線だ。うむ、あれはなかなかグッとくるものがある。今度はウルフスの威圧でとんとん拍子なのだ。


そして丑三つ時には全ては整った。ダンジョンの周りには王宮魔術師の四人と王女マリー魔術騎士にライアン騎士。名も無き土地には高名の王宮魔術師一人にちびっ子院長先生。


ダンジョンの方が王都に近いので、もしもと後処理に備えて人数を多めに配置した。



よし、やるか。闇夜に浮かぶ俺の横にはウルフス、イアン先生、フレディだ。


「ルーク、オレの準備は終わっている。高みの見物と洒落込む」

ウルフスはそう言うと転移した。


残された三人で頷きを合図にフレディが古の詠唱を唱え、巨大な金色に輝く術式を展開。集められた魔物がいる中心部分を残して、順を追いダンジョンを折り畳んでいく。


そして、その上に俺も古の詠唱を唱え、多重展開魔術陣を重ねて……


「どっ、どっこらしょーーーーっ!!!」


低いメキメキ、軋む音がする中をゆっくりとダンジョンを浮かばせていく。うほほぅ、ズッシリと痺れる重さなのであるーーっ!!


四人の王宮魔術師は補助を、イアン先生は風の術式で微調整をしながら安定を保つ。下から押し上げるかのような風の流れで瞬時に調整をとる。この卓越した風の術式はイアン先生にしかできないだろうな。


ここにる七人の魔術師が力を合わせ、術式と術式が合わさり、爆発するような迸る光の奔流に包まれた。


刹那、フレディの優れた術式で名も無き土地の巨大岩近くに転移した。待ち構えていたちびっ子院長先生、王宮魔術師の力も借りる。


「どっ、どっこらしょーーーーっ!!!」


気合いを入れながら、ゆっくりとダンジョンを下ろしていく。上げるよりかは下げるほうが調整が難しい上に気も力も使う。


そして、静かにダンジョンは名も無き土地に鎮まり、フレディの折り畳み解除の術式を眺めながら意識がふっと遠のいた……


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